ここ数ヶ月ひそかにハマってしまっている音盤がコレ。
横浜出身で大阪を拠点として活動する女性シンガーソングライター松井文(まついあや)のファーストアルバム『あこがれ』。
河内音頭のプロデューサーとして熱く活動している I さんから「コレいいよ」と薦めてもらった時は「へー、AZUMIさんがプロデュースしてるんだ」といった程度の軽い気持ちで聴いたのを覚えてる。「…なるほど結構いいですね」などと思いつつ、言いつつも自然体というにはあまりに脱力した(ように感じた)佇まいと、素朴なメロディ。微かに揺れて時に裏返り、外れたりもしつつ進んでゆく歌声に驚き、もしかしたら心の中で少し微笑んでいたような気がしないでもない。
それが閉店後「気に入ったなら置いて行くよ」と I さんが残して行ったCDを、なんとなくもう一度聴きたくなってひとり再聴。「あれ?さっきよりいいなぁ」。聴き終えて冒頭の曲をもう一度。「うわーコレ、本当にいいな!!」。そして翌日、まだお客様のいない店内で早速聴く。「なんなコレ?むちゃくちゃえいぞ!」。営業時間半ば、お客様に薦めつつ再度聴く。1曲目『風の向くほうへ』で思わず「うわ!コレヤバイ!!凄くいい!!」と声をあげて「うんなかなかいいよね」と苦笑される俺。初めて聴いた人はこの反応でもしょうがないのかと思う。中毒性のある歌声と歌世界。松井文ちゃん、なかなかのモノです。
内容はシンプルな彼女の歌に、時にロウファイ時に渋い味わいのバックバンドが付いたもの。でもこれってかなり考えられている。AZUMIさんの絶妙のプロデュースワークがこの作品の中毒性に一役かっていることは確かだ。『風の向くほうへ』なんてあの「え?」っていうような最初はアンバランスに感じるサウンドがあってこそ最初のサビ?の彼女の歌声があれほどグッとくるのだ。
この音盤の世界に引きずり込まれてしまうと…。最初に感じた力の抜けた佇まいが眩しく映るようになり、素朴なメロディが個性的に。かすかに歌声が揺れて時に裏返り、外れたりもする部分にこそ歌手としての魅力を感じてしまったりするのだ。音楽って深いなあ。
彼女、文ちゃんは関西をはじめとしたルーツミュージック系のベテランミュージシャンからとても高く評価されているようだ。かつてバンドで大きなコンテストに出場した時には審査員の音楽関係者にはウケたものの、開場を埋めた6000人!の中高生にはまったくウケず受賞を逃したとのこと。…オヤジに支持される音楽性なのかもしれない、といえばなんだか複雑なものがあるけど(笑)でもいいのだ。良いものは良い。言い換えればガキどもにはわからん良さがあるのだ。…いやガキどもってロックに敏感なヤツもいるはずだ(ロック?)。要は6000人も集うようなガキどもにはわからない良さなのだ。なんか言ってる事がムチャクチャですが。
このアルバム、地味~に良いです。
最後に僕の感じるこのアルバムの良さを…。
彼女の歌の良さは、その歌心にある。特別なことを歌ったりしなくても心の中に入り込んで来る歌。それも聴き手が意識しないうちに。ふと気がつくと「もう一度聴いてみようかな」となっているような歌。その作為的ではない強いあと味には、当然声の魅力が大きいのだけれどそれだけではない。なんとなくアタマに残るメロディ、そしてとつとつと綴られる歌世界。意識して意味深い歌詞やどぎついことを歌ったりしなくても良い。人の心に入り込んで来る彼女の歌は十分に魅力的だと思います。