東京・春・音楽祭の毎年の目玉であるムーティ指揮のオペラや演奏会。残念ながら、今年はオペラ上演はありませんが、恒例の春祭オーケストラの演奏会はイタリアもののオペラ曲と管弦楽曲で固めた垂涎のプログラム。
ステージに現れたムーティは今年84歳になるとはとても見えないしっかりとした足取りと姿勢。登場とともに、ホールに大きく暖かい期待感一杯の歓迎の拍手とともに、ステージ上には緊張感も走ります。
前半はオペラの序曲や間奏曲。勇壮な<ナブッコ>の序曲で始まり、その後は優しく、柔らかい間奏曲が続きます。ピシっとしまったナブッコは想定の範囲内ですが、《カヴァレリア・ルスティカーナ》や《道化師》の甘い間奏曲でもムーティが振ると溶けるような甘さの中にギリギリの張り詰めたものが感じられるのが不思議です。本当に純度高い良い音楽を聴かせてもらっているという幸せな気持ちで充たされます。
尻上がりに熱量が上がり、《運命の力》序曲は超弩級の演奏。ジュニアオールスターズとも呼べるN響の郷古コンマスのリードの元、ホールの空気が揺れているのが分かるほど、造形は崩れることなく圧倒的なパワフルな演奏でヴェルディを堪能。
後半のトップバッターのカタラーニ、コンテンプラツィオーネは初めて聴く曲でしたが、とても優しく美しい音楽。そして、フィナーレのレスピーギの交響詩《ローマの松》は 圧巻でした。第一曲冒頭から万華鏡を見るようなきらめき輝く音色に胸を鷲掴みにされる感覚です。カタコンペに眠る死者たちの深い唸りのように聴こえてくる第二曲。そして第四曲の堂々として自信に満ちた〈アッピア街道の松〉。まさに古代ローマ軍の凱旋行進のようでした。
春祭オケは、ジュニアとは言っても、私が知っているだけでも、日本の主要オーケストラで活躍している演奏家が多数参加していて実力は保証付きでしょうが、そんな日本のエリート若手音楽家も、「この機会を逃すまじ」というかの如くの気迫で、必至にムーティにくらいついて行くのが分かる演奏。聴く者にとっても、オケがから発せられる音が体に刻み込まれる様な至高の音楽体験でした。
カーテンコールは凄まじい拍手。何度も呼び戻され、最後は腰を曲げて老人アピールをして退場。年齢を重ねても元気な指揮者は沢山いますが、ムーティほど老いを感じさせない指揮者はそうはいないと思います。来年も元気に来日して欲しいです。
2025年4月11日 [金] 19:00開演(18:00開場)
東京文化会館 大ホール
指揮:リッカルド・ムーティ
管弦楽:東京春祭オーケストラ
曲目
ヴェルディ:歌劇《ナブッコ》序曲
マスカーニ:歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》間奏曲
レオンカヴァッロ:歌劇《道化師》間奏曲
ジョルダーノ:歌劇《フェドーラ》間奏曲
プッチーニ:歌劇《マノン・レスコー》間奏曲
ヴェルディ:歌劇《運命の力》序曲
カタラーニ:コンテンプラツィオーネ
レスピーギ:交響詩《ローマの松》
Riccardo Muti Conducts Tokyo-HARUSAI Festival Orchestra
April 11 [Fri.], 2025 at 19:00(Door Open at 18:00)
Tokyo Bunka Kaikan Main Hall
Conductor:Riccardo Muti
Orchestra:Tokyo-HARUSAI Festival Orchestra
Program
Verdi:“Nabucco” Overture
Mascagni:“Cavalleria Rusticana” Intermezzo
Leoncavallo:“Pagliacci” Intermezzo
Giordano:“Fedora” Intermezzo
Puccini:“Manon Lescaut” Intermezzo
Verdi:“Forza del Destino” Overture
Catalani:Contemplazione
Respighi:Pini di Roma