OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ポール・サイモンの自縛の名盤

2010-03-20 13:19:49 | Simon & Garfunkel

There Goes Rhymin' Siomn / Paul Siomn (Columbia)

邦題が「ひとりごと」というポール・サイモンの名盤で、もちろん既にサイモン&ガーファンクル解散後の昭和48(1973)年に発売されたものですが、サイケおやじにとっては、これもまた、様々に音楽業界の秘密を教えられたアルバムでした。

 A-1 Kodachrome / 僕のコダクローム
 A-2 Tenderness / 君のやさしさ
 A-3 Take Me To The Mardi Gras / 夢のマルディ・グラ
 A-4 Something So Right / 何かがうまく
 A-5 One Man's Ceiling Is Another Man's Floor / 君の天井は僕の床
 B-1 American Tune / アメリカの歌
 B-2 Was A Sunny Day / 素晴らしかったその日
 B-3 Learn How To Fall / 落ちることを学びなさい
 B-4 St. Judy's Comet / セント・ジュディーのほうき星
 B-5 Loves Me Like A Rock / 母からの愛のように

ご存じのとおり、当時はシンガーソングライーの流行が我国にも波及して、今では夢のフォークが大ブームでしたから、その大御所だったポール・サイモンの人気も圧倒的だったんですが、それもサイモン&ガーファンクルという錦の御旗が無くなってからは前作ソロアルバムがイマイチの評価だったこともあり、この新作にも当初は懐疑的なファンが多かったようです。

しかしサイケおやじはリアルタイムではLPを買えなかったものの、国営FMラジオ放送で丸ごと流されたアルバムの中身をエアチェック! そして連日のように聴きまくっていました。

とにかく全曲が充実の極みというか、ゴキゲンなんですねぇ~~♪

もちろんポール・サイモンが十八番のメロディ展開と歌詞の語呂の気持良さに加え、演奏パートのリズム的快感やジャズっぽさ、さらにこの頃には私がどっぷりと浸り込んでいたオールディズポップスの味わいまでもが見事に感じられたのです。

特にA面トップの「僕のコダクローム」は先行シングルとして我国でも大ヒットした、やったらに調子の良いライトポップスですが、そこで作り出されているリズムとビートの不思議なグルーヴ感は強い印象を残します。

実は当時の我国では一般的ではなかったのですが、そこにはレゲエやスカと称されるリズムが使われており、しかも演じているのが決してジャマイカの現地ミュージャンではなく、アラバマのマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオ専属の白人バンドだったのです。

それがピート・カー(g)、ジミー・ジョンソン(g)、バリー・ベケット(key)、デヴィッド・フッド(b)、ロジャー・ホーキンス(ds) といった名手達で、それまでも多くの黒人R&Bヒットやスワンプ系のレコーディングを裏方で支えていた実績は知る人ぞ知る存在で、天才デュアン・オールマン(g) も下積み時代は彼等の仲間でした。

で、そういう猛者達には、どんな要求も一発即決でやれる実力があり、加えて独自の個性もそれとなく滲ませるという手口が用意周到なのでしょう。前述した「僕のコダクローム」にしても、そのゴキゲンなグルーヴに思わず満足したのでしょうか、終盤でポール・サイモンが思わず「OK~♪」なんて言ってしまってますが、実際、タイトで歯切れ良く、さらに独得のヘヴィな感覚は何度聴いても気持良すぎますし、密やかなジャズっぽいオカズの使い方も良い感じ♪♪~♪ 

そしてこのアルバムは大半が前述のリズム隊によって作られ、ポール・サイモン節が見事に演出されたのですが、そうした裏事情や所謂マッスル・ショールズ・リズムセクションについてのあれやこれやが、当時のラジオの洋楽番組や音楽雑誌で特集され、これがサイケおやじにとっては目からウロコの勉強になりました。もちろん以降、その路標で奥の細道へと踏み込んで行ったのです。

まあ、それはそれとして、このアルバムは本当に素晴らしい歌と演奏の幕の内弁当で、黒人コーラスグループのディキシー・ハミングバーズと共演したジャズっぽいドゥーワップ曲「君のやさしさ」のそこはかとない甘いムード、後年にはボブ・ジェームスのインストバージョンがヒットした「夢のマルディ・グラ」の穏やかな楽しさ、如何にもポール・サイモンが畢生のパラード「何かがうまく」はサイモン&ガーファンクルのバージョンが残れさていないのが悔やまれるほどです。あぁ、この曖昧なメロディを彩る雰囲気の良さは絶品!

さらに珍しくもブルース&ゴスペルのフィーリングが表出された「君の天井は僕の床」は転調が多用され、各コーラスのメロディ展開が全て違うというジャズっぽさ!?! マッスル・ショールズのリズム隊も地味~にエグイことをやらかしていますよ。

しかしこのアルバムはマッスル・ショールズ組ばかりではなく、所謂ニューヨーク派のコーネル・デュプリー(g) やゴードン・エドワーズ(b) のスタッフ組、ポール・グリフィン(key)、リック・マロッタ(ds)、ボブ・ジェームス(key)、グラディ・テイト(ds)、リチャード・デイビス(b) 等々のジャズフュージョン系のメンツも良い仕事を聞かせており、前述した「君のやさしさ」や「何かがうまく」もそうでしたが、特にB面では「アメリカの歌」が圧倒的にサイモン&ガーファンクルの夢よもう一度♪♪~♪

ちなみにアルバム全篇のプロデュースはポール・サイモン本人と盟友のロイ・ハリー、さらに新進気鋭のフィル・ラモーンという都会派が担当していますから、まろやかな仕上がりは「お約束」以上♪♪~♪ と言うよりも、異なるスタジオや共演者達の魅力を薄めることなく纏め上げたのは流石だと思います。

その意味でミシシッピのマラコスタジオで録られた「落ちることを学びなさい」が、イナタイ雰囲気を残しつつ、なかなか都会っぽいS&Gサウンドになっているは興味深いところでしょう。

当然ながら、そこにはポール・サイモン独得のアコースティックギターが存分に使われていて、溜飲が下がるのですが、それゆえにアート・ガーファンクルの不在が悔やまれ……。

なにしろ「セント・ジュディーのほうき星」や「母からの愛のように」というアルバムの大団円が、どのようにアレンジされていても、基本のメロディや曲構成がサイモン&ガーファンクルでしかありえないのですから!?! ただしディキシー・ハミングバーズのコーラスがついた「母からの愛のように」は、それなりに良い感じですよ♪♪~♪ 私は好きです。

ということで、聴くほどに味わい深い思惑が感じられてしまうんですが、それは別に悪いことではないでしょう。むしろそういうプロデュースが良い方向に作用したからこその名作じゃないでしょうか。

その中には凄腕のスタジオミュージシャンとポール・サイモンの対決&協調という軸が確かにありますし、それでも個性を失わないポール・サイモンのギターの素晴らしさ、そして作り出された歌の魅力が全面開花しています。和みのカリプソフォークとでも言う他はない「素晴らしかったその日」では、アイアート(per) とボブ・クランショウ(b) を相手にしながら、面目躍如の存在感を示すポール・サイモンが余裕ですねぇ。

ただし私も含めた世間は、ど~してもサイモン&ガーファンクルを望んでいたのは間違いないところで、ポール・サイモン自身も次作アルバムとなったライプ盤LP「ライブ・ライミン」では、たっぶりとそれをやってしまい、自分で自分の首を絞めてしまったという……。

結局、ポール・サイモンは自縛の罠から逃れられず、いろんな事情もあって、度々のサイモン&ガーファンクル再結成を演じるのですが、だからといってソロ活動で作った諸作が軽く扱われるのは心外でしょう。

例えば、この「ひとりごと」は永遠に楽しめるマストアイテムだと確信しております。

コメント (2)
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