バイユー ゲイト 不定期日刊『南風』

ブルース、ソウルにニューオーリンズ!ソウルフルな音楽溢れる東京武蔵野の音楽呑み屋バイユーゲイトにまつわる日々のつれづれを

及川智明東京初LIVE!

2011-12-02 | ライヴ報告

11月26日土曜日のライヴレポ続きです。

まさにBIGな存在感をこれでもか!と示したリトルキヨシが終わり店内は既に不思議な高揚感に包まれている。普通なら主催者として「やった!今日は大成功だ」となるのだろうけど僕はまだ少し緊張。やはり「彼を中心にライヴをやりたい!」と自分が大推薦したメインアクトがどうなるかが気になっていたのでした。
その及川智明くん、東京には何度も来たことがあると聞いていたので当然ライヴをやったこともあるのかと思っていたらなんとこれが東京初ライヴ!東北地区であれだけ活発に活動している彼がまさか36歳にして東京で初めて歌うとは…「東京のライヴハウスで指をくわえて演奏を眺めていました」これにはリハーサル時みんなが驚きました。なんでも仙台より南で演ったことはないとのこと。

リトルキヨシの強力なパフォーマンスの熱気が充満した中、セッテイングをする及川くん。何人か彼を聴きにやって来た人はいるものの、まったくのアウェイといってよい雰囲気だ。しかもたっぷりと濃ゆい3アクトを聴いてお客さんも流石に疲れているのでは?と思われた…。

つたなく僕が紹介してライヴがスタート。ゆったりとしてきれいな旋律のギターにのせて歌いだす。『田舎の景色』という曲。僕が大船渡で聴いた時も1曲目に歌った曲だ。たぶん彼のレパートリーで唯一の岩手方言で歌われる曲。初めて聴いた時も「おおこれは!」と感激したのだったけれど今日は歌いはじめからビリビリと身体を震わせて歌が迫ってくる。大船渡の被災地近くでやった時と気持ちの面で差があるわけではないと思うのでこの胸に来る振動は既に高揚感でいっぱいの店内が「どんな歌を歌うんだろう」と身構えて集中している空気に彼の歌が反応してのことだと思う。実はこの曲、一度聴いただけで強い印象を残した曲ながら(HPのセットリストを見ると)ライヴでいつも演奏する曲というわけではないようなのだ。最近出たばかりの彼のバンド『東洋線』のアルバムにも入っていない。なので僕は、本当に珍しいことなのだけれどリクエストしておいたのだった。でも聴いていてすぐにわかった。彼は最初からこの、方言で噛み締めるように歌う曲をやるつもりだったのだ。それもたぶん1曲目に。
津波の爪痕も生々しい地域からほんのわずかの距離にあるラーメン店。炊き出しと支援物資を受け取って「元気を出してもらうために用意された」音楽を聴く方々の前で彼はこの曲を歌っていた。それはなんにもエライ目にあってなんかいない僕の心を掴んだ。そんな選曲を彼はバイユーに用意してくれていたのでした。

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粘っこく歌ってるわけじゃないのに胸に身体に絡み付いてくる歌声。あまりの説得力にしばし呆然。気づくと店内がなんだかもの凄い集中力でステージを見つめている。みんなの様子に興味があるのだけれど及川くんから目が離せない。ゆっくりと歌われる田舎の景色、歌詞を追っかけた結果でなく迫ってくる歌によっていつのまにか自分の身体がカッと熱くなっているのに気づく。それが鼻を上ってくるのに時間はかからなかった。ヤバイ、俺目頭が熱くなってる??と我に返りなんとなく一歩引いて眺める。と、背後の様子が変だ!振り返ると壁際に立って聴いているEくんが声を殺して泣いている。それが涙がポロリなんて生易しいもんじゃなくボロボロにドーッと泣き崩れている。号泣?なんとトイレに駆け込んでしまうほど。あまりの光景に驚いていると少し離れたところでUさんも涙いっぱい、目を真っ赤に腫らしてステージに釘付けになっている。ふと気づくとそもそも店内全体の空気がおかしい。ほんの1、2分前とは激変している。『田舎の景色』、特に泣かせるような歌詞ではないのです。最近の極悪感動ラップモドキや勘違い応援ソングでも、狙って人の思い出や感動をほじくる害毒ソングでもない。そして震災で失われた故郷に愛を送るというものでさえない。東北の田舎の景色をわざとらしくない自然な方言で(そう、まったくわざとらしくないのだ)ただ訥々と歌いつらねてゆく楽曲。ただ、美しいギターに呼応して発せられる小間切れの風景が説明的でない故か強烈な説得力を持って迫ってくるのでした。なんだか東北弁なのに、子どものころの高知県室戸市の風景を思いだしたのでした。極私的な表現故に普遍性を持つ、という瞬間はオキナワのローリークックを聴いて何度も体験してきていたけれど。正直、見慣れたバイユー店内の体験したことのない雰囲気で突きつけられて戸惑ってしまったくらいでした。
衝撃的な1曲目が終わってお客さんは拍手。これだけ凄かったのだから大歓声!かと思う人もいるかと思うのですが。ごく普通の大きさの拍手。しかしなんというか拍手って、人の手2枚で生み出す音だから人間味、感情が出るのか?なんとも感慨深い、これまたあまり聞いた事のないタイプの拍手でした。
曲間は素朴に、時に情けなく笑いをとり穏やかに進行するため~一瞬空気が緩みそうになるのですが曲が始まると挑みかかるように歌う及川くんの迫力に飲まれるお客さん。こんな繰り返しだったように思います。長身で痩身そして温和。穏やかな外見と裏腹に怒りを秘めた彼の歌声。そしてある種安易な理解を拒絶するような歌世界はロックを感じさせてくれました。
そう、優しいまなざしがわかり易くてはねえ…。
本編を終え最後に3曲、東京ライヴシーンで長く活躍してきた増吉俊彦さん(ベース)と遠田和範さん(ドラムス)とのセッション演奏が披露された。及川くんの音源を聴いて快く共演を承諾して下さった二人は、当日の短いリハーサルだけでこの濃厚なイベントの最後を見事に締めてくれました。何ごとにも敏感なミュージシャンふたり。全ての出演者の熱演に、そしてなにより後に自分が加わる及川智明の強烈なパフォーマンスの熱を客席で十分に浴びていたのだと思います。
照明を明るくした中、ソウルフルな素晴らしい演奏が繰り広げられました。

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「用意していないのでアンコールとかはやめてくださいね。ありがとうございました。」と最後に演奏された『旅行く者へ』は増吉さんと遠田さんがバイユーで音源を聴いて「一緒にやってみよう」と思うきっかけとなった曲。胸に迫る演奏でした。
3人とも良い顔をしてました。僕はほんとあたりまえな感想ながら、ただただ感動。

「アンコールはなし」。及川くんの演奏中、お酒の注文が全く出ないほどに集中していたお客さんたちに流石にそれは通じませんでした。熱烈な求めに応じて最後にひとりで新曲を披露して終了となりました。

終演後も店内の不思議な雰囲気は消えず、なんだか熱に浮かされたみたいな上気した顔が並んでいます。興奮したお客様、ミュージシャンに囲まれる及川くん。ミュージシャンたちは我も我もと彼と連絡先を交換。これからの交流を約束していました。去り難い空気を感じ、一般営業には戻らず看板も消して一同集まっての打ち上げ宴会となりました。
深夜まで続いた宴の後片付けをし、馴染みの店に寄り道しても興奮が収まらず熱く語ったあげく及川くんのCDを流して貰った私は、なんと翌日になってもぼーっとしていた駄目なヤツです。

不汁無知ル+空見ボーさん、愛染恭介さん、リトルキヨシさん、及川智明さん、増吉俊彦さん、遠田和範さん。そしてお客様。そしてそして遠い地で音楽活動をしていた及川くんに出会うきっかけを作ってくれた大船渡『黒船』の店主・岩瀬さんとShyさん。ありがとうございました。

この夜は演奏も雰囲気も最高でしたけれどもうひとつ。
震災復興や原発問題さらには義援金企画というカタチ、まで。それぞれ少しづつスタンスも違い、表し方も違っているのに。はっきりとした「個」は打ち出しつつ、ひとつのイベントを作り出せたことが僕としてはなんとも良かったです。なにも足並みそろえなくても僕らはいろいろ出来るのです。

とにかく日記に残すのも一苦労、の忘れられない大切な夜でした。長文失礼しました!

というわけで日々に戻っております!今夜もバイユーゲイトをどうかよろしく。