その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

秦正樹『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』 (中公新書、2022)

2022-12-20 07:42:26 | 

『陰謀論』について知り、自分が巻き込まれないようになるため手に取りました。

サーベイ実験をもとに陰謀論の信じやすさと様々な因子との相関や因果関係を統計的に分析・考察することで、(主に日本における)陰謀論についての理解を深める内容になっています。「リサーチメソッド」については学生時代に結構叩き込まれたので、調査方法や統計処理そのものにも関心はあるのですが、今回は結果・考察部分に集中して読みました。

私としての学びは2つ。

一つ目は、基本的なところで、「陰謀論」を考える上での枠組みの整理ができました。例えば、陰謀論とフェイクニュースの違いは「検証可能性」にある(p7)ということ。また、陰謀論者には、本人の社会的・人間関係的な問題と結びついた思想信条による「政治的動機」にもとづくものと、陰謀論サイトを運営して広告収入等を得ることを目的とする「経済的動機」を区分して考える必要があるということ。言われてみれば当たり前の話ですが、結構ごっちゃにして新聞記事とか読んでますね。

もう一つの学びは、このサーベイ実験での知見の数々です。そのいくつかを抜粋します。

・ヤフコメ・民放の報道番組は陰謀論的信念の高さと関連するメディアであり、NHKや新聞、ツイッターの利用頻度の高さは陰謀論的信念の低さと関連している。(P64)
・SNS悪玉論の一方で、ツイッターの利用はむしろ、陰謀論的信念の低さと関連している (p81)
・SNSが陰謀論の温床というのは、第三者効果による私たちの思い込み(「私は陰謀論に騙されやすくはないが、多くの人は陰謀論に騙されやすいように感じる」)という心理傾向によるものである可能性が高い(p214)
・保守・右寄りの人だけでなく、リバラル派も陰謀論とは無縁ではない。近年選挙で負け続けていて、自身の望む政治的目標が達成されないことに対するフラストレーションが陰謀論を引き押せている可能性が高い。 (p162)
・政治や社会などの公共的な関心の高い人の方が陰謀論に陥りやすく、自分の生活中心で、政治・社会に関心を持たない人の方が陰謀論を信じにくい傾向にある。政治に関心があったり、知識を深めたりすることは、陰謀論を引き寄せる効果を発揮する

陰謀論的信念の高さと因子との因果については、その因果のプロセスについての分析は物足りない所はありましたが、導かれた知見は「へえ~」というものがあったのがよかったです。

筆者は、陰謀論は誰にでも巻き込まれる可能性があり、それを防ぐには、政治、政党に対する適度な距離、バランス感覚をもった付き合い方、自分だけの正しさを求めすぎない社会を創るなどが大切と説きます。筆者自身が、学生時代が「ネトウヨ」だったというだけに、説得力もひときわです。私自身、陰謀論を信じる人は「トンデモ」人扱いしてみる癖がありますが、少し冷静かつ客観的にみることができるようになりそうです。自分自身も気を付けないとね。

目次

第1章 「陰謀論」の定義―検証可能性の視点から
第2章 陰謀論とソーシャルメディア
第3章 「保守」の陰謀論―「普通の日本人」というレトリック
第4章 「リベラル」の陰謀論―政治的少数派がもたらす誤認識
第5章 「政治に詳しい人」と陰謀論―「政治をよく知ること」は防波堤となるか?
終章 民主主義は「陰謀論」に耐えられるのか?

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