最近、胃の調子が良くなかったから生まれて初めて僕はこの胃散を飲んだのだった。初めての経験だったけど、ま、よく効いたような気がしたから、たまにはこういう薬も飲んでみてもいいかと思ったのである。実際のところ、胃酸の出が治まったのである。それでこの日を記念日としてこの絵を描くのだった。「 太田胃散分包を飲んで、女を待つ胃の快調なるヨロコビ 」と、この絵の中に書いてみる。さらに調子に乗って「わがサピアンス夫人の子宮のくらがりに、生薬の芳香を思うのだ!」などと意味不明の歌 ( これも歌のつもりであった ) を挿入するのである。こういうことが世間的に許可されるのかどうか、ま、あまり考えたことはないが、にも拘らずにここに記録するのである。グラスに注がれてストローに突き刺された液体は、僕の ( ここで、他人の、ではまずいだろうから特にことわっておくのである ) 胃の調子がいいから、もうじきおかわりされるのである。サピアンス夫人とは『トリトンの噴水』に登場するサロンの女主人のことである。黄色いテーブル上でさっきまで、グラスと「太田胃散〈分包〉」とが恥ずかしくも激しい遊戯をしていたのだったが、やはり「太田胃散〈分包〉」が寂寞の勝利を収めてしまったから、ここではそれぞれが重要な絵画的演劇の役者になるのである。従って、この絵にはいい加減さばかりではない、心情的には実に高く美しい「噴水」の歌のニュアンスが出ればいい、と思うばかりである。