アジアと小松

アジアの人々との友好関係を築くために、日本の戦争責任と小松基地の問題について発信します。
小松基地問題研究会

20211111 土地規制法と小松基地

2021年11月11日 | 小松基地(総合)
 土地規制法と小松基地

 2021年3月26日、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用等の規制等に関する法律」(土地規制法)案が閣議決定され、6月16日午前2時過ぎに強行採決され、成立した。その間わずかに80日間、審議時間は衆議院では12時間、参議院でも14時間、合計26時間に過ぎない。

土地規制法の対象地域(石川県内)
 土地規制法の対象には①防衛関係施設、②国境離島、③生活関連施設(原発、核燃サイクル施設)があり、①③の建物・敷地から1km以内や②国境離島を「注視区域」や「特別注視区域」に指定する。
 石川県内の「防衛関係施設」には、空自輪島分屯地(河井町)、輪島レーダー基地(高州山)、金沢駐屯地(野田町)、三小牛演習場、小松基地、小松基地送信所(佐美町)があり、自衛隊石川地方協力本部(金沢市新神田町、小松市園町、七尾出張所)や小松防衛事務所(小松空港ビル内)も含まれるのかもしれない。
 また、準軍事施設としては、海上保安庁管轄下の能登海上保安署(小木港)、海保能登空港連絡所、七尾海上保安部(七尾港)、金沢海上保安部(金沢港)、舳倉島灯台、竜ケ崎灯台(輪島港)、猿山岬灯台がある
 その他、「国境離島」として舳倉島(能登半島から50㎞)があり、「生活関連施設」として志賀原発があるが、能登空港、七尾港、金沢港などの港湾も含まれるのかもしれない。ここでは主として、小松基地などの軍事施設を対象にして、論を進める。

有事法制として
 土地規制法が指定する「注視区域」では、土地及び建物の利用状況を調査し、基地機能を阻害する行為やそのおそれがあると認められるときは、利用中止などの勧告をおこない、「特別注視区域」とされた区域においては、土地等の売買について、当事者に事前の届け出を罰則付きで義務付けている。
 このように、土地規制法は、国家権力による情報収集にお墨付きを与える。「施設(基地)機能」を「阻害する行為」を規制対象とすることによって、解釈次第では、自衛隊基地に反対する市民運動や基地監視活動などが含まれ、反戦平和運動への弾圧に利用できる。土地規制法の目的に「安全保障に寄与すること」(第1条)が掲げられており、軍事基地の周辺区域を対象とし、戦争遂行の観点から国民の私権を制限しようとするものである。土地規制法は戦争法であり、有事法制の一環に位置づけられている。

基本的人権の侵害
 国会答弁では、長崎県対馬市で海上自衛隊対馬防備隊の周辺土地(ホテル)を韓国資本が観光目的で購入したこと、北海道千歳市で航空自衛隊千歳基地の周辺土地(森林)を投資目的で購入したことを例に挙げたが、自衛隊や米軍の運用等に具体的に支障が生じるような事態は確認されていない。
 戦前の「要塞地帯法」(1899年法律第105号)では、国防を理由に、「要塞地帯」と指定された区域への立入り、撮影、模写などが禁止、処罰され、これが国民監視や統制に用いられた(注1第7~17条)ように、土地規制法は「要塞地帯法」の現代版であり、「施設機能阻害行為」として、重要施設の機能に支障を来す構造物の設置、トンネルを掘削して侵入を図る行為、電波障害準備行為、施設侵入準備行為などが挙げられ、「準備行為」が処罰の対象とされ、何でもかんでも強引に「準備」とこじつけて、規制することができる。
 またプライバシーに関する情報を、関係行政機関(内閣情報調査室、防衛省情報本部、公安調査庁、警察庁外事情報部など)の協力で収集するとしており、思想、信教、集会、結社、表現・学問の自由、団結権、団体行動権などの基本的人権を不当に制限することになる。

(注1)第二章 禁止及制限
  第七条 何人ト雖要塞司令官ノ許可ヲ得ルニ非サレハ要塞地帯内水陸ノ形状又ハ施設物ノ状況ニ付撮影、模写、模造若ハ録取又ハ其ノ複写若ハ複製ヲ為スコトヲ得ス但シ軍機保護法ニ特別ノ規定アルモノニ付テハ其ノ規定ニ依ル
  第八条 要塞司令官ハ要塞地帯内ニ於テ兵備ノ状況其ノ他地形等ヲ視察スル者ト認メタルトキハ之ヲ要塞地帯外ニ退去セシムルコトヲ得
      2 陸軍大臣又ハ要塞司令官ハ特ニ必要アルトキハ前項ノ規定ニ依リ退去ヲ命セラレタル者ニ対シ要塞地帯内ニ入ルコトヲ禁止シ又ハ制限スルコトヲ得

小松基地周辺では
 石川県内では、とくに小松基地周辺(注視地区内)住民の生活と行動を規制することになる。小松基地を発着するジェット戦闘機の爆音は耐えがたいまでに激化しており、原告団がおこなった健康影響調査によれば、騒音地域の低出生体重児(2500グラム以下)は非騒音地域の7倍、騒音地域の不眠症は非騒音地域の3倍という結果が出ている。
 このような状況だからこそ、1975年以来数千人の住民が原告となり、国・自衛隊に飛行差し止めを求めているのだが、訴訟準備のための騒音調査(発着する戦闘機の機数、機種、飛行方向、搭載ミサイル数、燃料の増槽数など)すら、土地規制法によれば違法行為にされてしまう。
 現在のところ、土地規制法の「注視区域」は1㎞以内だが、5年後の見直しで、要塞地帯法に倣って5㎞にまで拡大されれば(注2)、原告団事務局が入居している小松市教育労働会館、小松市民センター、芦城センター、寺院などの公的・私的集会施設も土地規制法の「注視区域」に含まれ、会館責任者には、使用状況を報告する義務が生じ、基地機能を阻害する行為の「準備行為」と認定されれば、取り締まり(使用制限など)の対象にされるのだ。

(注2)「要塞地帯法」第3条(区域)
   第一区 基線ヨリ測リ千メートル(1㎞)以内及基線ト防禦営造物間ノ区域
   第二区 基線ヨリ測リ五千メートル(5㎞)以内
   第三区 基線ヨリ測リ一万五千メートル(15㎞)以内

 

陸自金沢駐屯地では
 金沢市内には、陸上自衛隊金沢駐屯地と三小牛演習場(対象から除外された)があり、金沢駐屯地の周囲1㎞の「注視区域」には、尹奉吉義士暗葬地と殉国碑があり、ここでは毎年4月29日と12月19日に尹奉吉義士を追悼し、日本の侵略と植民地支配を反省し、日韓の友好と反戦平和を誓ってきた。
 戦時下では、反戦平和運動は基地機能阻害行為と見なされ、尹奉吉義士追悼集会は排外主義・愛国主義を否定する「反日行為」とみなされ、規制の対象にされるだろう。
 輪島市には空自の分屯地(河井町)とレーダー基地(高州山)があり、その「注視区域」内で、スマホをいじっていると、電波障害準備行為とか施設侵入準備行為などの嫌疑で拘束されないとは限らない。

海上保安庁の施設も
 日本海(東海)に突き出た能登半島には、準軍事施設としての海上保安庁の施設があり、航行の安全確保と領海、排他的経済水域(EEZ)警備を任務としている。能登海上保安署(小木港)、海保能登空港連絡所、七尾海上保安部(七尾港)、金沢海上保安部(金沢港)、舳倉島灯台(2005年~無人化)、竜ケ崎灯台(輪島港)、猿山岬灯台の周囲1キロメートルが「注視区域」とされた。

離島=舳倉島は
 とりわけ、能登半島から約50キロメートル北方の舳倉島は2016年の「有人国境離島法」で「特定有人国境離島地域」(注3)に指定され、土地規制法では「離党機能」(注4)が課され、他国船舶から領海及びEEEを保全する役割を課された。

(注3)「有人国境離島法」(2016年)→8都道県の計71島を選定
(注4)「土地規制法」第2条5の要約:「離島機能」とは…領海及び接続水域、又は排他的経済水域及び大陸棚の海域の限界を画する基礎としての機能。有人国境離島地域(にある)離島の領海等の保全に関する活動の拠点としての機能。

まとめ
 以上、土地規制法について、石川県内の自衛隊基地、海保施設、離島について具体的に考察してきたが、法は極めて抽象的で、曖昧な表現が多く、拡大解釈がいくらでもできる法律になっている。たとえば「機能阻害行為」を具体的に規定せず、罪刑法定主義を逸脱し、恣意的な解釈でいくらでもその範囲を拡大できる、まさに有事法として成立したのである。
 憲法9条の平和主義を実現しようと小松基地爆音訴訟をたたかっている住民にとって、この土地規制法は決して軽視できない法律であり、たたかいのなかで乗り越えていかねばならない。


<参考資料>
①自由法曹団声明(2021年4月20日)
②東京弁護士会声明(2021年6月24日)
③第二東京弁護士会意見書(2021年7月27日)
④沖縄県読谷村議会意見書(2021年9月28日)
⑤要塞地帯法(1899年法律第105号)
⑥土地規制法(2021年6月16日)
⑦『未来』(327~329号)


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