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OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

巨匠と御大

2008-04-20 17:01:51 | Weblog

昨夜は公私共にゴタゴタがあって、些か疲れました。

心の平穏、安逸こそが幸せと実感です。

ということで昨日に引き続き、仕入れたネタから、本日は――

Oscar Peterson & Count Basie Together In Concert 1974 (impro-jazz)

タイトルどおり、オスカー・ピーターソンとカウント・ベイシーが共演したステージの発掘映像DVD! 1974年にチェコのプラハで開催されたジャズフェスティバルから11月8日のライブを収録しています――

01 Old Folks
 まずオスカー・ピーターソンのソロピアノ♪ 人気スタンダードを素材に抜群のテクニックを駆使して緩急自在の演奏を披露しています。それはスローなスタートから圧倒的な音符の洪水、さらに驚異のリズム感で紡ぎだされる桃源郷です。
 カメラワークも客席からは絶対に見えないオスカー・ピーターソンの手と指の動きをしっかりと映し出していますから、興味はつきません。
 しかも歌心というか、ジャズ魂というか、とにかく圧巻の演奏になっていますので、ここだけでもDVDを入手して後悔しないと思います。

02 Just Friends
03 I Love You
04 Mack The Knife

 この3曲はベースのニールス・ペデルセンとのデュオで、いきなりサーカス技みたいな「Just Friends」、和みと眩暈が同時に襲ってくる「I Love You」、さらにオスカー・ピーターソンが十八番の展開を存分に聞かせてくれる「Mack The Knife」と、快演が続きます。
 映像から判断して、ニールス・ペデルセンはピアノの鍵盤が見える位置取りから、演奏中もオスカー・ピーターソンが弾くコードを先取りし、確認しているのがわかります。
 もちろん演奏の呼吸はバッチリ♪ ただし2人とも熱演が過ぎて、私はけっこう疲れてしまうほどですが……。

05 Royal Garden Blues
06 Slow Blues In G
07 Jumpin' At The Woodside
 これがハイライトと言うか、オスカー・ピーターソンの紹介から絶大な拍手に迎えられ、悠然と登場するのが御大カウント・ベイシーです。演奏メンバーはカウント・ベイシー(p)、オスカー・ピーターソン(p)、フレディ・グリーン(g)、ニールス・ペデルセン(b)、ブッチ・マイルス(ds) という面々ですから、グルーヴィなスイング感は天下一品!
 まずジャズの古典「Royal Garden Blues」はオスカー・ピーターソンがウキウキするようなテーマメロディをリラックスしたテンポで弾き始め、リズム隊を呼び込んでからはカウント・ベイシーの「間」の芸術が存分に楽しめます。
 実際、オスカー・ピーターソンが百万の音符を繰り出しても、カウント・ベイシーが長年培ったブルースの染み込んだ音、たったひとつをカウンター気味に入れてしまえば、それで全てが納得させられるんですねぇ~♪
 そのあたりはタイトルどおりに超スローな「Slow Blues In G」で特に顕著となり、グルーヴィにノリまくるオスカー・ピーターソンもタジタジの苦笑い! というよりも自分から演奏を楽しみ、カウント・ベイシーに敬意を表した笑顔だと思います。
 そして「Jumpin' At The Woodside」では狂ったようにスイングするバンドの勢いが最高! フレディ・グリーンのリズムギターも完璧にはっきり聴こえますから、もう、たまりません。このグルーヴとビート感こそが、ジャズの真髄かもしれませんね♪

08 Fun Time
09 Why Not
10 Body And Soul
11 Blues In G
12 Blues In B
13 Oh Boy
14 Jumpin' At The Woodside

 ここからはカウント・ベイシー楽団の演奏となります。メンバーはジャケット記載と実際には異なっており、主力メンバーはソニー・コーン(tp)、ピート・ミンガー(tp)、エディ・ロックジョウ・デイビス(ts)、ジミー・フォレスト(ts)、カーティス・ピーグラー(as)、アル・グレイ(tb)、フレディ・グリーン(g)、ブッチ・マイルス(ds) という名手揃いが、映像で確認出来ます。
 演奏ではジミー・フォレストが脂っこくて腰の強い一人舞台を演じた「Body And Soul」が圧巻! タフテナーの真髄というか、歌心も満点ならば感情移入してイヤミのないブロー、さらにアドリブ構成全体の完成度が素晴らしいですねっ♪
 またアル・グレイが熱演を披露する「Blues In G」も見逃せませんよ。
 そしてゲスト歌手のジョー・ターナーが登場する「Oh Boy」は、少人数のコンポ編成が伴奏を担当しますから、雰囲気も最高です。

ということで、気になる映像も問題なく見られるカラー撮影ですし、音のバランスも上手くいっています。

しかしカメラワークが単調というか、ピアニストの指の動きはきちんと撮影されていて嬉しいのですが、ステージのセッティングの関係でフレディ・グリーンがほとんど映っていないのは大減点! 天才的なリズムギターがしっかりと録音されているだけに、非常に勿体無いところです。

その点を除けば、このブツは大変に素敵な仕上がりで、特にオスカー・ピーターソンとカウント・ベイシーの対決演奏は、お互いの役者ぶりが映像作品ならではの楽しさとして大いに魅力です。ちなみにここは「対決」と書きましたが、素晴らしい協調性が満喫出来る「和み」が本質だと思います。

正直、オスカー・ピーターソンの指だけ見ても呆れるほど♪

機会があれば、ぜひともご覧いただきたい優良作品だと思います。


ネブワースの熱い夜

2008-04-19 19:21:06 | Weblog

あぁ、今日もまた、ネタの仕入れで散財してしまった……。でも、お金は生きているうちに使いましょうね。

と言い訳しつつ、仕入れたブツの中から――

Hot August Night / The Rolling Stones (SODD)

ストーンズが1976年の欧州巡業の後に特別出演した英国ネブワースでの野外フェスから作られたブートの最新リマスター盤です。

録音は1976年8月21日、サポートメンバーとしてビリー・プレストン(key,vo) とオリー・ブラウン(per,vo) が入ったファンキーど真ん中の布陣♪ この日は映像も残されていて、やはり一部がブートとして出回っているほど有名なソースですから、これまでにも様々なブツがありました。

で、このCDは、これまでの良いとこ取りで作られています――

Disc 1
 01 Satisfaction
 02 Ain't Too Proud To Beg
 03 If You Can't Rock Me - Get Off Of My Cloud
 04 Hand Of Fate
 05 Around And Around
 06 Little Red Rooster
 07 Stray Cat Blues
 08 Hey Negrita
 09 Hot Stuff
 10 Fool To Cry
 11 Star Star
 12 Let's Spend The Night Together
 13 You Gotta Move
 14 You Can't Always Get What You Want
Disc 2
 01 Deat Flowers
 02 Route 66
 03 Wild Hores
 04 Honky Tonk Women
 05 Country Honk (adlib)
 06 Tumbling Dice
 07 Happy
 08 Nothing Form Nohting
 09 Outa Space
 10 Midnight Rambler
 11 It's Only Rock'N Roll
 12 Brown Sugar
 13 Rip This Joint
 14 Jumping Jack Flash
 15 Street Fighting Man

――という長丁場の演目は基本的に前年のアメリカ巡業の流れを大切にしつつも、久々に懐かしい曲も演じられた嬉しいものです。

ちなみに当時のストーンズはドラッグ問題と私生活のゴタゴタ、さらに音楽的な煮詰まりも隠せない状況でした。特にキース・リチャーズは子供の死も重なって、ライブの出来は好不調が烈しく、それが残された音源に如実に現れていますから、ファンにとっては様々な意味で興味がつきない時期だと思います。

で、このCDのソースは、サウンドボードのステレオ音源、ビデオ音源、客席からの隠密録音が巧みに組み合わされています。

まず Disc 1 は基本的にサウンドボード音源で、なかなか低音域もしっかりと出たド迫力♪ しかも歓声もそれなりに入っていますから、もしかしたらライブ盤用のラフ音源が流出したのかもしれません。ただしミック・ジャガーのボーカルやキース・リチャーズのギターパートが、時たま不安定に引込んだり乱れたりしますし、雑音ハウリングも仕方がないところでしょう。

もちろん部分的に欠落しているところは、客席からの音源やビデオソースで補っていますが、ロン・ウッドのギターはテンションが高いし、ビル・ワイマンのベースはうねりまくっていますよ♪ ビリー・プレストン&オリー・ブラウンの助っ人組も大活躍です。

肝心の演目では、ほぼ4年ぶりの冒頭「Satisfaction」からバンドがノリノリで、特にビル・ワイマンのベースが物凄いですし、チャーリー・ワッツのドラミングも強烈! あぁ、このテーマリフは永遠に不滅ですねっ♪

そして「Around And Around」や「Little Red Rooster」という初期の演目では、ロン・ウッドがブライアン・ジョーンズのパートを担当しつつも、キース・リチャーズを置き去りにしたような熱演です。というか、このパートはキース・リチャーズのギターがイマイチ、聴こえないのですが……。

さらに懐かしい「Let's Spend The Night Together」では曲紹介から、あのイントロが出た瞬間、客席の興奮が伝わってくる快演で、このハードロックで混濁した雰囲気はストーンズそのものだと感涙します。オリジナルバージョンと大きく異なるダミ声コーラスも良い感じ♪ キース・リチャーズのギターも音をハズシまくっていますが、憎めません。

続く Disc 2 は、最初の3曲までが基本的にサウンドボードのステレオ音源ですが、音質はやや落ちています。そして「Honky Tonk Women」からは「Tumbling Dice」まではビデオ音源でしょう。当然モノラル仕様ですが、それはそれで聞きやすいと思います。そして「Happy」から「Outa Space」までは客席の隠密録音で、またまた音質は落ちますが、リマスターによって低音域が修整されていますし、当時の機材レベルからすれば合格点かもしれません。

しかし「Midnight Rambler」は多分、ビデオ音源でしょうか? 音質は良好なモノラルミックスなんですが、肝心のミック・ジャガーのボーカルが引込んでいて……。さらに続く5曲は再び客席からの隠密録音になりますから、過大な期待は禁物なんですが、バンドの勢いが凄いですから、グッと惹きこまれます♪ そして良く聴くと、複数の音源のミックスになっていて、部分的にはサウンドボード音源??

演奏そのものについては、まず「Route 66」が嬉しいところ♪ やっぱりこういうR&Rを演じるストーンズは世界一ですねっ♪ ビリー・プレストンのピアノも存在感があります。

ということで、この頃のストーンズはファンキーロック路線で押しまくっていた頃ですが、いずれの演目もヘヴィなグルーヴと真っ黒なフィーリングが表出したドロドロ状態です。ビリー・プレストンとオリー・ブラウンの活躍も大いに目立つところですし、ロン・ウッドのギターからはニューソウルっぽいフレーズが出まくりです。特に「Wild Hores」は個人的に大好き♪

そのあたりは公式ライプ盤の「ラブ・ユー・ライブ」でも楽しめるところなんですが、あれはスタジオでの手直しでダビングや編集が多く、音もすっきりと整理されていますから、ブートでリアルにドロドロのストーンズを体験してしまうと物足りません。当時は実際のライブに行けた日本人ファンは少なかったはずですから、ブート中毒に陥るのも許されると自己弁護しています。

そしてこのブツは、ブート初心者にもオススメ出来るものです。機会があれば前述の「ラブ・ユー・ライブ」あたりと聞き比べてシビレるのも最高だと思います。

思えばストーンズの野外演奏は、あのオルタモント以来ですからねぇ~。お祭気分で昔の演目をやってしまったのかもしれませんが、全体のテンションの高さも、それゆえかもしれません。


モブレーの裏名盤?

2008-04-18 17:01:27 | Jazz

気のせいか、今年の桜は色が薄いような……。なんか白っぽく見えてしまうのですよ、私には……。気のせいだと良いんですがねぇ。

ということで、本日は――

Thinking Of Home / Hank Mobley (Blue Note / キング)

ハンク・モブレーがブルーノートに残した最後の作品と言われているアルバムですが、発売はリアルタイムではなく、1970年代中頃から活発になった一連の未発表音源発掘作業による登場でした。

これは確か、1980年の発売だったでしょうか。アメリカ盤は色気の無い風景写真みたいなのを使ったデザインでしたから、より雰囲気のある日本盤を私が買ったのは当然の成行きです。ちなみに発売していたのは東芝ではなく、キングレコードというだけで微妙に嬉しいというは、ご理解いただけるでしょうか♪

録音は1970年7月31日、メンバーはハンク・モブレー(ts)、ウディ・ショウ(tp)、シダー・ウォルトン(p)、Eddie Diehl(g)、Mickey Bass(b)、リロイ・ウィリアムス(ds) という新鮮な組み合わせです――

A-1 Suite
     a.Thinking Home
     b.The Flight
     c.Home At Last

 ジャケットを見て組曲形式という演目に、まず吃驚した記憶が今も鮮烈です。う~ん、嫌な予感が……。
 案の定、最初のパート「Thinking Home」は深刻な雰囲気が濃厚で、思わせぶりなリズム隊のアンサンブルと重苦しいテーマメロディ! ハンク・モブレーもしっかりと苦悩した吹奏です。
 ところが次の瞬間、溌剌として開放感ある、あのモブレーメロディがモロ出しの痛快なテーマが始るんですねぇ~~♪ アクセントの効いたリズムアレンジも最高ならば、アドリブ先発のウディ・ショウも本領発揮の熱血節! ここが「The Flight」のパートだと思いますが、モードも入った新感覚ながら歌心に満ちたハンク・モブレーが快演でニヤリとしてしまいます。ギターが入ったリズム隊も絶好調で良い感じ♪ シダー・ウォルトンもクールにキメてくれます。
 そしてカッコ良さがいっぱいのテーマリフが緩やかに変化し、続けて始るのが、これまた気持ち良すぎるリラックスしたボサノバです。サブトーンを使いながらメロディアスに歌うハンク・モブレーが実に最高なんですが、Eddie Diehl のギターもなかなかイケています。これが「Home At Last」というパートなんでしょうね。
 スバリ、最高としか言えません!

A-2 Justine
 如何にもというリズム隊のアクセントを上手く使ったグルーヴィなハードバップで、ちょっとアフリカ色を感じるのは時代性の表れでしょうか。
 ハンク・モブレーのアドリブも力強さやハードな面を強調したようなノリが強く、そこに執拗に絡んでくるリズム隊がさらに演奏を熱くしていきますから、ハンク・モブレーの新しい冒険というところかもしれません。しかしきちんと黒っぽいグルーヴでアドリブを終わらせるところが流石だと思います。
 するとウディ・ショウが俺に任せろ! まあ、こういう展開は十八番ですからねぇ~、新進の意気込みも強くありながら、余裕すら感じさせるアドリブが憎たらしいほどです。
 またベースの Mickey Bass も、かなりエグイですよ。

B-1 You Gotta Hit It
 溌剌として新鮮なハードバップの名演で、アップテンポでビシバシに弾けたバンドの勢いがたまりません。スタッカートを使いまくったテーマからしてウキウキしてきます。
 ただしハンク・モブレーはリズム隊の煽りに些か戸惑い気味というか、十八番のタメとモタレをイマイチ出し切れず……。しかしそれをカバーして余りあるのがウディ・ショウの熱演です。トンパチなドラムスとの相性も最高ですし、シダー・ウォルトンの合の手も楽しそう♪
 う~ん、それにしてもこのリズム隊は爽快ですねぇ。アドリブパートでもノリまくるシダー・ウォルトンはもちろんのこと、明らかに新時代を感じさせるグルーヴが素晴らしいと思います。

B-2 Gayle's Groove
 そのリズム隊の要として大活躍しているベーシストの Mickey Bass が書いたグルーヴィなオリジナルですから、グイノリで本領を発揮するリズム隊と煽られるハンク・モブレーという構図が痛快です。
 もちろんハンク・モブレーもノリまくった雰囲気ですが、肝心のアドリブメロディが意識過剰かもしれません。そこへいくとウディ・ショウは自然体のモード節が冴えまくり♪ 朗々とトランペットを鳴らしています。
 また Eddie Diehl のギターが不思議系のアドリブながら、きちんとハードバップしていますし、シダー・ウォルトンは安定感が頼もしい限りでしょう。

B-3 Talk About Gittin' It
 オーラスは不穏なイントロから一転して快楽の桃源郷というボサロック♪ Eddie Diehl のリズムギターが実に楽しく、もちろんハンク・モブレーが書いたテーマメロディも和みますねぇ♪
 アドリブパートはウディ・ショウから Eddie Diehl の快演を経て、いよいよ登場するのが御大ハンク・モブレーという仕掛けですが、大雑把に雰囲気を醸し出すことに腐心した憎めないものというは、モブレーマニアの贔屓の引き倒しでしょうか……。
 演奏全体を引き締めるリロイ・ウィリアムスの強いビートが実に楽しい限りですよっ♪ 再び登場のウディ・ショウからシダー・ウォルトンへの展開は、誰がリーダーか分からなくなるほどです♪

ということで、内容はかなり秀逸な楽しいアルバムなんですが、発売されたのがフュージョンブーム爛熟期であり、新伝承派による4ビート復活運動の真っ只中とあっては、こういう快楽主義に満ちた作品は中途半端でした。

しかし演奏の充実度、楽しさ、そして吹き込まれた時期のジャズの状況が、これほどダイレクトに伝わってくる作品も珍しいのでは?

つまりハンク・モブレーはこの後、体調の不良もあって落目の三度笠……。逆にウディ・ショウやシダー・ウォルトンはハードバップリバイバルもあって第一線で活躍していく端緒であり、リズム隊に参加した他のメンバーも、結局は実力がありながらもフュージョンの波に飲まれたかのように逼塞していくのです。

このアルバムが当時未発売に終わったのも、そう思えば肯定できる部分もありますが、しかし本物の輝きは間違いなくある隠れ名盤じゃないでしょうか?

楽しさは保証付きで、埋もれているのは勿体無い限りだと思います。


ロックジャズはフリーロックか?

2008-04-17 17:01:11 | Weblog

今日も仕事はロクな方向に行きません。

というか思惑外れが甚だしく、時間に縛られ、自分のM性に目覚めたら恐いなぁ……、という1日でした。

ということで、本日はモヤモヤをブッ飛ばし、混濁したエネルギーに身を任せたという――

Emergency! / The Tonny Williams Lifetime (Polydor)

今や伝説のライフタイム! 18歳でマイルス・デイビスのバンドに入り、天才的なパルスドラミングで世界を圧倒したトニー・ウィリアムスが独立して結成したバンドのデビュー盤が、これです。

しかしどんな世界にも嫌われ者が居るように、我国のジャズ喫茶では困り者の存在がこのアルバムでした。

なにしろモロにロックビートでギンギンのギター、プログレのような脱力ボーカル、そして煮え切らなさ……。ちなみに発売された1969年当時はジョン・コルトレーンの「至上の愛(impules!)」や「アセンション(impules!)」が聖典であり、アルバート・アイラーの「スピリッチャル・ユニティ(ESP)」やオーネット・コールマンの「ゴールデンサークル(Blue Note)」、あるいはアート・アンサンブル・オブ・シカゴの諸作が先端の人気盤でありましたからねぇ……。

ところがロックファンからすれば、ビートの芯が感じられないドラミング、意味不明のギターとオルガン、黒人っぽくないボーカル等々、これまた忌み嫌われる要素がたっぷりという……。

つまりリアルタイムでは、どっちつかずの仕上がりでしたから、商業的な成功はもちろんのこと、評論家の先生方からもケチョンケチョンだったのです。

それでも私は当時、このアルバムが聞きたくて仕方がありませんでした。2枚組で値段も高くて直ぐには買えませんでしたし、そこにあるニューロックの香りとモダンジャズの背伸びした雰囲気に惹きつけられていたのです。

もちろんメンツの魅力も絶大でしたから、別に私だけじゃなく、ジャズ喫茶ではリクエストの機会もあったはずですが、実際は露骨に嫌な顔をされたり、置いていません! という店が主流だったということです。

録音は1969年5月26&28日、メンバーはジョン・マクラフリン(g)、ラリー・ヤング(org)、トニー・ウィリアムス(ds,vo) という、今でも震えがくるほどの過激なトリオ! ちなみにトニー・ウィリアムスはマイルス・デイビスのバンドメンバーとして渡英した時にジョン・マクラフリンのライブに接して仰天し、いっしょにバンドを組むことを前提として独立を考えていたとか!?

そしてアメリカにやって来たジョン・マクラフリンは当然の流れからマイルス・デイビスのバンドにも参加することになり、そうして製作されたのが「イン・ナ・サイレントウェイ(Columbia)」や「ビッチズ・ブリュー(Columbia)」等々というわけですが――

A-1 Emergency
 いきなりドカドカうるさいロックバンドのノリで、トニー・ウィリアムスのドラミングは明らかにマイルス・デイビスのバンドで4ビートを叩いていた頃とは変質しています。もちろんエレキがギンギンギン!
 しかし直ぐに高速4ビートに転換し、あの爽快至極なシンバルワークに煽られてジョン・マクラフリンが完全無欠に眩暈のアドリブ! チョーキングも使いながら、しかし音色は余計なエフェクターを用いませんから、充分にジャズっぽいはずです。トニー・ウィリアムスのオカズの入れ方はシャープですし、バスドラやスネアの過激さも天下一品!
 演奏は中盤からテンポを落として、ちょっとアブナイ方向へ走り出しますが、ここも充分にジャズっぽく、ラリー・ヤングのオルガンが宇宙的な広がりを感じさせてくれます。
 そして再び前半の雰囲気に戻りつつ、今度はグッとロックっぽく盛り上がり、行きつく先はフリーな領域へ! ラリー・ヤングのオルガンが地獄を彷徨すれば、トニー・ウィリアムスは十八番のリックを敲きまくり、ジョン・マクラフリンも好き放題に弾きながら、トリオは散会しては再び纏まるという繰り返しが山場となっています。
 ですから決して4ビートが蔑ろにされていません! むしろジャズそのものと言って間違いない演奏のはずなんですが……。当時はこんなの、ジャズじゃねぇっ! と怒りの発言が飛び交ったのでした。
 
A-2 Beyond Games
 これまたモヤモヤした中から過激な演奏が浮かび上がり、トニー・ウィリアムスの語りが始って、あとは地獄のジャズロック! というよりもロックジャズと言うべきでしょうか……?
 演奏そのものは変幻自在のプログレですから、これはこれで凄いはずなんですが、トニー・ウィリアムスの語りにどうしても共感出来ないというリスナーが、私も含めて多いと思われます。
 しかしこれって、中期のキングクリムゾンですよねっ♪ 後半にかけてのバンドが一丸となったグイノリではトニー・ウィリアムスの重くてシャープなドラミングも冴えています。

B-1 Where
 単調な中に宇宙的な広がりを求めたジョン・マクラフリンのオリジナルですが、ここでもトニー・ウィリアムスの脱力ボーカルが完全に???
 ところがそこを通過すると、なかなか素敵なロックジャズがスタート♪ ジョン・マクラフリンの透き通った音色のギターが熱くて幽玄なアドリブを展開すれば、トニー・ウィリアムスは4ビートからフリーなリズムまで幅広く敲き出してバンドを導いていきます。
 このあたりはマイルス・デイビスのバンドでは絶対に出来なかった展開でしょう。特に4ビートのパートではラリー・ヤングも正統派の実力を発揮していますが、むしろ混濁したロックビートのパートの方がイキイキとしている感じが濃厚♪
 あぁ、それにしてもジョン・マクラフリンは熱くなっていますねっ♪ これでトニー・ウィリアムスのボーカルが無ければなぁ……。

B-2 Vashkar
 前曲からのエンディングがそのまんま使われたイントロから、これまた熱いロックジャズが演奏されています。ジョン・マクラフリンの熱さは、そのまんまの勢いですし、トニー・ウィリアムスのドラミングが炸裂すれば、ラリー・ヤングのオルガンは痙攣しまくっていますねぇ~♪
 短い演奏なのが、勿体無いです。
 
C-1 Via The Spectrum Road
 出だしはブルースロックの響きながら、またまたトニー・ウィリアムスが大ボケのボーカルが大減点! しかしジョン・マクラフリンのギターは多重録音も使ってテンションが高く、アドリブパートに入っては熱血の早弾きに激情のチョーキング、さらにはカウンターのリフ攻撃と大暴れです。う~ん、なんかトニー君のボーカルに怒りを覚えている感じ!?
 まあ、演奏そのものはトニー・ウィリアムスのハイハットとバスドラも冴えまくりですし、ラリー・ヤングのオルガンも上手く調子を合わせる名人芸でしょう。

C-2 Spectrum
 このアルバムの中では一番ジャズっぽい演奏です。
 つまり最初っからアップテンポの4ビートで押し切って痛快至極! ジョン・マクラフリンの凄すぎるアドリブ、トニー・ウィリアムスの豪快なドラミング、ラリー・ヤングの突撃オルガンが存分に楽しめますから、これにはイノセントなジャズファンも安心でしょう。
 最終盤のロックなノリもご愛嬌で嬉しくなります。

D-1 Sangria For Three
 烈しくプログレした烈しい演奏で、それはラリー・ヤングのオルガンが色合を決定した感があります。これまたなんとなくキングクリムゾナンらしいような……。
 しかしジョン・マクラフリンはアドリブパートに入ると猛烈な4ビートでドライヴしまくりです♪ トニー・ウィリアムスのドラミングはラテンビートも織り交ぜた素晴らしさですし、ラリー・ヤングのオルガンも極めて正統派ですから、たまりません。
 そして中盤からは、このトリオが得意技というスペーシーな展開へ突入し、ここからはソフトマシーンとかアイソトープのような英国産ジャズロックの響き♪ それが力強い、ドカドカのロックに化学変化し、再び4ビートが基本の演奏に戻っていくあたりが、快感でしょうか。 
 あぁ、フリーロック、万歳!!!

D-2 Something Special
 ほとんどマイルス・デイビスのバンドのような、なかなかストレートに熱い演奏です。メロディ展開の中にはサンタナのようなメロウに雰囲気も若干ありますし、グイグイと突っ込んでいくところはハードロックも顔負けでしょう。
 いゃ~、何時、マイルスのトランペットが出ても不思議ではなく、明確なアドリブパートが無い分だけ、それが強く感じられるのでした。

ということで、個人的には大好きなアルバムなんですが、フュージョンブームの時でさえ、これは快楽性が薄いとして駄盤扱いでしたし、トニー・ウィリアムスのドラミングなんか、局地的にはイモ呼ばわりされていました。まあ、その気持ちは分かりますが……。

結局、この演奏にシンパシーを感じるかは相性の問題が強く、ジャズ史的な名盤論争とかロックやフュージョンの人気盤とは成りえない宿命があるのかもしれません。

あえて言わせてもらえば、トニー・ウィリアムスの脱力ボーカルが、その要因でしょうか……? 演奏そのものは過激でド迫力、凄いテンションが漲っていますから、聴かず嫌いは勿体無いと思います。

ところで今のジャズ喫茶では、このアルバムは鳴っているのでしょうか?


ふたつのMJQ

2008-04-16 17:22:20 | Weblog

今日は初夏のような陽射しでしたから、昼飯は冷やし中華を注文♪

すると全然知らない周りのお客さんも連鎖反応的に、俺も、同じの! これが食堂の連鎖反応というか、妙な連帯意識なのでした。

ということで、本日は――

MJQ / Modern Jazz Quartet & Milt Jackson Quintet (Prestige)

MJQと言えばモダン・ジャズ・カルテット! まあ、マン●●タン・ジャズ・クインテットなんていうのも存在しているらしいですが、もうひとつ、ミルト・ジャクソン・クインテットの演奏をカップリングして仕立て上げられたLPです。

あまりにもベタでシャレになっていないアルバムタイトルが憎めないほどですが、もちろん中身も統一された企画というよりは、SP音源と10吋盤を12吋盤に拡大収録したのが実相です。

しかし演奏はモダンジャズ上昇期の快演集♪

☆Modern Jazz Quartet
 A-1 All The Things You Are
(Prestige 828 / SP)
 A-2 La Ronde (Prestige 828 / SP)
 A-3 Vendome (Prestige 851 / SP)
 A-4 Rose Of The Rio Grande (Prestige 851 / SP)
 MJQが最初期の録音から発売されたSP2枚の4曲が、これです。
 元々はディジー・ガレスピー楽団のリズム隊からユニットごと独立したMJQは、後にサボイレコードからLPに纏められる音源を吹き込んでいましたが、特に単独でモダン・ジャズ・カルテットを名乗って発売したのが、これらの4曲だと言われています。
 録音は1952年12月22日、メンバーはミルト・ジャクソン(vib)、ジョン・ルイス(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(ds) という、これが一応のオリジナルバンドでした。
 中でも注目されるのが、何と言っても「Vendome」でしょう。バロック音楽の様式美をモダンジャズの中に大胆に持ちこみ、見事な構成とアドリブの両立は永遠に不滅です♪ というか、実はどこまでが即興演奏なのか、些か疑問もあるんですが……。なんというか、リハーサルで煮詰められた完成度の高さが感じられ、日々のライブの場でも全く同じ演奏とアドリブになっていたのでは?
 そういう部分は「All The Things You Are」でも同様ですが、こちらは聞き慣れた有名スタンダードの演奏に新鮮な色合を加えたという趣が素晴らしく、また「Rose Of The Rio Grande」では緻密なアレンジがミエミエなところに、かえって魅力を感じてしまいます。
 しかし「La Ronde」と名付けられた曲は、有名なビバップの定番「Two Bass Hit」と同じですから、ケニー・クラークのドラムスが炸裂し、ミルト・ジャクソンが豪快なアドリブを聞かせるという痛快な仕上がりです。
 ちなみにケニー・クラークは、後にコニー・ケイと入れ替わってバンドを去り、それ以降がMJQの全盛期とされていますが、私はケニー・クラーク時代のバンドに愛着があって、この演奏などは特に大好きなのでした。

☆Milt Jackson Quintet
 A-5 Opus De Funk
 B-1 I've Lost Your Love
 B-2 Buhaina
 B-3 Soma

 こちらは10吋LP「Milt Jackson Quintet (Prestige 183)」として発売された音源の再発です。
 録音は1954年6月16日、メンバーはヘンリー・ブージアー(tp)、ミルト・ジャクソン(vib)、ホレス・シルバー(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(ds) となっていますが、演目では特に「Opus De Funk」に注目が集まるでしょう。
 もちろんこれはホレス・シルバーの高名なオリジナルで、ミルト・ジャクソンも後に十八番として自己のリーダー盤「オパス・デ・ジャズ(Savoy)」で超快演を聞かせ、それを名盤化させたほどですが、このセッションのバージョンも、なかなか良い感じです。
 まずホレス・シルバー以下のリズム隊に勢いとエグミがあり、ミルト・ジャクソンが間然することの無い強烈なアドリブを展開すれば、ホレス・シルバーはファンキーど真ん中の大熱演! テーマではミュートで迫ったヘンリー・ブージアーのトランペットもアドリブではオープンで吹っ切れたような快演です。あぁ、演奏時間の短さが残念でなりませんねぇ~。
 また「I've Lost Your Love」はミルト・ジャクソンの得意技というスローバラードの歌物解釈が絶品♪ 明確にアドリブらしい部分はないのですが、ほんのりとディープに響くヴァイブラフォンの音色も心地良く、ヘンリー・ブージアーのトランペットも朗々とテーマメロディを吹奏しています。
 そして続く「Buhaina」はゴスペルファンキーがモロ出し、「Soma」はレイジーなジャズフィーリングが素敵な演奏で、やはりハードバップ万歳! じっくり構えてブルースに耽溺していく表現はミルト・ジャクソンならではと思います。
 またトランペッターのヘンリー・ブージアーは無名に近い存在ですが、R&Bっぽい感覚の持ち主で、捨てがたい魅力がありますねぇ♪ ホレス・シルバーのファンキー節も言わずもがなです。

ということで、両セッションともにイノセントなジャズの魅力がたっぷりと楽しめます。特にA面の4曲はMJQがモダン・ジャズ・カルテットになった瞬間を記録した名演揃い♪ ケニー・クラークのドラミングも、なかなか芸が細かく、豪快なところも流石だと思います。

また後半のミルト・ジャクソンのリーダーセッションでも、シルバー、ヒース&クラークというリズム隊がシャープなグルーヴを作り出していて、これもなかなかイケてますねぇ♪

全く純粋にモダンジャズを楽しめるアルバムだと思います。輪郭のはっきりした録音も秀逸なのでした。


ビル・ワトラスが聴きたくて

2008-04-15 15:44:18 | Weblog

本日は気持ちの良い天候なれど、仕事はハードな方向へ……。

なんか、やってらんないっ、という気持ちばかりが先にたちます。

という気分を一新させるために――

Funk'n Fun / Bill Watrous (Atras)

ビル・ワトラスは白人トロンボーン奏者で、滑らかなスランドワークとふくゆよかな音色、作編曲も上手く、さらに幅広い音楽性を感じさせる演奏は、完全に私好みです。

しかし、その実力に反してリーダー盤を作る機会に恵まれていたとは言えません。ビックバンドを率いてのアルバムもありますが、やはり小編成バンドでアドリブ中心の演奏こそが、望まれるのです。

さて、この作品は1979年に我国で製作発売された待望のクインテット盤で、私なんか出た瞬間にゲットした1枚なんですが、実は多くのジャズファンにとって価値があったのは、ビル・ワトラスではありませんでした。

なんと共演者にアート・ペッパーが参加していたんです!

録音は1979年3月26&27日、メンバーはビル・ワトラス(tb)、アート・ペッパー(as)、ラス・フリーマン(p)、ボブ・マグヌッセン(b)、カール・バーネット(ds) という、当時のアート・ペッパーのバンドにビル・ワトラスが客演した雰囲気が濃厚です。

ちなみに「アトラス」という日本の会社は往年のウエストコーストジャズを復興させるという名目はありましたが、どうやらアート・ペッパーを録音するのが目的というのが真相でした。しかし契約の関係からアート・ペッパー名義のリーダー盤は出すことができず……。

しかしその目的意識のはっきりした製作方針ゆえに、当時はモードに耽溺した演奏で従来のファンを裏切っていたアート・ペッパーを、よりメロディアスで感情移入しやすいスタイルで録音させた事実は、今日では「お宝」に近いありがたみでしょう――

A-1 Just Friends
 モダンジャズでは名演が多数残されている有名スタンダード曲が、如何にもウエストコーストのジャズで演じられています。テーマメロディをリードする鋭いアート・ペッパー、そこへ柔らかい音色とフレーズで絡んでいくビル・ワトラスの存在に、私は聴いた瞬間、歓喜悶絶でしたねぇ♪
 もちろんアドリブパートに入ってもスピード感に満ちたスライドワークで驚異のフレーズを大連鎖! アート・ペッパーも負けずに、あの陰影に彩られた独自の「節」を存分に披露してくれます。
 リズム隊のメリハリの効いたサポートもツボを押さえてイヤミ無く、1970年代丸出しの録音も、今聴くと微笑ましいと感じます。

A-2 Begin The Beguine
 なんとアート・ペッパーが十八番にしていたスタンダード曲が、堂々と選曲されています! もちろんラテンのリズムも爽やかなアレンジになっていますが、ここでは最初っから電気増幅されたベースの音が、ちょいとイヤミじゃないでしょうか……。
 まあ、それはそれとして、ビル・ワトラスはここでもウルトラ級の快演ですし、アート・ペッパーも鋭さ、唯一無二のタメとツッコミ、さらに新しめのフレーズを上手くミックスして聞かせてくれます。
 う~ん、それにしてもビル・ワトラスは凄い、凄すぎます! まさに超絶技巧! その所為か否か、リズム隊がちょっとフュージョンっぽいような……。

A-3 When Your Lovers Has Gone
 アート・ペッパー抜きという、ビル・ワトラスのワンホーン演奏で、美メロのスタンダード曲がじっくりと楽しめます。音色もフレーズの妙も、全てが夢見心地という雰囲気が横溢し、ドラムスがちょっとタメきれないという部分も聴かれますが、一度虜になると、抜け出せない魅力があるのでした。
 本当にフワフワした綿菓子のようなトロンボーンの甘い音色♪ たまりません。

A-4 For Arts Sake
 おそらくアート・ペッパーに捧げて書かれた、ビル・ワトラスのオリジナル曲で、ビシバシのアクセントが効いたリズム隊と妥協しないフロントの2人が豪快な演奏を繰り広げています。
 なにしろアドリブ先発のビル・ワトラスが超絶技巧と情熱の歌心で間然することの無い出来栄えならば、アート・ペッパーは絶妙のブレイクと新しいフレーズも交えた情熱の疾走です!
 そしてリズム隊のシャープな動き、ラス・フリーマンの大ハッスルに加えて蠢き弾むベース&ドラムス! あぁ、ジャズを好きで良かったという感想しか出ません。
 こういう曲調と演奏が活かされる録音も秀逸だと思います。

B-1 Funny Blues
 1950年代のアート・ペッパーを再現・再生する目論みがミエミエの演目ですが、これがなかなか上手くいっています。グルーヴィなノリに加えてペッパー節が丸出しというアドリブのキメに涙が滲むほどですよ。
 しかしビル・ワトラスは意識的なオトボケが強いのでしょうか、バカテクのフレーズ展開からは、些か情緒が不足している雰囲気が……。
 気になるリズム隊では、ラス・フリーマンが大ハッスルして些かハズシたようなところもありますが、落ち着いたベースとワルノリ寸前のドラムスが良い感じだと思います。

B-2 Angel Eyes
 お待たせしました、いよいよアート・ペッパーのワンホーン演奏による有名スタンダード曲です。リアルタイムの当時、ほとんどのファンはこの曲に期待していたと思います。
 もちろん、じっくりと構えた演奏になっているのは言わずもがな、こちらが期待するペッパー節の泣きの世界が、本人の目指す新しい表現と上手く一致して、結果オーライ♪
 正直言えば、1950年代の瑞々しい情緒はありませんが、ドロドロした泥沼の世界に咲いたハスの花のような美しさは、確かにあると思います。
 そしてラス・フリーマンが、なかなかの好演です。

B-3 P. Town
 オーラスは明るいオトボケの入った東宝映画のような楽しい演奏です。弾みの強いリズム隊、ホンワカとスイングするビル・ワトラス、そして自然体で好きなように吹きまくるアート・ペッパーと、全てが良い方向に作用していると感じます。
 もちろん期待を裏切られるような音は出てきませんが、それが逆に物足りないという贅沢も言いたくなるのでした。

ということで、ジャケットも内容も、まさに今の時期にジャストミートの1枚です。春風の中でホノボノとして調子の良すぎる演奏ばっかりなんですねぇ、これはっ♪

録音の按配も往年のコンテンポラリーあたりのスカッと抜けが良くて力強いという感じが、さらに最新の技術で澄み切ったものになっています。これが好き嫌いの分かれるところかもしれません。

しかし演奏そのものは充分に合格点というか、古くからのアート・ペッパー信者にも、ある程度は納得だと思いますが……。個人的には冒頭で述べたように、ビル・ワトラスがこれだけ聴ければ、充分満足の1枚でした。


団子状のファンキーグルーヴ

2008-04-14 18:15:42 | Weblog

やっぱりというか、月曜日は疲れます……。

それでもメインの「サイケおやじ館」は、なんとか更新出来ましたので、よろしくお願い致します。

ということで、本日は――

Blowin' The Blues Away / Horace Silver Quintet & Trio (Blue Note)

ホレス・シルバーはファンキー&ハードバップの代表選手ですが、本職のピアニストとしてよりも、バンドリーダー&作曲家としての認識が強いと思われます。

しかしピアニストとしては、既成のビバップとは一線を隔したスタイルが特に個性的であり、つまりバド・パウエルの流儀から外れたシンコペーションの面白さとかリズム的な興奮があって、それこそがファンキーど真ん中の熱気溢れるバンドを成功させたカギじゃないでしょうか?

そんな事を思うと、このアルバムにはわざわざ「Quintet & Trio」と明記してあるとおり、徹底的に自身のピアノを中心としたリズム隊の勢いで押し切った演奏姿勢が如実な魅力となっています。

録音は1959年8&9月、メンバーはブルー・ミッチェル(tp)、ジュニア・クック(ts)、ホレス・シルバー(p)、ジーン・テイラー(b)、ルイス・ルイス(ds) という、お馴染みのレギュラーバンド♪ 演目も全て、ホレス・シルバーの自作で纏めてあります――

A-1 Blowin' The Blues Away (1959年8月29日録音)
 いきなり猛烈な勢いでブッ飛ばすハードバップの快演です! ジュニア・クックもブルー・ミッチェルもアドリブパートでは比較的分り易いフレーズを中心に吹いていますが、その背後で大暴れするのがホレス・シルバーのピアノで、終始、ガンガンとツッコミまくり!
 もちろんアドリブに入っても独特のリズミックなノリ、特に左手のコード弾きはエグイばかりで、右手で弾かれる単純なフレーズとのコンビネーションはリズム的な興奮を煽ります。
 しかもそこへ被さってくるのが息もぴったりのホーン2人組がビシッとキメたテーマリフなんですから、本当にスカッとした演奏です。

A-2 The St. Vitus Dance (1959年9月13日録音)
 そしてこれがまた、恐くて凄いリズム隊だけの演奏で、テーマメロディはバド・パウエルでも書きそうな雰囲気ながら、ホレス・シルバーのビアノからは追い立てられるようなファンキー節とゴンゴン鳴りまくるコードが団子状態で迫ってきます。
 あぁ、この混濁した音の連なりは本当に快感で、他のピアノトリオでは決して味わうことの出来ない個性的なグルーヴが噴出♪ ルイス・ヘイズのシャープなドラミングと落ち着いたジーン・テイラーのベースワークが、堅実な助演で好感が持てます。

A-3 Break City (1959年8月30日録音)
 再びクインテットによる演奏で、アップテンポのハードバップになっていますが、前の2曲があまりにも凄すぎた所為か、ちょっと軽く聞こえてしまうほどです。
 ただし凡百の演奏では決して無く、痛快に疾走するリズム隊に煽られてテナーサックスとトランペットは絶好調♪ ルイス・ヘイズも小技が冴えています。、

A-4 Peace (1959年8月30日録音)
 いろいろなミュージシャンがカバーしているホレス・シルバーの隠れ名曲で、ちょっと陰鬱で静謐なメロディに奥深い情感が漂います。
 ホレス・シルバーはスローな演奏ではつまらない、とする定説もありますが、この曲ではブルー・ミッチェルのテーマ吹奏からアドリブにストレートな哀愁が滲み、ホレス・シルバーのアドリブも作者の強みを発揮した音選びの妙が流石だと思います。中盤からビートを強く打ち出していく展開もニクイところ♪

B-1 Sister Sadie (1959年8月30日録音)
 これもホレス・シルバーならではのゴスペルファンキーな名曲で、美味しいリフがこれでもかとテンコ盛り♪ 上手いアクセントで煽るリズム隊の存在ゆえにグルーヴィな雰囲気が横溢し、シャープなホーン陣の活躍もありますから、まさに楽しい名曲・名演となっています。
 もちろんここでもリズム隊中心に聴くのがツボでしょうねぇ。ゴスペルピートに専念するルイス・ヘイズ、全然休まないホレス・シルバー、蠢き弾むジーン・テイラーという一体感が物凄い限りですから、ホレス・シルバーのアドリブも思わず手拍子足拍子♪ こんなに分り易いジャズって許されるのでしょうか? もちろんこれで正解だと思います。
 終盤のゴスペルリフの連発乱れ打ちも実に楽しいですねっ♪

B-2 The Baghdad Blues (1959年8月29日録音)
 タイトルからして私が苦手の中近東メロディかと思いきや、リズムパターンからエキゾチックな雰囲気が強いだけで、正統派ハードバップの痛快演奏になっています。テーマリフの突っ込んでいく感じが良いですねぇ~。
 そしてアドリブパードではジュニア・クックがなかなかの名演♪ しかも背後ではホレス・シルバーが実に素晴らしい事を様々にやっていて、それはブルー・ミッチェルのバックでも同様ですから、たまりません。
 このあたりがホレス・シルバーのバンドとしての個性だと思います。リズム隊の纏まりの良さは言わずもがな、ちょっと勘ぐれば、ホーン奏者には単純なアドリブしか許さないというリーダーの方針があったのかもしれません。つまり自分のピアノをあくまでも中心に聴かせたいという思惑でしょうか。それゆえに伴奏でも烈しく突っ込むのかもしれません。

B-3 Melancholy Mood (1959年9月13日録音)
 オーラスは前年に出した「ファーザー・エクスプロレイションズ(Blue  Note)」に収録されていた曲の新録バージョンで、タイトルどおりの、些か陰鬱なメロディがホレス・シルバーのピアノを中心に演奏されています。
 正直言えば、個人的には全く共感出来ない仕上がりで、実はB面は2曲目が終わると針を上げてしまうことが度々……。

ということで、最後に些かケチもついたアルバムではありますが、とにかくリズム隊というかホレス・シルバーの圧倒的な演奏スタイルは、伴奏もアドリブもゴッタ煮状態という物凄さ!

素直にそのあたりを楽しめば、このアルバムは天国への直行便です。特にA面の最初の2曲は強烈なのでした。

イラストを使ったジャケットもスイングしまくっていると思います。


おもいっきり中毒盤

2008-04-13 16:56:38 | Weblog

今日は観桜会、つまり花見の宴会があって、またまた楽しいはずだったんですが、現代はケータイなんていう不粋な道具があって、やれやれです。もちろん仕事の云々なんですが……。

ということで、本日は――

Look Out! / Satnley Turrentine (Blue Note)

ジャズはアクの強い音楽ですから、感染症を引起こすことも度々です。どういう事から言うと、例えば誰かの演奏を聴いてシビレ、続けて関連する音源やアルバムを次々に聴かずにはいられないという中毒症状に陥るんですねぇ。これは皆様にも、きっと思い当たるフシがあるのでは?

で、私の場合はホレス・パーランという黒人ピアニストに中毒しています。それはもちろん「アス・スリー(Blue Note)」という畢生の名盤を聴いて以降の事で、その毒々しいまでに真っ黒なフィーリングには心底、降伏状態! 忽ち同じ味わいを求めて、ジャズの地獄を彷徨い続け、今日に至っているのです。

さて、このアルバムはまさにそうしたストライクゾーンにビシッときまった快演盤♪ メンバーはスタンリー・タレンタイン(ts)、ホレス・パーラン(p)、ジョージ・タッカー(b)、アル・ヘアウッド(ds) という、私的には前述したアス・スリー・トリオ+1というところで、録音されたのも1960年6月18日ということは、「アス・スリー」のセッションからほぼ2ヶ月後なんですから、たまりません。ちなみにスタンリー・タレンタインにとっては、ブルーノートでの初リーダー盤にあたります――

A-1 Look Out
 まずグゥィィィ~ン、ガッガァ~ンという、リズム隊が一丸となったグルーヴィなイントロのノリで完全KO状態! まさにアス・スリー・トリオが本領発揮です。
 ところが次に登場してテーマメロディをブローするスタンリー・タレンタインが、負けじと強烈な存在感なんですぇ~~♪ もうこの瞬間を聞いただけで、このアルバムは間違いないとシビレるはずです。
 もちろんアドリブパートも熱気溢れるファンキーハードバップの典型という素晴らしさで、力んでいないのに熱血なスタンリー・タレンタイン、ゴリゴリに押しまくるホレス・パーラン以下のリズム隊は黒人ジャズの真髄かもしれません。
 正直言うと、私はこのアルバムで初めてスタンリー・タレンタインを知ったのですが、これまた忽ち中毒症状に陥ったというわけですから、ついついアンプのボリュームを上げてしまいます。

A-2 Journey Into Melody
 あまり有名では無いスタンダード曲ですが、夜の雰囲気が満点のメロディをスタンリー・タレンタインはゆったりと吹奏してくれますから、これまた辛抱たまらんモード♪ 高級クラブのムードが横溢し、決して場末のキャバレーではないところに賛否両論はあろうかと思いますが、説得力は充分だと思います。
 なんと言うか、黒人だけのスウィートソウル、所謂“甘茶物”と一脈通ずるメロウなフィーリングは、後年のフュージョンっぽい演奏でも大きな魅力になっていましたが、すでにここで萌芽が♪
 リズム隊も極めて正統派なサポートで好感が持てますね。

A-3 Return Engagement
 と思った次の瞬間、またまた毒っ気の強い世界へ逆戻りです。
 曲は前述の「アス・スリー」でも演じられていたホレス・パーランのオリジナルですから、熱い演奏はお約束! スピード感満点のバンドの勢いはどうにも止まらないという山本リンダ現象です。
 スタンリー・タレンタインのモロにタフテナーのスタイルは、しかし同時に独特の歌心が確かにあって、なかなか魅力的♪ ハードな中にもソフトな情感が滲むという素晴らしいさは、これぞ黒人だけのお洒落感覚かもしれません。
 そしてリズム隊ではジョージ・タッカーの4ビートウォーキングが激烈ならば、アル・ヘアウッドはシャープなシンバルワーク、そしてホレス・パーランは得意技のガンガン節で突進です。

B-1 Little Sheri
 スタンリー・タレンタインが書いたマイナー調の名曲で、日活アクションの歌謡曲という趣も滲んだ、私の大好きな演奏です。ミディアムテンポのテーマ吹奏はたっぷりとしたテナーサックスの響きがとても魅力的♪ そしてアドリブ前のブレイクでは、一瞬のヒステリックな泣き叫びから、再びグッと落ち着いたフレーズを綴っていくという展開がニクイばかりで、グイノリのリズム隊も良い感じです。
 あぁ、それにしてもこんなに素敵な曲とアドリブフレーズの繋がりの良さは、今日のジャズではほとんど楽しめなくなりましたですね。まさにモダンジャズ黄金期の証のような、というよりも大衆音楽の王道が楽しめると思います。
 ホレス・パーランは、もちろんファンキーでストンピングしたピアノで、もう最高です!
 
B-2 Tiny Capers
 クリフォード・ブラウン(tp) が西海岸派の白人ジャズメンと演奏した珠玉の聖典が残されているオリジナル曲ですから、ここでもテーマ部分はライト感覚で、前曲に比べると一気に爽やかな風が吹いてきます。
 ところがアドリブが始ると、アップテンポの演奏がグングンと熱くなっていくのです。ハードな音色でまろやかに歌うスタンリー・タレンタイン、ツッコミの烈しいリズム隊、ともに好演! 演奏時間の短さが残念なほどです。

B-3 Minor Chant
 これまたマイナー調で書かれたスタンリー・タレンタインが珠玉の名曲♪ ジミー・スミスのリーダー盤「バック・アット・ザ・チキンシャック(Blue Note)」でも演じられていますが、リズム隊のアクが強いこちらのバージョンには、より一層、エグミがあります。
 まずスタンリー・タレンタインのテーマ吹奏が力んだ雰囲気ですし、アドリブに入ってもエッジの鋭いフレーズが連発されています。もちろんホレス・パーランも熱いですねぇ~! リズム隊の一体感もイヤミなく、存分にゴスペルフィーリングを撒き散らすのでした。
 あぁ、何度聴いても、グッとシビレます♪

ということで、前半はリズム隊にリードされていた雰囲気のスタンリー・タレンタインが、後半になると強烈な自己主張に転じていくという、演目の流れも最高です。

個人的には圧倒的にB面を愛聴していますが、アルバム全篇を通して聴かずにはいられない衝動に突き上げられてしまいます。あぁ、それこそが中毒症状、そのものですねっ♪

まずはB面を聴いてみて下さいませ。

個人的にはホレス・パーランからスタンリー・タレンタインへと中毒が感染してしまった、文字通りの病みつき盤なのでした。


パーカー対グレイ

2008-04-12 17:36:19 | Weblog

昨夜の宴会は水着でキューティハニーを歌ったコンパニオンも登場し、久々に楽しかったですね♪ やっぱり酒席はこうでなくては!

ということで、本日は――

Happy“Bird”/ Charlie Parker (Charlie Parker / Musidisc)

昨日掲載したマイルス・デイビスは放送音源集ということで、本日はそういう話になると決して素通り出来ないチャーリー・パーカーです。

もちろんチャーリー・パーカーはモダンジャズを創成した天才アルトサックス奏者ですが、その時期の録音フォームはSPでしたから、ライブでは縦横無尽に吹きまくっていたアドリブも、正規のレコードでは3分前後しか聴くことが出来ませんでした。

しかし当時のラジオではジャズのライブも放送されており、一番ヒップでカッコイイ音楽だったビバップの王様というチャーリー・パーカーの演奏も、世界遺産として残されています。

ただしそれは1940年代から1950年代前半にかけてのものですから、音質は劣悪……。発売形態もほとんどが海賊盤、つまりブートということで、アナログLPは盤質も悪く、初心者や現代の高音質ブートに慣れている皆様にはとてもオススメ出来ません。

ところが人間の耳というのは大変良く出来ていて、よしっ、聴くぞ! と意気込めば、お目当ての音がしっかりと認識出来るようです。つまりある種の雑音カットフィルターのようなものが脳内に形成されるんじゃないでしょうか?

ですから、どんなに音質が劣悪でも、チャーリー・パーカーが唯一無二のジャズ魂に満ちたアドリブフレーズの奔流は、リスナーを極大に興奮させ、感動させるのです。

もちろんこれはチャーリー・パーカーに限ったことではなく、ストーンズでもマイルス・デイビスでも、リスナーの気持ちひとつでどうにでもなるのですが、そこで本日の1枚です。

録音は1951年4月12日、ボストンからの放送録音で、メンバーはチャーリー・パーカー(as)、ワーデル・グレイ(ts)、ウォルター・ビショップ(p)、テディ・コティック(b)、ロイ・ヘインズ(ds) というのクインテットで3曲、残りの1曲はジャムセッションらしく、チャールス・ミンガス(b)、マックス・ローチ(ds)、リチャード・ツワーディック(p)、それに正体不明のトランペッター等々が参加していますが、告白すると、私はワーデル・グレイがお目当てでした――

A-1 Happy Bird Blues
 これはチャーリー・パーカーのアドリブだけという短い演奏ですが、アッテンポで天衣無縫に吹きまくる天才の真髄にはゾクゾクさせられます。アップテンポながらツッコミするどいリズム隊も緊張感がありますねぇ。

A-2 Scrapple From The Apple
 さて、これが私のお目当てというワーデル・グレイが大活躍のビバップ曲♪ アップテンポでグイグイと十八番のフレーズを積み重ねていきますから、ファンには感涙しかないでしょう。独特のリズム感と歌心には、どこかしら胸キュンのフィーリングがあるんです。まあ、この人も正規録音はSP中心でしたから、長いアドリブはライブ録音しかないわけで、マニアともなれば、どんな劣悪な音源でも集めずにはいられないのです。その中で、この音源は比較的良好というわけです。
 肝心のチャーリー・パーカーもドライブしまくった天衣無縫なアドリブは痛快なれど、ここではロイ・ヘインズの凄まじいドラミングと観客の興奮がガッチリ録音されているのが、なんとも嬉しくなってしまいます。
 ちなみに演奏時間は15分を超えています。

B-1 I'll Remember April
 データによれば、これだけがチャーリー・ミンガスやマックス・ローチの入ったセッションで、緊張感と音質は些か落ちてしまいます……。
 ただしその中でもチャーリー・パーカーは太くて逞しい音色でスリル満点のアドリブを聞かせていますから、実際のライブでの音やノリは豪快至極、天国への直行便だった思いますねぇ~♪
 またピアノの音が極端に小さくしか録音されていないので、チャールス・ミンガスのベースワークがしっかりと聞こえます。これがまた、野太い音でグイノリという恐さなのでした。もちろんベースソロも強烈です。
 ちなみにこのトラックにはテープ編集の疑惑がありますね。まあ、いいか……。

B-2 Lullaby In Rhythm
 再びワーデル・グレイが聴かれるクインテットの演奏ですが、誰かがしきりと「ブロ~、ワ~デル♪」なんて掛声を飛ばすもんですから、本人も大ハッスル♪ 録音の按配で些か軽い音色という雰囲気も、逆に結果オーライかもしれません。あの、せつないフレーズが止め処なく流れてきますから、たまりません。
 ところがチャーリー・パーカーが出ると、忽ち場に緊張感が広がります! ハードな音色とエッジの鋭いフレーズ、さらに緩急自在のノリと天才的なリズム感には心底、興奮させられます。
 するとワーデル・グレイが、またまたアドリブに突入です! 今度はかなり荒々しい感じですが、こういう事って当時は日常茶飯事のモダンジャズ的瞬間芸だったんでしょうねぇ~♪ 演奏時間は12分半!

ということで、もちろん音質は良くありませんが、ワーデル・グレイのロングアドリブソロが楽しめるというマニア感涙の1枚です。

ちなみにこのアルバムの初出はチャーリー・バーカー・レコードという会社から出ていましたが、私有盤は多分フランスプレスでしょう。実は日本盤も某社から発売されていましたが、寝ぼけた音質で……。

そこで入手したのが、この盤というわけで、けっこうメリハリの効いたカッティングで満足しています。ちなみにCDも様々に出ているようですから、またまたチャーリー・パーカー熱が再燃しそうで、ちょっと恐くなっています。


黄金期マイルスバンドの放送音源集

2008-04-11 18:45:02 | Weblog

本日も仕事に振り回された1日とはいえ……。

朝からストーンズを聴いたり、昼飯後には、こんなの聴いてました――

Miles Davis Quintet & Sextet Radio Broadcasts 1959 - 1959 (RLR)

先日仕入れてきたんですが、またまたマイルスネタのCDで御機嫌を伺います。

内容はタイトルどおり、キャノンボールやコルトレーン、ビル・エバンスやウィントン・ケリーが在籍していたマイルスコンポの放送音源集♪ もちろんこれまでも度々、いろいろな形で出回っていたものですが、それでもリマスター盤が出ると入手せずにはいられない魔力がありますねぇ――

☆1958年5月17日、ニューヨークのカフェ・ボヘミアでのライブ
 01 Four
 02 Bye Bye Blackbird
 03 Walkin'
 04 Two Bass Hit

 メンバーはマイルス・デイビス(tp)、ジョン・コルトレーン(ts)、ビル・エバンス(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という5人組で、音質もそれなりに良好なので、近年は準公式音源化しているようです。
 まず冒頭の「Four」はフィリー・ジョーのドラミングがビシバシに冴えた景気の良い演奏で、ポール・チェンバースのベースもブンブンブン♪ マイルス・デイビスは些か不安定ながら十八番のフレーズばっかりを吹いていて、なかなか気分が高揚してきます。
 続く「Bye Bye Blackbird」は、いきなりマイルス・デイビスの指パッチンがお約束ながら、肝心のテーマ吹奏が些か調子っぱずれで、それでもなんとか持ち直すのですが、テレ隠しのような吹奏が続きますからジョン・コルトレーンも寝ぼけたような雰囲気で……。しかしビル・エバンスがクールで新鮮なノリを聞かせてくれますから、結果オーライでしょうか。
 そしてお馴染みの「Walkin'」では、再び威勢の良いハードバップに戻った安心感のある演奏となります。ビル・エバンスの緊張感のある伴奏が、ハッとするほど良い感じですから、マイルス・デイビスも油断出来ません。チェンバース&フィリー・ジョーとのコンビネーションもバッチリ♪ ですからジョン・コルトレーンが八方破れのアドリブに突入すれば、続くビル・エバンスが素晴らしいアドリブで新時代のモダンジャズを披露していくのでした。
 最後の「Two Bass Hit」は短いバンドテーマっぽい演奏というか、途中でアナウンスが入ってフェードアウトしますが、フィリー・ジョーの大暴れが痛快至極です。

☆1958年6月30日、ワシントンD.C.のスポットライトラウンジでのライブ
 05 Walkin'
 06 All Of You
 07 'Round Midnight

 メンバーはマイルス・デイビス(tp) 以下、キャノンボール・アダレイ(as)、ジョン・コルトレーン(ts)、ビル・エバンス(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) という、これまた凄い面々です。
 もちろんバンドは絶好調で、まず「Walkin'」ではジョン・コルトレーンとキャノンボール・アダレイが大暴走! ビル・エバンス以下のリズム隊も緊張感いっぱいの熱演で、もちろんマイルス・デイビスも親分の貫禄を聞かせており、「All Of You」ではミュートの妙技も冴えています。ただしここではジョン・コルトレーンが些かアンバランス……。
 全体的な音質は劣りますが、リズム隊もそれなりに聞こえますし、なによりもビル・エバンスの極めて貴重なこの時期の録音というだけで、心が躍ります。
 そしてお目当ての「'Round Midnight」はスタジオバージョンに比べて相等にラフな演奏なんですが、例のブリッジの緊張感からジョン・コルトレーンのアドリブが迷い道となるあたりにジャズの瞬間芸を感じたりします。

☆1958年11月1日、ワシントンD.C.のスポットライトラウンジでのライブ
 08 Sid's Ahead
 09 Bye Bye Blackbird
 10 Straight No Chaser

 メンバーはマイルス・デイビス(tp) 以下、キャノンボール・アダレイ(as)、ジョン・コルトレーン(ts)、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) で、レッド・ガーランドの復帰が珍しいところ♪
 その所為でもないでしょうが、全体にハードバップっぽい熱気が充満しており、「Sid's Ahead」がいきなりの快演! モードも使いながら吹きまくるマイルス・デイビスが大ハッスルですし、ジミー・コブとポール・チェンバースがクールで爽快な4ビートで煽ります。するとジョン・コルトレーンとキャノンボール・アダレイが火の出るような豪快なアドリブを展開してくれるんですねぇ~♪ もちろんレッド・ガーランドも負けじと十八番のフレーズを弾きまくりと書きたいところなんですが、周りが凄すぎて……。ちなみに音質は普通に聞ける程度に良好です。
 しかし次の「Bye Bye Blackbird」ではレッド・ガーランドが面目躍如の名演です。テンポがかなり早くなっているんですが、快適なイントロと伴奏の上手さは最高ですし、かなり新しい事をやってしまうジョン・コルトレーンを尻目に、これぞハードバップの真髄という楽しさ満点のアドリブを披露♪ ジミー・コブの楽しげなドラミングも実に良い雰囲気ですし、肝心のマイルス・デイビスもミュートで疾走した快演ですよ。
 そしてオーラスの「Straight No Chaser」は、猛烈なスピードで突進する豪快な演奏! アドリブ先発がアグレッシブなポール・チェンバースのアルコ弾きというのもヤバイ雰囲気ですが、マイルス・デイビスが後年のフリーブローイング時代の萌芽ともいうべき熱さなんですねぇ~♪ ジミー・コブも怒りのドラミングですし、ポール・チェンバースの4ビートウォーキングもノリにノッています。
 ただし残念ながら、物凄いジョン・コルトレーンのアドリブに入ってすぐにアナウンスが重なってのフェードアウトが本当に勿体ないです。

☆1959年1月3日、ニューヨークのバードランドでの録音
 11 Bag's Groove
 12 All Of You
 メンバーはマイルス・デイビス(tp) 以下、キャノンボール・アダレイ(as)、ジョン・コルトレーン(ts)、ウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds) で、ジャケットでのクレジットはレッド・ガーランドになっていますが、これは誰が聴いてもウィントン・ケリーでしょう! 音質も良好です♪
 そして演奏は、もちろんノリまくっての痛快至極! とにかくリズム隊のグルーヴが物凄いですから、「Bag's Groove」ではハードボイルドなマイルス・デイビスに地獄巡りのジョン・コルトレーン、ミステリアスファンクなキャノンボール・アダレイという、モダンジャズ最良の瞬間が楽しめます。
 しかしここはやっぱり、リズム隊の強烈な存在が圧巻で、粘りながら飛び跳ねるウィントン・ケリー、クールビートのジミー・コブ、ポール・チェンバースのブンブンベースには涙がボロボロこぼれるほどに中毒症状の私です。
 それは「All Of You」にも継続され、ミュートでテーマ変奏に勤しむマイルス・デイビスをがっちりとサポートするリズム隊の面々は本当に流石ですねぇ♪ ここはブラックホークか!? と思った次の瞬間に炸裂するのがジョン・コルトレーンのハードなテナーサックスですから、もう、たまりません! スピード感に満ちた音符過多症候群! これこそがモダンジャズの魅力の一端でしょうねぇ~、なんと言われてもです。
 しかし残念ながら、またまた途中でフェードアウト……。う~ん、現場のお客さんが本当に羨ましいですよ。

ということで、音質的にも改善がほどこされ、これまで出回っていたブツの中では優秀な1枚でしょう。あえて言えば、トラック「05」から「07」ではリズム隊が弱い録音なんですが、まあ、これだけの演奏が聞けるのですから、贅沢を言えばバチが当りますよね。

このあたりのブート系音源初心者にも絶好の1枚だと思います。