目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

サバイバル~服部文祥の世界

2010-12-26 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

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かなりの奇人で驚いた。先日、TBSの「情熱大陸」に登場した、かの服部文祥氏を見て私が感じたことだ。三分搗きの玄米と調味料しか持たず、他の食糧は調達しながら、つまり獣を狩ったり、魚をとったりしながら、山を縦走するわけだから、変わった人であるとは想像していた。でもここまでとは。

鹿を仕留めたときには嬌声を発していたし、その獲物を引きづっていく様は、嬉々としていて滑稽に見えた。われわれは猟の現場はまず見たことがないから、そのせいの違和感なのかもしれないけど。岩魚もじゃんじゃん釣っていた。これらのシーンは、すべて彼の著書にも盛り込まれている。読むと、出てくるわ、出てくるわ、蛇やかえるも捕って食べると書かれていた。

いずれは読もうと思いながらも、「サバイバル」と謳うくらいだから、軍隊チックなのか、相当なキワモノなんじゃ?と興味津々ながらも、すぐに手にとって読もうとは思わず、後回しとなっていた彼の著作。けれども、この番組をきっかけに読み出してみたら、止まらない。面白くて。

そもそもが、氏の山行は凄すぎる。最初の著書『サバイバル登山家』の冒頭には、知床半島19日間の縦走記録が出ている。山ではまだ冬といえる3月下旬に出発する。キタキツネに食糧を大量に持っていかれたり、大寒派が来て雪の中に3日間閉じ込められたりと難行苦行が綴られている。

夏場の日高山脈縦走25日間というのもすごい。山中で台風に見舞われ停滞し、その間豪雨と沢の増水に苦しめられる。いったいどうなるのかと手に汗握るスリルと、ふるチンに合羽だけの格好で外を歩くという滑稽さで笑える。冬の記録も驚く。北アルプス上の廊下縦断。雪崩に遭ったとしても、凍死したとしても、ちっともおかしくない。ちょっと自制気味の黒部にしても、かなり無茶している部類に入ると思えるのだが……。

こうした先鋭的な、自然と対峙(融和なのか?)した登山の行き着く先が、彼にとっては「サバイバル」なのだろう。夏のサバイバルは、山菜や岩魚を主に食糧の調達には事欠かないが、冬場は、食糧の確保が大変だ。そこで、銃をもっての獣狩りとなる。彼の場合は鹿狩だ。そして『狩猟サバイバル』となるわけだ。

彼は冬にまさにそれを実践してしまうわけだが、これまた、かなり無茶してしまっている。冬にタープと焚き火で泊まるのは、寒すぎだよね。無人の家や廃屋に勝手に上がり込んでしまうのは、やはり寒すぎるから、ちょっとでも快適さを求めてしまうということなんだろう。

この本の中でもっとも怖いシーンは、鹿の頚動脈の切断だった。初めて仕留めた鹿は、「ボヘェェェェェ」って大きな声で鳴いたと綴っている。これってもう情景が目に浮かんでしまい、私はダメだった。奈良や丹沢の人馴れした、あの目がクリクリした鹿さんたちを思い出すしね。

ともあれ、次の彼の山行には興味がある。どこをどういう手法で登るのか。そしてその山で何が起こるのか、それにどう対処するのか。彼なりの思考と手法で切り抜けるのだろうが、楽しみではある。さらなるサバイバルの続編に期待したい。

最後に、彼が敬服しているとする伝説の猟師デルス・ウザーラについて蛇足。大昔にテレビで黒澤明監督の同名のタイトルの映画を見たのを思い出した。たしかデルス・ウザーラは、シベリアの奥地に探検(測量?)に来たロシアの軍人たちのガイドをする。そのときに森の中で神扱いされている白いトラが現れて、デルスが会話するのだ。自然を知り尽くし、自然への畏敬の念をもつデルスの姿勢に、同行したロシアの軍人たちが皆目を覚まさせられる。そんな話だったと思う。映画自体はかなり地味で、興行は失敗だったんじゃなかろうか。

『百年前の山を旅する』は1122メートルの記事参照

サバイバル登山家
クリエーター情報なし
みすず書房

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