カフェ 「 墓地展望亭 」

2011-01-05 | 日記
久生十蘭の短編 「 墓地展望亭 」 を読む。

1939年の作品で小説の舞台は1934年の巴里のカフェ。このカフェはペール・ラシェーズ墓地を見下ろす小高い岡にあって、一人のムッシューの回想から始まるのだった。

カフェの常連客で一際目を引いた若いカップルがいた。男性は端麗な顔立ちの三十代半ばの日本人で、女性の方は二十歳過ぎのスラヴ人に見えるこの世のものとも思われぬような美しい婦人であった。二人は決まって毎月八日午後四時ころ、墓碑に花束を置いてはカフェで静かに休んで、そして睦まじく腕を組んで帰って行くのだった。
静謐で品性ある美しいカップルに心惹かれたムッシューは、ある夏の夕べ散歩の途中に、彼等が誰のお墓に詣ずるのか廻り道をしてその墓に行って見たのだった。その墓は上質の大理石の典雅な墓碑であった。そしてこのような碑銘が刻まれていたのである。

 「 リストリア国の女王たるべかりしエレアーナ皇女殿下の墓
   ― 1934年3月8日、巴里市外サント・ドミニック修道院に於  
   て逝去あらせらる。
   神よ、皇女殿下の魂の上に特別の御恩寵を給はらんことを
   切に願ひまつる。    」

ストーリーはここから始まるのであるが、実は 「 美しい婦人 」 この人こそが、まぎれもなくエレアーナ皇女その人であったのである。日本人男性はエトランジェであり、かつては自殺志願者であった。波瀾の中に境遇を越えて結ばれた二人のドラマである。
「 毎月の八日に、じぶんの墓に花を置きに来るのは、つまり、激しい日の追憶を新たにして、現在の幸福に、いっそう深く酔はうとするためなのである。」 と作者は結んだ。


謹賀新年

2011-01-02 | 日記


新年おめでとうございます。
12月はほとんど書きませんでしたが、これからどういう方向でブログを書いていこうか…。しかし、まずは時間が許す限り書いていこうと思っています。