OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

私のヴァレリー・カーター

2009-06-08 10:29:58 | Pops

Just A Stones's Throw Away / Valerie Carter (Columbia)

1970年代も半ば頃になると、我が国でも輸入盤専門的が増え、そこでは日本盤よりも安くLPが販売されましたから、以前よりも手軽にアルバムを買えるようになったのは嬉しいことでした。そして必然的に、全く知らないミュージシャンや歌手の作品にも手を出せる状況になったのです。

本日ご紹介のヴァレリー・カーターも、そうして知り得た女性ボーカリストで、素直な歌声の中に健気でキュートな魅力が潜んでいるという、素敵な歌手です。

とはいえ、結論から言えば、ヴァレリー・カーターにはヒット曲なんて出せませんでした。

しかし1970年代には、知る人ぞ知る活躍をしていて、それは主にコーラス要員として、ジャクソン・ブラウンやジェームス・テイラーといった所謂ウエストコーストロック、そしてシンガーソングライター達の諸作やライブの現場で重宝されたひとりだったのです。

そうした顔の広さゆえでしょうか、1977年に出されたこのアルバム裏ジャケットに記載された協力ミュージシャンの豪華さには吃驚仰天! ローウェル・ジョージ(g)、ビル・ペイン(key)、サム・クレイントン(ds,per) というリトルフィート勢、チャック・レイニー(b)、ジェフ・ポーカロ(ds)、マイク・ユニティ(key)、アニー・ワッツ(ts) あたりの超一流スタジオミュージシャン、ハーブ・ペターセン(g,vo)、ジャクソン・ブラウン(vo)、ジョン・ホール(g,vo)、トム・ヤンス(vo)、ジョン・セバスチャン(hca)、リンダ・ロンシュタット(vo) といった既にリーダー盤を出している人気者、さらにモーリス・ホワイト(vo,per)、バーダイン・ホワイト(b)、ラリー・ダン(key)、アル・マッケイ等々のアース・ウインド&ファイアーの面々までもがっ! もちろん、他にも書ききれない有名人が大挙参加しているのです。

しかも収録曲毎にローウェル・ジョージやモーリス・ホワイトがプロデュースやアレンジを担当しているのですから、実に贅沢なアルバムだと思いますね。

それが実現したのは、ヴァレリー・カーターが当時契約していたプロダクションの社長だったボブ・キャヴァロの仕掛けによるもので、前述した参加メンバーの大半は、この人がマネージメントしていたと言われていますし、アルバム全体の統括プロデュースも当然でした。

さらに、これは後で知り得たことですが、ヴァレリー・カーターのキャリアには、ハウディムーンというフォーク系のバンドがあって、ボブ・キャヴァロがマネージメントしていたという因縁もあるのです。

しかし、そういう経緯を知らなくとも、このアルバムの魅力は不思議なほどです。

 A-1 Ooh Child
 A-2 Ringing Doorbells In The Rain
 A-3 Heartache
 A-4 Face Of Appalachia
 A-5 So, So Happy
 B-1 A Stone's Throw Away
 B-2 Cowboy Angel
 B-3 City Lights
 B-4 Back To Blue Some More

まず、A面ド頭の「Ooh Child」には完全KOされますよっ! 曲はスピナーズも歌っている所謂甘茶、つまりスウィートソウルの素敵なメロディなんですが、とにかくヴァレリー・カーターのピュアな歌声、キュートな節回しとせつない情熱が実に素晴らしいです。正統派ポップスと甘茶の理想的な融合♪♪~♪ その成功例が、ここにあるのです。サウンドプロダクトもヴァレリー・カーターの伸びやかな声質を活かしきった多重録音のコーラス、落ち着いた深みがあり、また同時にきらびやかな演奏パートの充実度も絶品だと思います。

告白すれば、サイケおやじは輸入盤屋の店頭で、この曲だけ聴いて、アルバムをゲットしてきたのです。

しかしそこに収められていたのは、このタイプの歌と演奏ばかりではありませんでした。

アース・ウインド&ファイアーの味わいがモロ出しとなったファンキーポップな「City Lights」、同じくそれをニューミュージック調に歌謡曲化したような「So, So Happy」の楽しさ♪♪~♪

そうです、言うまでもなく、このアルバムは当時の我が国では一番の流行だったニューミュージックや歌謡曲に大きな影響を及ぼしたのですねぇ~♪ 実際、今になって聴いていると、そうした元ネタがどっさり楽しめますよ。

そのあたりはフォークロックをラテンフュージョン化した感じの「Ringing Doorbells In The Rain」、シンミリ系のメロディをじっくりと歌いあげていく「Heartache」や「Face Of Appalachia」、ゴスペルロックなアルバムタイトル曲「A Stone's Throw Away」、さらに哀しい恋の情熱がたまらない「Cowboy Angel」でも、尚更に顕著です。

そしてアルバムの締め括りに置かれた「Back To Blue Some More」では、スティーリー・ダンも真っ青なジャズフュージョンの極みつき! 起伏の少ない曲メロを膨らませていくヴァレリー・カーターのボーカルの力量が素晴らしく、また隙間だらけのようで、実は濃密な演奏パートではアーニー・ワッツのサックスが大きな役割を担っているようです。そしてミステリアスなコーラスと思わせぶりなアドリブパートがそのまんま、フェードアウトしていくのですから、ヴァレリー・カーターのボーカルを、もっと聴きたい……! という実に上手い構成になっています。う~ん、これはジョニ・ミッチェルを可愛らしく解釈したんでしょうかねぇ。そんな感想が浮かんでしまうほど、ジャジーなんですよ。

ということで、実に様々なタイプの曲が入ったアルバムですから、本音を言えば、とっちらかった仕上がりだと思います。しかし、そのどれもがヴァレリー・カーターの「歌の力」によって、最高に上手く纏まっていると思います。

それゆえにアルバムを通して聴けば、納得しながらも、実に勿体無い!

個人的にはトップに置かれた「Ooh Child」の色合いで統一されていたら、極上のポップスアルバムになったと確信するほどです。しかし……。

思えば時代はリアルタイムでウエストコーストロックがAORへと移り変わっていく頃でした。些か穿った考察をすれば、このアルバムは、そこへ至る様々なサンプルが収められているようにも感じますし、実際、我が国のニューミュージックとか、アメリカ産のAORには、このアルバムのサウンドが使い回されていると思います。

ヴァレリー・カーターは既に述べたように、クセの無い素直な声質と歌い回しの上手さが際立つボーカリストです。それゆえに業界内での評価も高かったと思いますが、同時にコーラス要員とかの便利屋的な使い方をされていたのは、どうだったのでしょう……。

ちなみに彼女は、この後に2枚目のソロアルバムを出していますが、それは時代に迎合したようなフュージョン系AORにどっぷりと浸りきったような仕上がりでしたから、サイケおやじは完全に期待を裏切られています。

そして案の定というか、彼女は1980年代に入ると、何時しかフェードアウトしていますが、一説によれば健康を害して引退したと言われています。

その意味で、この作品こそが、いや、極限すれば「Ooh Child」だけが、私のヴァレリー・カーターです。

我が国では以前にCD化もされているそうですから、機会があれば、皆様にはぜひとも聴いていただきたい女性歌手のひとりです。ジャケットに写る彼女の強い眼の輝きも、なかなか印象的じゃないでしょうか。

コメント
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