■Nested / Laura Nyro (Columbia)
女性が一番美しいのは妊娠している時、と言った偉大な先人もおりますが、本日ご紹介するローラ・ニーロのアルバムは、まさにそうした時期に作られた和みの1枚♪♪~♪
発売されたのは1978年の秋で、ライプ盤だった前作「光の季節」から、ほぼ1年ぶりの新作ということで、彼女の大ファンを自認するサイケおやじは、本当にワクワクして輸入盤のシールドを破った記憶が今も鮮明です。
A-1 Mr. Blue
A-2 Rhythm & Blues
A-3 My Innocence
A-4 Crazy Love
A-5 American Dreamer
B-1 Sprigblown
B-2 The Sweet Sky
B-3 Light - Pop's Principle
B-4 Child In Universe
B-5 The Nest
曲タイトルは、どっかで知っているような題名もありますが、もちろん全てがローラ・ニーロの新作オリジナルで、演奏そのものも、前々作「スマイル」や続くライプ盤「光の季節」のジャズっぽさに比べると、かなりシンプルになり、所謂シンガーソングライターの典型というか、1970年代前半に流行したスタイルに戻っているのが嬉しいところ♪♪~♪
セッションメンバーはローラ・ニーロ(vo,p,org,g,etc) 以下、ジョン・トロペイ(g)、ウィル・リー(b)、アンディ・ニューマーク(ds)、ナディア・マタ(per) をメインに、ジョン・セバスチャン(hmc) やフェリックス・キャバリェ(key) 等々の特別ゲストも控えめに参加しています。
ちなみに他に気になるところでは、ギターでクレジットされている Vinnie Cusano なる人物が、もしかしたら後にキッスに加入する Vinnie Vincent ではないか? という説もあるんですが、いかがなもんでしょう。
まあ、それはそれとして、肝心の楽曲は穏やかでありながら、時には宇宙的な広がりさえも感じさせる名曲がぎっしり♪♪~♪
このあたりの感触は、あまくでも好き嫌いが優先されるものでしょうし、何時も同じ様な歌ばっかり作っているという批判も、あながち間違いではないと思います。
しかしファンにとっては、それこそがローラ・ニーロ的な桃源郷なんですねぇ~♪
まずA面冒頭の「Mr. Blue」は、最初のパートが完全にプログレ(?)なんで、ちょいと驚くんですが、全体はアコースティックギターと幽玄のキーボードワーク、さらに弾んだベースを基本に作られた、全くのローラ・ニーロが十八番の世界! ゆったりしたメロディ展開の中で力強い歌声とニクイばかりのコーラスが流石に良い感じです。
あぁ、この声質が吉田美奈子っ!?!
本当は逆というか、偶然の一致なのは百も承知なんですが、やっぱり自分の好みって共通点が多いという証明に他なりません。
そして次に驚いてしまうのが、「Rhythm & Blues」での軽いタッチの歌いっぷりで、何時もの少~しネクラなムードとは一転、陽気にスイングしている彼女の気分が、聴いているこちらにもストレートに伝わってくるあたりは最高です。もちろん曲調は十八番の「節」が出まくっていますし、ジョン・セバスチャンのハーモニカも味わい深いですねぇ~♪
とはいえ、やっぱり過去のローラ・ニーロに拘るファンの気持を大切にしたというか、フュージョン路線の「My Innocence」には、思わず腰が浮いてしまいますし、ピアノの弾き語りによる「Crazy Love」の意味不明な歌詞と情熱的な彼女の歌声には、完全KOされてしまう、実に美しき流れがクセになりますよ。
おまけにAラスの「American Dreamer」では、これまたエレピをメインにした演奏パートがローラ・ニーロならではのメロディ展開をシンプルに味付けした上手いアレンジになっていて、ほどよいフュージョン味と如何にも都会的なロックサウンドが見事に融合した世界を現出させています。
う~ん、こういう雰囲気って、凡百のAORでは絶対に出せない味でしょうねぇ~♪
ですからB面初っ端の「Sprigblown」では、ローラ・ニーロのボーカリストとしての資質をじっくりと聴かせるスローな展開が実に好ましく、しかもバックはシンプルで隙間だらけという按排ですから、たまりません♪♪~♪ セコイようなスライドギターも、なかなか素敵♪♪~♪
そして同じく簡素なポップソング調の「The Sweet Sky」から一転してスティーリー・ダンみたいな「Light - Pop's Principle」と続く流れも、ローラ・ニーロのダークなイメージを覆すが如き前向きな明るさに満たされています。
なんというか、知らない間にホンワカさせられてしまうんですよ♪♪~♪
既に述べたように、このセッション当時の彼女は妊娠中という事を後に知ってみれば、愛の喜びをポジティヴに感じていたのでしょうか。とにかく歌の随所にサイケおやじの稚拙な筆では表現しえない、未来への希望や美しさが確かに感じられます。
それは厳かにして和みの世界が表現される「Child In Universe」の力強さ、あるいはオーラスの「The Nest」における、おおらかで優しい雰囲気の良さは絶品♪♪~♪
もちろん、こんな個人的な感想なんて、ローラ・ニーロを聴き続けている自分の様な者にしか感じられないかもしれません。
正直、毎度お馴染みの曲調と十八番のメロディしか出ませんから、初めてローラ・ニーロを聴く皆様には、こんなもんか……、という気分にしかならないことは承知しています。
しかし、その中で歌詞の内容からは、これまでのギスギスした本音が明らかに薄まり、それゆえに歌と演奏がホノボノとしたムードになっている事は、やはり否定出来ないと思います。
テンションの高さも刺戟の強さも、また不必要な緊張感も漂わせずに、これだけ秀逸な作品集を作ってしまったローラ・ニーロは、まさに全盛期だったんじゃないでしょうか。
ご存じのとおり、以降の彼女は6年近い沈黙期に入り、その間に育児や家族との時間を大切にする生活があったわけですが、今となっては、このアルバムのように安らぎと希望に満ちたホノボノ盤は、後にも先にも、これっきりだったと思います。
凛とした表情の中にも、不思議な柔らかさを感じるジャケ写のポートレートも印象的ですが、裏ジャケの写真も見てのお楽しみで、和みますよ。
そして後年、早世の悲劇に接してみれば、サイケおやじは尚更に大切にしている1枚なのでした。