OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ザ・ナイスの老い易さ

2011-02-17 17:08:23 | Rock Jazz

少年易老学難成 / The Nice (Immediate)

洋楽の邦題は様々ありますが、中には充分に納得するものから笑ってしまう???のタイトルまで、話のネタは尽きません。

例えば本日ご紹介の1枚は、ご存じEL&Pで大ブレイクを果たす前のキース・エマーソンが率いていたナイスというバンドのセカンドアルバムで、その原題は「Ars Longa Vita Brevis」ですから、もちろん「芸術は永く、人生は短し」とするのが本当なんでしょうが、それをあえて漢文にしたところが、たまりません。

実は、その発売が本国のイギリスでは1968年末頃でありながら、日本では既にナイスが解散状態にあった1970年ということは、前述したEL&Pの人気爆発と絶妙にリンクする時期でした。

しかし、この邦題にして、このジャケットですから、直ぐに売れたということでは決してなく、EL&Pの前身バンドとしての興味が優先されていたと思います。

その始まりは1966年末、ストーンズのマネージャーだったアンドルー・ルーグ・オールダムが設立した新レーベルの「イミディエイト」に所属していたP.P.アーノルドという黒人女性歌手のバックバンドとしてキース・エマーソンが集めた人脈の発展形であり、いよいよナイスと名乗った時のメンバーはキース・エマーソン(key)、デヴィッド・オリスト(g)、リー・ジャクソン(vo,b)、ブライアン・デヴィソン(ds) の4人組でした。

ちなみに前述したP.P.アーノルドのバックバンド時代は、当然ながらメンバーも流動的であったにも拘らず、キース・エマーソンはド派手なアクションでオルガンやピアノを弾きまくる自己主張をしていたそうですから、独立は時間の問題だったというか、ついに1967年晩秋には公式レコードデビューを果たしたことになっています。

ところが今日の歴史でも明らかになっているとおり、メンバー間の音楽性の違いや時代の流行との折り合いの悪さ、さらには人間関係のあれこれがあって、このセカンドアルバム制作時には抜群のテクニックを誇ったギタリストのデヴィッド・オリストが脱退しており、その所為でしょうか、サイケデリック&ブルースロックの味わいが一気に薄れた感があります。

そして結果的にロックジャズからプログレに向かって変貌していった当時の英国ロック最先端の音作りの萌芽が、このアルバムに記録されたのです。

 A-1 Daddy Where Did I Come From / 何処から来たのだろう
 A-2 Little Arabella
 A-3 Happy Freuds' / 陽気なフロイド
 A-4 Intermezzo From The Karelia Suite / 間奏曲
 A-5 Don Edito El Gruva
 B-1 Ars Longa Vita Brevis / 芸術は永く、人生は短し
       Prelude
       1st Movement Awakening
       2nd Movement Realisation
       3rd Movement Acceptance“Brandenburger”
       4th Movement Denial
       Coda-Extension To The Big Note
 
上記した収録演目からして、まずはアナログ盤LPの片面全て使った組曲が注目されますが、どっこいっ! A面はボップなロックジャズが並んでいるという二面性が凄いところです。

まず、キース・エマーソンのピアノが本当に楽しげな「何処から来たのだろう」が途中から様々な効果音や多重録によってサイケデリックな展開となる中で、ロックジャズなオルガンが炸裂するという仕掛けが、既にしてアルバム全体の構成を予告しています。

そして続く「Little Arabella」はクールなオルガンとピアノがジャズぽく響き、浮ついたボーカルが曖昧なメロディを歌うという、ほとんど後期マンフレッド・マン風味であったり、なんと「陽気なフロイド」に至っては、初期ピンク・フロイドがキンクスをやってしまったような、実にミョウチキリンな結果になっているんですが、今の耳で聴けば、これは1980年前後に中途半端なポップスをやっていたEL&Pのプロトタイプかもしれません。

しかしシベリウスの「カレリア組曲」からの抜粋「間奏曲」では、いよいよキース・エマーソンが狙っていたロックとクラシックの融合が、この時代ならではの試行錯誤的なスタイルで演じられ、それは後に十八番となる「展覧会の絵」の予行演習として、興味津々♪♪~♪

ですから、いよいよB面への期待が高まる前の露払いとして演じられる「Don Edito El Gruva」も、なかなか用意周到だと思います。

ちなみに演目は「間奏曲」を除いてメンバーの共作であり、アレンジとプロデュースも同様なんですが、部分的に使われるオーケストラのパートはロバート・スチュワートという人物が手掛けているようです。

そして、そのコラボレーションが全開となるのが、いよいよアルバムタイトル曲にしてB面をぶっ通す大作「芸術は永く、人生は短し」で、極言すればプログレでもあり、モダンジャズでもあるという、なかなかガチンコな演奏が披露されています。

特にドラムスのブライアン・デヴィソンが披露するプレイは、ジャズ味が実に濃厚ですよ。

また同様にクラシックのハードロック化を目論むキース・エマーソンにしても、随所にジャズっぽい本音が出てしまったり、それをなんとかロックに繋ぎとめようと奮闘するリー・ジャクソンが些か弱みを感じさせる自らのボーカルの所為もあるんでしょうか、かえってバンド全体を迷い道に進ませる如き……。

まあ、このあたりがナイスというバンドの限界かもしれませんねぇ。

ちなみにキース・エマーソンのプレイは当然ながら、未だムーグシンセさえ実戦では使用出来なかった時代ゆえに、ピアノやハモンドでの演奏が尚更に古めかしさを印象付けてしまいます。

しかしサイケおやじには、そこがまた味わい深く、バンド全員の頑張りに好感が持てるほどっ!

結局、ジャズとロックとクラシック、それぞれの味わいが演奏パート毎にクッキリと分離しているのが、悔しいところであり、そんな未完成なところに大いなる魅力を感ずる作品というわけです。

ご推察のとおり、サイケおやじがこのアルバムを実際に聴いたのはEL&Pが大ブレイクした後の事ですから、あちらこちらに同じ味わいを発見してはニヤリとしていたのが本音です。

そしてキース・エマーソンが何故にナイスを解散させ、EL&Pを結成したのかという答えが、共演者の力量の方向性と集中力にあった事も明瞭だと思います。

その意味で、ナイスの諸作を鑑賞する時の先入観はどうにもならないのかもしれませんが、その反面的な面白さが抜群なのも、また事実だと思います。

う~ん、確かに「少年易老学難成」という邦題は、深いところで当たっていたと思うばかりなのでした。

コメント
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