すでに陽は没して、流れ行く雲とうすい空の色彩に、金星は感傷するばかりであった。 この夕景こそが一日の終わりを告げるのだ。
僕らは信濃川の水辺に立ち、蝙蝠がせわしなく飛び交う川面のさざなみのささやきを聴くばかりであった。
遠く、鉄塔の赤いランプが言葉を捜すように明滅していた。岸辺の草むらには、それは例えば花が散ってゆくように、静かに夜の帳が降りていた。
佐藤春夫の第一詩集 『 殉情詩集 』 より 「 水辺月夜の歌 」 。
せつなき恋をするゆゑに
月かげさむく身にぞ沁む。
もののあはれを知るゆゑに
水のひかりぞなげかるる。
身をうたかたとおもふとも
うたかたならじわが思ひ。
げにいやしかるわれながら
うれひは清し、君ゆゑに。
僕らは信濃川の水辺に立ち、蝙蝠がせわしなく飛び交う川面のさざなみのささやきを聴くばかりであった。
遠く、鉄塔の赤いランプが言葉を捜すように明滅していた。岸辺の草むらには、それは例えば花が散ってゆくように、静かに夜の帳が降りていた。
佐藤春夫の第一詩集 『 殉情詩集 』 より 「 水辺月夜の歌 」 。
せつなき恋をするゆゑに
月かげさむく身にぞ沁む。
もののあはれを知るゆゑに
水のひかりぞなげかるる。
身をうたかたとおもふとも
うたかたならじわが思ひ。
げにいやしかるわれながら
うれひは清し、君ゆゑに。