『 愛のゆくえ 』

2013-06-04 | 日記

           

原題は “ The Abortion : An Historical Romance 1966 ” 。“ Abortion ” は、中絶とか挫折を意味するそうである。ブローティガンの小説は一見平穏な小説のようであるが、愛の行く末は悲しい。文庫本ではあるけど、Ai-O のカバー装丁がいい。1971年にオリジナルが発行され、この新潮文庫版は1975年3月に第一刷が発行されている。行く末は悲しいけれど、しかしこの小説の主人公たち、図書館員と彼女・ヴァイダの二人には一つの 「 力 」 が身についていたのである。

わたしたち二人とも疲れていたが、今日これから立ち向かおうとしていることで当然感じるほど神経質になってはいなかった。なぜなら、わたしたちはやさしい形でのショックを経験していて、それがひとつの小さなことから別の小さなことを、おぼつかない足取りながら一歩ずつ片づけていくのを容易にしてくれていて、ついには、最後に待ちかまえている大きな難事を、それがどんなものであろうと、やり遂げられるようになっていた。

わたしたちには、わたしたちが解決しなければならない困難ななにかが持ち上がったとき、わたしたちの人生を落ち着いてなし遂げる、真新しい即席の儀式に変える力が身についているように思う。わたしたちは劇場のようになるのだ。

劇場とは、自分自身の人生のことであるなら、自分自身が主役であり、一人の名優でなければならないのだった。如何に滑稽を演ずるか、如何に悲劇を冷静に情熱的に終えるか。愛する人へ何を捧げるか、オーディエンスは常に見ているのである。オーディエンスとは誰か?