OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ロックジャズ極みのジェフ・ベック

2010-03-30 14:35:15 | Rock Jazz

Wired / Jeff Beck (Epic)

天才ギタリストのジェフ・ペックが1976年初夏に発表した、本格的なインスト路線の第二弾アルバムで、まさにギターで究極のロックジャズ!

名曲「哀しみの恋人達」を含む大ヒット盤「ブロウ・バイ・ブロウ」を遥かに凌駕する物凄い演奏は、既にブームになっていたフュージョンの中でも異常な尖がり様が強烈でした。

もちろん当時はラリー・カールトンやリー・リトナーといったスタジオセッションの世界から飛び出してきた白人ギタリストが流麗な技を存分に披露していましたし、ロイ・ブキャナンやヤン・アッカーマン等々、凄腕のインスト系ギタリストが大きな注目を集めていた時期ですから、ジェフ・ペックが引き続き同じ手法の演奏をやったところで不思議はないでしょう。

しかし何かしら決定的に違うのは、ジェフ・ペックには如何にも英国流の頑固さ、みたいなものを私は強く感じるのです。

それは、ある意味ではジコチュウでしょうし、本人は曲が書けない代表的なミュージシャンのひとりでもありますから、周囲のお膳立ても大切だったかもしれません。

ですから、前作の「ブロウ・バイ・ブロウ」にはジョージ・マーティンという、ビートルズの我儘を完全に仕切った名プロデューサーが起用され、それがベストセラーに結びついた事を思えば、ここでの引き続きの起用も部分的ではありますが、納得されるところです。

そして尚更に凄いのが、このセッションに参集した盟友のマックス・ミドルトン(key)、ヤン・ハマー(key,ds)、ウイルバー・バスカム(b)、ナラダ・マイケル・ウォルデン(ds,per,key)、エド・グリーン(ds)、リチャード・ベイリー(ds) という怖い面々の存在感でしょう。それはとにかく、アブナイ! としか言いようがないほどでした。

 A-1 Led Boots
 A-2 Come Dancing
 A-3 Goodbye Pork Pie Hat
 A-4 Head For Backstage Pass
 B-1 Blue Wind
 B-2 Sophie
 B-3 Play With Me
 B-4 Love Is Green

既に述べたように、このアルバムは全篇がインスト!

ですからジェフ・ペックのギターはもちろんのこと、共演者の力量も限りなく試される場ということで、前作の「ブロウ・バイ・ブロウ」で使われていたストリングス等々の装飾を排除し、ここでは完全なるバンドサウンドが追及されています。

その中ではヤン・ハマーとナラダ・マイケル・ウォルデンという、ジョン・マクラフリンのマハヴィシュヌ・オームストラからやってきた2人が、まさにアルバムの色合いを決定づける大活躍!

まずA面ド頭「Led Boots」に針を落とせば、いきなりドカドカ煩く、シンコペイトしまくったドラムスが炸裂し、後は一気呵成のロックジャズ大会♪♪~♪ 曲の骨格はヤン・ハマーとマックス・ミドルトンが操るシンセやクラヴィネットで決められているんでしょうが、やはりビシバシにブッ飛んだリズム的な興奮が凄まじく、その中でジェフ・ペックのギターが大暴れするんですから、たまりません♪♪~♪

そういう爆裂のリズムとビートは、当然ながらロックだけではなく、当時はニューソウルと呼ばれていた黒人音楽の意匠をも含んでいるのですから、続く「Come Dancing」では、その道の名人ドラマーだったエド・グリーンが強靭なグルーヴを叩き出し、エレピやシンセのキーボードが最高に心地良い設定を整え、結果的にジェフ・ペックのギターが一番に目立たないという妙な展開も、実は結果オーライだと思います。

しかし流石はジェフ・ペックという本領発揮が、モダンジャズの怒れるベース奏者だったチャールズ・ミンガスの代表曲「Goodbye Pork Pie Hat」です。それはオリジナルの不思議な浮遊感を湛えた曲メロを、繊細なスライドギターや絶妙のトーンコントロールで再現しながら、さらに全く「らしい」展開へと発展させていく天才の証明! 力強いロックビートを大切にしながらも、これは唯一無二のロックジャズフュージョンでしょうねぇ~~♪

ちなみに、このセッションでのジェフ・ペックは、そんなにエフェクター類に拘っている雰囲気は感じられませんが、いかがなもんでしょう。もちろんオーバーダビングでの音色の変化や意図的(?)なズレによる効果は狙っていたんでしょうが、やはり自然体の感性で勝負したかったのでしょうか……。

という推察は完全なるサイケおやじの妄想ではありますが、Aラスの「Head For Backstage Pass」やB面に入っての「Play With Me」で繰り広げられるアップテンポのフュージョンジャム、幾分の纏まりの悪さが楽しい「Sophie」あたりを聴いていると、ジェフ・ペックならではの先鋭性によるリズム外しや不明瞭な音程も散見されるフレーズ等々が、鉄壁なリズム隊の中で浮いてしまうという、実にトンデモなスタアの証が、もう、最高♪♪~♪

そして発売当時から極みつきの名演とされていた「Blue Wind」が、ジェフ・ペック対ヤン・ハマーの直接対決という、過激な作りになっているのもムペなるかな!! ドラムスを含めて、ほとんどの音をヤン・ハマー自らがオーバーダビングで作り出した演奏パートは、今となっては古臭い感じもするんですが、しかし見事な緊張と緩和は圧巻ですよっ! なによりも、ジェフ・ペック本人が納得してやったか、否か、そのあたりの面白さも抜群だと思います。

さらにオーラスの「Love Is Green」はナラダ・マイケル・ウォルデンが作曲し、自らピアノまで弾いた美しい小品ながら、ジェフ・ペックのアコースティックギターが良い味、出しまくり♪♪~♪ もちろんエレキも泣きますから、本当に短いのが残念至極!?!

ということで、これがギター好きを刺激しなかったら、それは嘘という仕上がりでした。当選ながらフュージョンやジャズが好きなファンもシビレたと思います。

ただ、当時の王道フュージョンにはジャズ寄りのものとロックテイストが強いもの、そのふたつがあって、ラリー・カールトンやリー・リトナーは、どちらかと言えば前者でしたから、イノセントなジャズファンにも受け入れられる要素がありました。

しかしジェフ・ペックは既にロックのスタアギタリストでしたし、怖さをモロ出しにしたガチガチにハードな音作りは、ジャズ評論家の先生方からも敬遠され気味のところが、確かにありました。

そして似たような感触はジョン・マクラフリンにもあったところですから、その共演者だったヤン・ハマーとナラダ・マイケル・ウォルデンが起用されたのも、当然の流れだったかもしれません。

以降、ジェフ・ペックはヤン・ハマーのバンドに客演する形でライプ盤を作ったり、ナラダ・マイケル・ウォルデンのリーダーセッションに参加する等の活動から、ついにはスタンリー・クラーク(b) との心底恐ろしいハードロックフュージョンのバンドをやってしまうのですが……。

もう、そこまで行ってしまうと、後が無いという感じで、しばらくの沈黙期に入るのです。

その意味で、この「ワイアード」こそが、ギタリストとしてのジェフ・ペックがやったロックジャズの頂点かもしれません。

ご存じのとおり、飽きっぽいとしか言えないジェフ・ペックは、それからもハードロックとフュージョンの道行を繰り返しては今日に至っていますが、なんと近々、ナラダ・マイケル・ウォルデン(ds)、ロンダ・スミス(b)、ジェイソン・リベロ(key) という興味津津のメンバーを引き連れて来日公演予定!

あぁ、行ってみようかなぁ~~♪ エグイお姉ちゃんベース奏者のロンダ・スミスも気になるし♪♪~♪

と、忙しい最中にも決意させる魅力が、ジェフ・ペックには今もあるのでした。

コメント (3)
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