奇特にして孤高の俳人・井月 ( せいげつ ) 、1822年越後長岡に生れる ( 武家の生まれとも言われるが、今もって不明である、と言う ) 。本名、井上克三とも。18歳ころから北は象潟、西は明石まで漂白と行脚と乞食の旅人となる。生涯を松尾芭蕉に倣い、1887年 ( 明治20年 ) 遂に信州伊那にてその生涯を閉じた、と言う。これは岩波文庫版 『 井月句集 』 ( 復本一郎編 2012年10月第1刷発行、2014年5月第3刷発行 ) である。長岡市内に最近開店なった書店で、昨日買ったばかりである。このところあまり本屋に立ち寄ることが稀だったし、特に岩波の本は文庫本でも置いておく書店が少ないのである。文庫本はあってもその数はあまりない。僕は、熱心に新刊書の発行を調べる方ではないので、この本に出会ったのは嬉しかった。何んと言っても長岡の人の本が岩波文庫に入っているとはね。
最初に井月の本を編集出版したのはやはり伊那の人、下島勲 ( 1869-1947 ) である。彼は東京田端で医者をし、芥川龍之介 ( 1892-1927 ) 一家の主治医であった。1921年 ( 大正10年 ) 刊、 『 井月の句集 』 がその本である。そしてこの本は芥川の献身的バックボーンがあったからこそのものであった、と言う。芥川は跋文に書くのだった。
このせち辛い近世にも、かう云ふ人物があつたと云ふ事は、我々下根の凡夫の心を勇猛ならしむる力がある。編者は井月の句と共に、井月を伝して謬らなかつた。私が最後に感謝したいのは、この一事に存するのである。
後先になってしまったが、ここに井月の句をいくつか紹介しておかなければならない。今は冬真っ最中なので、冬の句を紹介する。
春を待つ娘心や手鞠唄
ないそでをなをふる雪の歳暮かな
掃きよせて時雨の音を聴く落葉
世の塵を降りかくしけり今朝の雪
錦木(にしきぎ)や百夜車(ももよぐるま)の雪の道
「 錦木 」 とは、陸奥の習俗で、男が恋する女の家の門に立てた五色に彩色した一尺ほどの木で、女が OK の時は取り入れる。また 「 百夜車 」 とは、深草四位少将が小野小町のもとに百夜通った牛車のこと、謡曲 「 通小町かよいこまち 」 から、と注に言う。
今年もブログを読んで下さって、どうもありがとうございました。来年もどうぞお付き合いを、お願い致します。
窓の外遠く近くに雪は降る机上のパソコン世界をめぐる