OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ビル・ワトラスが聴きたくて

2008-04-15 15:44:18 | Weblog

本日は気持ちの良い天候なれど、仕事はハードな方向へ……。

なんか、やってらんないっ、という気持ちばかりが先にたちます。

という気分を一新させるために――

Funk'n Fun / Bill Watrous (Atras)

ビル・ワトラスは白人トロンボーン奏者で、滑らかなスランドワークとふくゆよかな音色、作編曲も上手く、さらに幅広い音楽性を感じさせる演奏は、完全に私好みです。

しかし、その実力に反してリーダー盤を作る機会に恵まれていたとは言えません。ビックバンドを率いてのアルバムもありますが、やはり小編成バンドでアドリブ中心の演奏こそが、望まれるのです。

さて、この作品は1979年に我国で製作発売された待望のクインテット盤で、私なんか出た瞬間にゲットした1枚なんですが、実は多くのジャズファンにとって価値があったのは、ビル・ワトラスではありませんでした。

なんと共演者にアート・ペッパーが参加していたんです!

録音は1979年3月26&27日、メンバーはビル・ワトラス(tb)、アート・ペッパー(as)、ラス・フリーマン(p)、ボブ・マグヌッセン(b)、カール・バーネット(ds) という、当時のアート・ペッパーのバンドにビル・ワトラスが客演した雰囲気が濃厚です。

ちなみに「アトラス」という日本の会社は往年のウエストコーストジャズを復興させるという名目はありましたが、どうやらアート・ペッパーを録音するのが目的というのが真相でした。しかし契約の関係からアート・ペッパー名義のリーダー盤は出すことができず……。

しかしその目的意識のはっきりした製作方針ゆえに、当時はモードに耽溺した演奏で従来のファンを裏切っていたアート・ペッパーを、よりメロディアスで感情移入しやすいスタイルで録音させた事実は、今日では「お宝」に近いありがたみでしょう――

A-1 Just Friends
 モダンジャズでは名演が多数残されている有名スタンダード曲が、如何にもウエストコーストのジャズで演じられています。テーマメロディをリードする鋭いアート・ペッパー、そこへ柔らかい音色とフレーズで絡んでいくビル・ワトラスの存在に、私は聴いた瞬間、歓喜悶絶でしたねぇ♪
 もちろんアドリブパートに入ってもスピード感に満ちたスライドワークで驚異のフレーズを大連鎖! アート・ペッパーも負けずに、あの陰影に彩られた独自の「節」を存分に披露してくれます。
 リズム隊のメリハリの効いたサポートもツボを押さえてイヤミ無く、1970年代丸出しの録音も、今聴くと微笑ましいと感じます。

A-2 Begin The Beguine
 なんとアート・ペッパーが十八番にしていたスタンダード曲が、堂々と選曲されています! もちろんラテンのリズムも爽やかなアレンジになっていますが、ここでは最初っから電気増幅されたベースの音が、ちょいとイヤミじゃないでしょうか……。
 まあ、それはそれとして、ビル・ワトラスはここでもウルトラ級の快演ですし、アート・ペッパーも鋭さ、唯一無二のタメとツッコミ、さらに新しめのフレーズを上手くミックスして聞かせてくれます。
 う~ん、それにしてもビル・ワトラスは凄い、凄すぎます! まさに超絶技巧! その所為か否か、リズム隊がちょっとフュージョンっぽいような……。

A-3 When Your Lovers Has Gone
 アート・ペッパー抜きという、ビル・ワトラスのワンホーン演奏で、美メロのスタンダード曲がじっくりと楽しめます。音色もフレーズの妙も、全てが夢見心地という雰囲気が横溢し、ドラムスがちょっとタメきれないという部分も聴かれますが、一度虜になると、抜け出せない魅力があるのでした。
 本当にフワフワした綿菓子のようなトロンボーンの甘い音色♪ たまりません。

A-4 For Arts Sake
 おそらくアート・ペッパーに捧げて書かれた、ビル・ワトラスのオリジナル曲で、ビシバシのアクセントが効いたリズム隊と妥協しないフロントの2人が豪快な演奏を繰り広げています。
 なにしろアドリブ先発のビル・ワトラスが超絶技巧と情熱の歌心で間然することの無い出来栄えならば、アート・ペッパーは絶妙のブレイクと新しいフレーズも交えた情熱の疾走です!
 そしてリズム隊のシャープな動き、ラス・フリーマンの大ハッスルに加えて蠢き弾むベース&ドラムス! あぁ、ジャズを好きで良かったという感想しか出ません。
 こういう曲調と演奏が活かされる録音も秀逸だと思います。

B-1 Funny Blues
 1950年代のアート・ペッパーを再現・再生する目論みがミエミエの演目ですが、これがなかなか上手くいっています。グルーヴィなノリに加えてペッパー節が丸出しというアドリブのキメに涙が滲むほどですよ。
 しかしビル・ワトラスは意識的なオトボケが強いのでしょうか、バカテクのフレーズ展開からは、些か情緒が不足している雰囲気が……。
 気になるリズム隊では、ラス・フリーマンが大ハッスルして些かハズシたようなところもありますが、落ち着いたベースとワルノリ寸前のドラムスが良い感じだと思います。

B-2 Angel Eyes
 お待たせしました、いよいよアート・ペッパーのワンホーン演奏による有名スタンダード曲です。リアルタイムの当時、ほとんどのファンはこの曲に期待していたと思います。
 もちろん、じっくりと構えた演奏になっているのは言わずもがな、こちらが期待するペッパー節の泣きの世界が、本人の目指す新しい表現と上手く一致して、結果オーライ♪
 正直言えば、1950年代の瑞々しい情緒はありませんが、ドロドロした泥沼の世界に咲いたハスの花のような美しさは、確かにあると思います。
 そしてラス・フリーマンが、なかなかの好演です。

B-3 P. Town
 オーラスは明るいオトボケの入った東宝映画のような楽しい演奏です。弾みの強いリズム隊、ホンワカとスイングするビル・ワトラス、そして自然体で好きなように吹きまくるアート・ペッパーと、全てが良い方向に作用していると感じます。
 もちろん期待を裏切られるような音は出てきませんが、それが逆に物足りないという贅沢も言いたくなるのでした。

ということで、ジャケットも内容も、まさに今の時期にジャストミートの1枚です。春風の中でホノボノとして調子の良すぎる演奏ばっかりなんですねぇ、これはっ♪

録音の按配も往年のコンテンポラリーあたりのスカッと抜けが良くて力強いという感じが、さらに最新の技術で澄み切ったものになっています。これが好き嫌いの分かれるところかもしれません。

しかし演奏そのものは充分に合格点というか、古くからのアート・ペッパー信者にも、ある程度は納得だと思いますが……。個人的には冒頭で述べたように、ビル・ワトラスがこれだけ聴ければ、充分満足の1枚でした。

コメント
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