OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

西海岸のハードな2人

2011-02-23 17:20:01 | Jazz

Hear Ye! / The Red Mitchell - Harold Land Quintet (Atlantic)

ハロルド・ランドという黒人テナーサックス奏者は決して超一流では無いと思いますが、所謂B級グルメ大会ともなれば、最高得票のひとりじゃないでしょうか。

スバリ、その本筋は西海岸ハード!

ご存じのとおり、マックス・ローチ(ds) とクリフォード・ブラウン(tp) がLAで旗揚げした史上最強のハードバップクインテットで1954年からレギュラーの座にあり、リーダーの2人が東海岸に拠点を戻した後は地元に留まりつつも、例えばカーティス・カウンス(b) のバンド等々でその主張を受け継いだ活動を展開し、見事なまでのジャズ魂を貫き通しています。

本日ご紹介のアルバムも、まさにそうした中の1枚で、制作録音されたのは1961年でしたから、時代はモードが最先端の所謂新主流派が台頭し始めた時期でありながら、ここで演じられたのは直球勝負の熱血ハードバップ!

しかしセッションを残したグループの実態は、これまた西海岸をメインに凄い実績を既に残していた白人ベース奏者のレッド・ミッチェルとの双頭リーダーバンドでしたから、一筋縄ではいきません。

それはファンキーな感覚と如何にもスマートなセンスを同居させんとした試みかもしれず、また明るいスピード感が実に新鮮な、文字通りのモダンなジャズになっています。

録音は既に述べたように1961年10月14日&12月13日、メンバーはレッド・ミッチェル(b)、ハロルド・ランド(ts)、カーメル・ジョーンズ(tp)、フランク・ストラッゼリ(p)、レオン・ペッティーズ(ds) という正統派クインテットです。

A-1 Triplin' A While
 力強く演奏されるハロルド・ランドのオリジナル曲は、その最初のパートがテナーサックスとベースのユニゾンというのが、如何にもこのバンドを象徴しています。
 そして次いで正統派黒人ジャズがど真ん中のテーマ合奏、さらにガッツ溢れるハロルド・ランドの硬質なプローが流石に素晴らしく、短いセカンドリフのアクセントを経て登場するのが当時期待の新鋭だったカーメル・ジョーンズで、そのクリフォード・ブラウンに憧れきったスタイルが侮れません。
 いゃ~、実際、とことん天才を研究したんでしょうねぇ。もちろん輝きは及びませんが、ここまでやれれば大したもんだと思います。
 その意味でハロルド・ランドと組んだ狙いは外れるはずもなく、さらにフランク・ストラッゼリのピアノが疑似ウイントン・ケリー!?!
 このあたりを素直に喜びへ変換させることが出来れば、アルバム全篇は必ずや楽しめると思います。
 そしてレッド・ミッチェルの自意識過剰のベースワーク、堅実なサポートが好ましいレオン・ペッティーズのドラミングもニクイばかりですよ。 

A-2 Rosie's Spirit
 最初っから全力疾走のアップテンポで演奏されるのはレッド・ミッチェルのオリジナル曲ということで、作者本人のペースも大ハッスル! ツッコミ鋭い伴奏から過激スレスレのアドリブソロが冴えわたりですよっ!
 もちろんカーメル・ジョーンズとハロルド・ランドも手抜き一切無しの姿勢が潔く、フランク・ストラッゼリがウイントン・ケリーの夢よもう一度をやっていますが、個人的にはレオン・ペッティーズのシャープなドラミングが最高に好ましく思います。
 またバンドアンサンブルが如何にも西海岸派らしい仕掛けの中で、ハードな心意気を貫くメンバー各人の熱血も凄いの一言です。

A-3 Hear Ye!
 アルバムタイトル曲はミディアムテンポのワルツビートで演じられる所為でしょうか、些か混濁した雰囲気が隠しようもありません。それは逆に言えば、これこそが新しい時代へ向かうモダンジャズの最前線だったように思います。
 しかしパロルド・ランドにしろ、カーメル・ジョーンズにしろ、ストレートに分かり易アドリブを心がけているようですから、オリジナルの作者たるレッド・ミッチェルが些か独り善がりの浮きあがりも……。
 結論から言えば、リズム隊が提供する新しい表現は今日でも少しばかりですが、しっくりこないフィーリングかもしれません。
 ただし演奏の密度は各人のアドリブパートも含めて、濃いですよ。

B-1 Somara
 カーメル・ジョーンズが書いた勿体ぶったハードバップ曲なんですが、これがアドリブ主体に聴き進めば、なかなかに痛快至極です。
 特に先発のハロルド・ランドからレッド・ミッチェルに受け渡されていく得意技の完全披露は、この時代のアドリブがコード分解とモードの折衷に腐心していたという事情を解き明かすものかもしれません。
 しかし流石に作者のカーメル・ジョーンズは何も考えていないんでしょうねぇ~。感性の閃きを素直にトランペットからの音に託して吹きまくり♪♪~♪ 続くフランク・ストラッゼリも楽しいピアノを聞かせてくれますが、この演奏のハイライトは、なんといっても最終バートのバンドアンサンブルにおけるスリルとサスペンスですよっ!
 もう、そこを堪能するためだけに、それ以前のアドリブがあるといって過言ではないと思うほどです。

B-2 Catacomb
 これまた思わせぶりなテーマはハロルド・ランドのオリジナルとクレジットされているのが納得出来ないほど、ミョウチキリンな曲だと思います。しかしアドリブパートに入ってからは、作者本来の力強い魅力がバンド全体に波及していく有意変転が良い感じ♪♪~♪
 というよりも、もうひとりのリーダーであるレッド・ミッチェルの感性が強く出ているのかもしれません。なにしろアルコ弾きによるアドリブからは、当時のブルーノートあたりで作られていた新主流派作品とは似て非なる先進性が滲み出していますし、フランク・ストラッゼリの伴奏が少~しばかりセロニアス・モンクになっているのも意味深でしょう。
 ただしそれで難解かと問われれば、答えは否です。
 モダンジャズのひとつの魅力である、カッコ良い「わからなさ」がなんとも素敵なんですねぇ~♪
 特にカーメル・ジョーンズのアドリブを聴いていると、もしもクリフォード・ブラウンが生きていたら……、なぁ~んて妄想させられてしまう演奏が、ここにあるように思います。

B-3 Pari Passu
 オーラスはフランク・ストラッゼリが書いた猛烈なアップテンポのハードバップ!
 なんとアドリブの先発を演じる作者本人が縺れてしまうほどなんですが、流石にレッド・ミッチェルのベースワークは乱れることなく、刺戟的なオカズの調達に奔走するレオン・ペッティーズのドラミングを余裕でリードしています。
 もちろんアドリブでも強烈なツッコミをやらかしますし、このトラックに限っては、この白人ベース奏者が主役じゃないでしょうか。
 ただし、それだってバンドメンバー全員の意思の統一があってこそっ!

ということで、名盤扱いのアルバムではないと思いますが、聴くほどに熱くなる傑作だと思います。

冒頭で述べたように、自分としてはハロルド・ランドを聴きたくて、これを入手したわけですし、そこにある参加メンバー的な面白さに、さらなる興味を抱いたことも確かです。

そして実際に聴いた時、その妥協しないハードな勢いにシビれましたですねぇ~♪

なにしろ白人のレッド・ミッチェルにしても、1950年代からハンプトン・ホーズのトリオでは真性ハードバップを演じていたわけですし、その明瞭にして鋭いベースプレイは明らかに時代を先駆けていたのですから、このセッションが軟弱で終わるはずもありません。

またカーメル・ジョーンズとフランク・ストラッゼリは共に地方からLAに出て来たばかりだったそうで、如何にその実力が高く評価されていたかは、ここに充分記録されていると思います。

なによりも当時は無名の新人が、リーダーのふたりと互角に対峙したというところに、モダンジャズの全盛期が証明された気さえするのです。

アルバム全体として、親しみ易い曲は特にありませんが、そのハードで一本気な演奏は、必ずやジャズ者の心を捕らえて放さない魅力に溢れていますよ。

コメント
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