歌集
出雲崎にある良寛記念館に寄った。展示室には入らなかったが、受付のあるホールには多くの良寛関係の書籍が販売されている。勿論、新刊本が中心であるが、中には古書もあって、ファンの方々なら垂涎だろうと思われる。
ところで、この本は昭和42年に発行された 『 伊藤呆庵歌集 』 ( 野島出版 ) である。僕は、著者である伊藤呆庵 ( 本名 伊藤喜一郎 ) についてのプロフィールは何も知らないし、しかし、序文を書いているのは、歌人にして良寛研究家の吉野秀雄 ( 1902-1967 ) だったから、この本の著者は信頼するに足るものを持っているに違いない、と思ったのだった。著者は三条市に生まれた実業家で、この時71歳である。九歳の時に父が逝き、歌を詠みはじめたのは享年五十歳だった母への思いと良寛への敬慕からだった、と本人が 「 あとがき 」 に書いている。数首紹介する。
池底に真鯉緋鯉のすりよりて重なりあへり雪ふれる朝
いたましき母の背の瘤 (こぶ) かたね瘤ひと世重きをになひたまひき
淡雪はあるかなきかの風に舞ひ消えて川面にとどかざりけり
わが一生暮れなむとするひとときの寂滅のひかり美しくあれ