九鬼周造著 『 巴里心景 』

2012-12-31 | 日記

昭和17年11月20日発行 甲鳥書林刊。この本は著者のパリ滞在時の詩と短歌のアンソロジーになっている。全体が一つのロマンである。 「 タンゴ 」 という詩を紹介する。

         ともし灯よ

         魂はかがやきを求めず、

         まばゆき光を消して

         闇となれ。

         

         巴里の空の月よ

         窓よりひそかに入りて

         静かに青く

         ロココの広間を照らせ。

 

         黄色の薔薇よ

         人はすぎし恋を夢む、

         いやたかく薫れ。

         白髪の楽師よ

         南の国のかの古き

         ヴィオロンを執りて

         ( 悲哀のタンゴを ) 弾け。  (以下略)

「 人はすぎし 」 日を夢む。大晦日の夜ともなれば一層、 「 すぎし 」 日々が懐かしい。追憶に相応しい音楽は、悲哀に満ちた 「 タンゴ 」 のリズムである。大雪にもメゲズに、数時間もすると新しい年がやって来る。

 


FINN JUHL (1912-1989)

2012-12-29 | 日記

             

             コロナ・ブックス 『 フィン・ユールの世界 』 ( 2012年 平凡社刊 )

 

                    フィン・ユール

                    1951年、シカゴの個展会場入口にて

 


普通の情景、朝霧

2012-12-28 | 日記

        

朝霧の中の太陽。見ていると、舞台の書割のような情景と思う。また、木々がヘンにすまして、それぞれが役者のようにも見える。演劇的情景。それにビニールハウスのスケルトンがこの情景を立体的にしていて、動きを加えている。太陽は舞台の照明装置である。

普通の情景が異様に見える時がある。それが自分自身の内的情景かも知れない、と驚くことがある。

 


SILENT EVE

2012-12-24 | 日記

一日中降っている雪は、夜になっても降り止まずにいる。クリスマス寒波だと言うから、このたくさんの雪はきっと誰かのクリスマス・プレゼントなのだろう。それで今年も大雪になった。今夜もまた雪が全ての音を吸い取っている。過去の音も現在の音もサイレント・ナイトである。過ぎた人も今ある人もサイレント・イヴである。降る雪はあらゆるものを白くする。今夜は聖夜なり。

 「 しめやかに今宵語らんうるみたる瞳を求む 」 かく答 ( いら ) へけり (九鬼周造 「 巴里小曲 」 より )

九鬼周造は心許すひとに訊かれたのであろう 「 クリスマスの贈り物は何がいい? 」 と。答えて曰く 「 今宵は静かに語り合いたい。だから、情感で満たされた美しい瞳の、君が欲しい 」 。これは勝手な想像である。