OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

マイルスの神輿化

2008-04-03 19:20:55 | Weblog

あぁ、今日は自らがつまらないミスで仕事が停滞……。

最終的には事なきを得たとはいえ、新年度の新鮮な雰囲気に水を差したことは、大いに反省しております。

ということで、本日は何時聴いても新鮮な感動が湧きあがる――

E.S.P. / Miles Davis (Columbia)

マイルス・デイビスがウェイン・ショーターを迎え入れて後、初めてのスタジオ録音アルバムということで、当然ながらそれまでのライブセッション盤とは趣が異なっています。

それは「新しい」の一言!

なにしろ演目は全てがメンバーのオリジナルであり、しかもバンド内の役割分担が極めて平等に近い演奏まであるのです。

録音は1965年1月、メンバーはマイルス・デイビス(tp) 以下、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という、所謂黄金のクインテットです――

A-1 E.S.P. (1965年1月20日録音)
 アルバムタイトル曲はマイルス&ショーターの合作とされていますが、この新しすぎる雰囲気は、間違いなくウェイン・ショーターが持ち込んだものでしょう。こんなに屈折してシャープな曲想は、ウェイン・ショーターの Vee Jay 盤あたりの響きなんですが、実はテーマ部分のリズム隊の動きがクセモノだと思います。
 そしてアドリブ先発がウェイン・ショーター! もうこのあたりで、このアルバムの特異性が表出しています。もちろん凄まじい新感覚のグルーヴが振り撒かれますから、続くマイルス・デイビスも必死でマンネリからの脱出を企図するのですが……。うっ、これって、ライブセッション時代とあんまり変わっていないのでは!?
 しかしリズム隊は容赦しません。なんかマイルス・デイビスがひとりだけ置いていかれた雰囲気なんですが、それがまた痛快なアップテンポの快演に繋がっているのでした。
 う~ん、それにしてもこんな企画と演奏が、よくも会社側に許可されたもんだと思ったら、プロデューサーが何時ものテオ・マセロではなく、アーヴィング・タウンゼントに変わっていました。

A-2 Eighty-One (1965年1月21日録音)
 と、ひとり納得していたら、お次はロックビートを使った変態ファンク演奏です。作曲はロン・カーター&マイルス・デイビスとされており、当然ながらロン・カーターのベースワークが全体のカギを握っている感じです。またトニー・ウィリアムスのテンションの高いドラミングは、必ずしもロックではありませんが、ジャズロックとしては秀逸だと思います。
 そしてマイルス・デイビスが得意の思わせぶりをラップっぽいフレーズに変換してアドリブするのには、けっこう吃驚なんですが、途中から4ビートにしてしまうのは、ちょっと勿体無いかもしれません。ただしバンド全体にホッとした空気が漂うのは否定出来ないんですが……。
 その点、ウェイン・ショーターは流石というか、どんなビートやリズムでも我が道を行く潔さ♪ 4ビートのパートになってからは奇怪な歌心が全開します。
 またリズム隊はハービー・ハンコックが煮えきらず、ロン・カーターも困り顔……。すると素早くラストテーマが入ってきて、事なきをえるのでした。

A-3 Little One (1965年1月21日録音)
 非常にミステリアスなムードに満ちたスローな演奏で、作曲はハービー・ハンコックですから、奥深いコードの響きがたまりません。
 マイルス・デイビスもハスキーな音色を活かした吹奏ですし、ウェイン・ショーターも雰囲気に浸りきった名演でしょうが、やはりここはリズム隊の蠢きが素晴らしいと思います。特にハービー・ハンコックは自分がリーダーのつもりになって正解です。
 そういう自由なバンド内の空気こそ、このアルバムの特徴であり、新鮮さの秘密じゃないかと思います。

A-4 R.J. (1965年1月20日録音)
 ロン・カーターのオリジナルですが、テーマ部分はウェイン・ショーター&リズム隊の独壇場で、マイルス・デイビスはアドリブパートでいきなり登場! 尤もその中身は些かマンネリであり、安心感の源でもあります。
 ウェイン・ショーターも不思議系のアドリブに撤していますが、これも若干、物足りません。というか、ハッと気が付いた時には演奏か終わっているという短さが???
 ただしトニー・ウィリアムス主体のリズム隊は、やっぱり最高の興奮度です。

B-1 Agitation (1965年1月22日録音)
 トニー・ウィリアムスの激烈ドラムソロから痛快な演奏がスタート♪ 作曲はマイルス・デイビスとされていますが、一説によるとヴィクター・。フェルドマン(p) が書いたとか……。
 それはそれとして、マイルス・デイビスは十八番のミュートで忍び泣きを目論んでいます。しかしリズム隊がちっともそれを受けてくれませんから、ツッコミとボケの独り漫才へと転進し、それが素晴らしい緊張感なんですねぇ~♪ 全く憎めません。
 う~ん、それにしてもリズム隊のコンビネーションの纏まりは最高で変幻自在! ウェイン・ショーターでさえも翻弄されそうな瞬間があって、オタオタしながら逆ギレっほいところが如何にもジャズです。
 そしてハービー・ハンコックがクールで熱い! トニー・ウィリアムスの繊細なシンバルワークも冴え渡りですし、ロン・カーターも凄い存在感を示した名演だと思います。

B-2 Iris (1965年1月22日録音)
 これまたウェイン・ショーター色がモロに出たスローな名曲なんですが、クレジットはマイルス・デイビスとの合作になっています。しかしテーマメロディはウェイン・ショーターが一人舞台ですし、ハービー・ハンコックが絶妙の伴奏をつければ、寄り添うベースと素敵なアクセントを効かせるドラムスがニクイばかりです。
 そしてこういうお膳立てがあって、やっと登場するのがマイルス・デイビスというわけで、これが実に素晴らしいアドリブで感動してしまいます。力強さと思わせぶりのバランスが最高なんですねぇ~♪
 また続くウェイン・ショーターが、これまた畢生の名演と言いたいところなんですが、こんな素晴らしさは本人にとっては当たり前というのが、私の思い込みなのでした。 
 もちろんリズム隊は紙一重の大名演です。

B-3 Mood (1965年1月22日録音)
 これもスローテンポで、タイトルどおりのムード曲♪ しかし特に決まったメロディがあるわけではなく、作曲者のロン・カーターが弾くベースパターンをバンド全員が拡大解釈している感じでしょうか。
 ここでもマイルス・デイビスのミュートが冴え、ウェイン・ショーターが厭味に寄り添う展開は、このバンドの人間関係を表しているようにも思います。つまりウェイン・ショーターは客分ではなく、もはや幹部待遇であり、リズム隊も既に纏まりは完璧ですから、マイルス・デイビスは神輿状態! 「おとなしゅ~、していれば、わしらはなんぼでもアンタを担ぐけん」という東映やくざ映画「仁義なき戦い」での松方弘樹の名台詞が、そのまんまだと思います。
 ゲッ、するとマイルス・デイビスは金子信雄になったのか!?
 個人的には否定出来ないですねぇ……。

ということで、全く新しい展開が記録された名盤だと思います。これまでのマイルス・デイビスの作品では、マイルス本人が一番良い演奏をしていれば、後はどーでも良い感じさえありましたが、このアルバムはマイルス・デイビスが必ずしも冴えた場面ばかりではありません。

むしろバンドメンバーの頑張りや実力が大いに発揮され、それがこの傑作アルバムの大きな要因でしょう。

ですから、それゆえにでしょうか、リアルタイムのライブの現場で演目に入っていたのは「Agitation」だけという有様です。後は旧態依然のスタンダード曲や慣れきったオリジナルばかりを、新バンドで演奏することに浸りきっていたのです。

ちなみに時代はビートルズの出現により、ロックが本格的に大衆音楽の主流となり、最高にヒップだったモダンジャズが勢いを失っていく真っ只中でしたから、本当はマイルス・デイビスが常に新曲を演奏していたら……? と思わざるをえません。

尤も、これだけの精鋭バンドを率いていたら、演目よりもアドリブと現場の雰囲気で、金髪頭の若造を超えていたのは間違いないのですが……。

コメント (2)
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