表紙絵は児島善三郎 ( 1893-1962 ) 。この号には特別寄稿として西脇順三郎 ( 1894-1982 ) の訳詩 ( エドマンド・ブランデン作 「 港のスケッチ 」 ) が掲載されている。創作として、太宰治 ( 1909-1948 ) 「 渡り鳥 」、上林暁 ( 1902-1980 ) 「 小さな蠣瀬川 」 の短編があった。西脇の訳詩の一部を紹介する。
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塀にギネス・ビールの福音の広告は
まだ、はつきり残る。兵隊さんはそちらを
じつと見つめる。芝生の公園と銅像は
日の光と、人々の社交を待つ。
だが私は近くて遠い一つの存在を求める、
愛の力でその頬を私の頬に感じるのだ。
船が幾重かの列にならんでいる
十八世紀の版画にある艦隊のようだ。
或る幾羽かの鷗は餌食をめがけて鳴きつ ヽ
真つすぐに下りて来る。また岩の上に陣取る。
だが小波を越え低く飛ぶあの一羽の鷗よ、
すべては、よく見る者のものとなる、
この風情を眺めると、それがよくわかる。
「 愛の力 」 で 「 近くて遠い一つの存在 」 を感じる、と言う。そして 「 すべては、よく見る者のものとなる 」 ということが、分かる、と言う。 ( この本は石原洋二郎デザイン室の石原氏よりいただいた、感謝。)