コーヒー豆を齧りながらオンザロックを呑む。
レコードプレイヤーにかかるのは、ビリーホリデイ。
昭和50年代の僕は、そんな呑み方が気に入っていた。
安物のレッドを、チリチリと喉に通しながら、苦酸っぱいサントスの豆を齧る。
「奇妙な果実」と言う曲を聞くたびに、甘いのか苦いのか分からない感傷が顔を出す。
その頃は、彼女の曲の背景にあるものを本当は理解していなかった。
音源の雑音か、レコード針のノイズか。
がさがさとした、あの頃が懐かしい。
と。たまに想うのであります。
こころのがさがさを、臆目も恥じも外聞も無く出せる中年になり、わいわいどやどやと酒をあおり飲むばかりが能のこの奇妙な生き物になってしまった私。
人種間の偏見と嗜虐の背景の中から生み出された彼女の声と旋律に耳を傾けると、僕は救われたような気持ちになる。
アルコールに似合うミュージシャンでありながら、アルコールに逃げることを許さない何かを感じるのであります。
柄にも無く。
珠玉の歌姫。ビリーホリデイ。