■レディ・ソウル / Aretha Franklin (Atlantic / 日本グラモフォン)
「レディ・ソウル」といえば、今も昔もアレサ・フランクリン!
そのゴスペルルーツでハートウォームな歌声には、音楽のジャンルやスタイルを超越して聞く人を感動させる魅力が今に至るも抜群ですが、やはり全盛期というか、個人的にも一番好きな時代がアトランティックに所属していた1966年からの10年ほどです。
それ以前のアレサ・フランクリンは有名な宗教家の父親とゴスペル歌手だった母親の影響もあって、十代からゴスペルを歌っていましたが、いろいろと指導をしてくれたサム・クックに憧れ、またダイナ・ワシントンに心酔していたこともあって、ついに大手のコロムビアと契約し、ジャズや歌謡ブルース、そして大衆R&Bを歌い、アナログ盤LPだけで10枚以上の録音を残しています。
しかし好調だったのは1961年から2年ほどで、業界はモータウンを筆頭に新しいR&Bに熱狂していたのを尻目に、彼女は泣かず飛ばず……。とうとう1966年には契約を切られてしまうのですから、今となってはコロムビアの大ミステイクだったように思います。
ただし、この時期のレコーディングは後の「レディ・ソウル」期と比べると、明らかに中途半端でした。ジャズボーカルをやったと思えば、ダイナ・ワシントンの物真似やストリングスを使ったスタンダード歌物集を作ったり、如何にも焦点が定まっていません。
ところが現実的にはアレサ・フランクリンの評価は全然、下がっていなかったのです。
そしてコロムビアから放出された彼女を、待ってましたとばかりに契約したのが、黒人音楽では名門レコード会社のアトランティックで、当時の幹部だったジェリー・ウェクスラーが直々にプロデュースを担当して完成されたのが、「レディ・ソウル」の全盛期!
本日ご紹介は、そのアレサ・フランクリンのアトランティック時代から大ヒットばかりを集めた、4曲入りの33回転盤EP♪♪~♪ 所謂コンパクト盤で、サイケおやじが初めて買った彼女のレコードです。
A-1 Respect
A-2 A Natural Woman
B-1 Chain Of Fools
B-2 I Say A Little Prayer / 小さな愛の願い
まずド頭の「Respect」が強烈無比!
アタックが強くて、グッと重心の低いリズムとビート、そして分厚いブラス&ホーンにエグ味の強いギターのリフがイントロになり、さらにそれをブッ飛ばすようなアレサ・フランクリンの歌い出しが、もう脳天を直撃し、臓腑をえぐるような熱さで迫ってきます。
あぁ、このヘヴィな雰囲気は当時「ヘヴィロック」と呼ばれていたハードロック勢なんて、足元にもおよばないものに、中学生だったサイケおやじには感じられましたが、それは今も変わっていません。
それとバックの女性コーラスのソウルフルな歌声も最高~♪
間奏でブローするテナーサックスはキング・カーティスですが、これも暑苦しいほどで、それがまた、逆に心地良かったりします。
こういう音楽は所謂アメリカ南部のディープソウルと呼ばれるものだということは後に知るのですが、もちろんサイケおやじが夢中になるジャンルであるにしろ、アレサ・フランクリンの歌唱とサウンドプロデュースは、そうしたR&Bの一般的なイメージであるドロ臭さがありません。極限すれば都会的!
実は、これも後に知ったことですが、ジェリー・ウェクスラーがアレサ・フランクリンをプロデュースするにあたって企画したのが、彼女のゴスペルルーツを活かした南部サウンドでした。そして既にウィルソン・ピケットで成功していた手法を踏襲し、アラバマ州のマッスルショウルズにあるフェイムスタジオへ、アレサ・フランクリンを送り込むのです。
ところが現場について吃驚というか、そのスタジオに勢揃いしていたバックミュージシャンが全員白人だったことから、アレサ・フランクリン以下、彼女のスタッフも含めて違和感が打ち消せず、ついにはゴタゴタの末にレコーディングは2曲で終了……。
このあたりはジェリー・ウェクスラーやアトランティックの会社関係者には常識だったことが、アレサ・フランクリンや彼女のマネージメントサイドには知らされていなかったという、ある意味では思い込みと勘違いの結果なのでした。
そこで、ニューヨークのスタジオにアラバマのミュージシャンを呼び寄せ、さらにニューヨークの一流セッションプレイヤーも参加して作られたのが、この「Respect」以降に展開されるアレサ・フランクリン全盛期の楽曲なのです。
またサイケおやじを熱くさせた女性コーラスのソウルフルな味わいは、もちろんゴスペルルーツの極みであり、演じているのはアーマ&キャロリン・フランクリンという、どうやらアレサ・フラクリンの姉妹らしいのですが、実にたまらんですよ♪♪~♪
こうした路線は続く「A Natural Woman」でさらに全開! ご存じ、キャロル・キングが書いた名曲ですが、アグレッシブなストリングを大胆に導入し、深みのある女性コーラスを従えたアレサ・フランクリンの魂の絶唱がじっくりと堪能出来るのです。
そしてもうひとつ、サイケおやじを狂熱させたのが、B面ド頭の「Chain Of Fools」に聴かれる、まさに横揺れしているとしか言えないリズム隊のグルーヴです。この真っ黒なビートにノリまくったアレサ・フランクリンのボーカルとバックコーラスの最高の熱気は、虜になったらヤミツキですよっ!
ちなみにここで聞かれるイントロのギターの蠢き、コードの味付けやリズム隊のヘヴィなグルーヴは細部まで、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル=CCRにパクられていますから、何の曲はあえて書きませんが、ぜひともお楽しみ下さいませ。もう既に、納得されていらっしゃる皆様も大勢、ですよね♪♪~♪
しかしアレサ・フランクリンの魅力は、こうしたゴスペル系の黒っぽさばかりではありません。オーラスに収められた「小さな愛の願い」は、バート・バカラックの作曲した愛らしいメロディをディオンヌ・ワーウィックが歌って大ヒットさせたという、所謂カバー曲でありながら、ここでの強い印象は素晴らしすぎます。バックのボサロック風の演奏も実にお洒落なんですが、アレサ・フランクリンの単に黒人ソウルと括ることの出来ない真実の熱唱は圧巻! 告白すると若き日のサイケおやじは、このトラックばかり聴いていた前科があります。
ということで、このコンパクト盤は私に南部ソウルの魅力とアレサ・フランクリンの凄さを教えてくれた思い出の1枚です。本音で言えば、オーティス・レディングよりも、当時は聴いていましたですね。冒頭の「Respect」にしても、オリジナルのオーティスよりも、ここに収められたアレサのバージョンに馴染んでいるほどです。
う~ん、それにしても当時は、ちゃんとしたLPが買えなくて、ずいぶん悔しい気分になっていたわけですが、それゆえにシングル盤やコンパクト盤には尚更の思い入れが強いです。
ちなみにジャケットにある「ステレット」とは、ステレオ仕様を示す造語というご愛敬も憎めませんね♪♪~♪
ジャケ写のルックスは中尾ミエ!?