OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

キャロル・キングのダメモトな贅沢

2010-03-02 17:21:47 | Singer Song Writer

Simple Things / Carole King (Avatar / Capitol)

3月といえば別離と新しき旅立ちの季節ですよね。そんな時に思い出させるのが、本日ご紹介のアルバムです。

その主役のキャロル・キングは説明不要、1960年代の職業作家時代から自ら歌うこともあった才女でしたが、シンガーソングライターという1970年代からの大ブームもまた、彼女の傑作アルバム「つづれおり」が、そのきっかけのひとつでした。

しかし創作には煮詰まりとマンネリが宿命というか、如何にキャロル・キングと言えども、1974年あたりから少しずつ低調な雰囲気が漂い始めたのは否めず、そのあたりを逆手に活かしたのが1975年に発売された「サラブレッド」という爛熟の微温湯盤だったのですが……。

その背景には再婚相手として全盛期の彼女を支えたベース奏者のチャールズ・ラーキーとの離婚、あるいは芸能界にどっぷりの乱れた生活があったと後に語られているようですが、ただレコードやライプだけで彼女の歌の世界を楽しんでいるファンにとっては内幕を知る由も無く、それでもコンスタントに出される新曲に期待は薄れることがありませんでした。

もちろんそれが、期待どおり、ということはなかったとしてもです。

で、そんな状況の1977年になって世に出たのが、このLP「シンプル・シング」だったんですが、まず驚いたのがレコード会社の移籍というか、それまでの盟友だったルー・アドラーが運営していた「Ode」を離れ、キャロル・キング自らが設立した新レーベルの「Avatar」が制作、そして配給は大手のキャピトルという体制になっていたことです。

それは彼女自身がより大きな自由を得た事と引き換えに、今となってはインディーズならでは苦労があったことは容易に推察出来るのですが、少なくともリアルタイムでの私は、尚更にキャロル・キングだけの「節」が楽しめると、本当に強く思っていたのですが……。


 A-1 Simple Things
 A-2 Hold On
 A-3 In The Name Of Love
 A-4 Labyrinth
 A-5 You'er The One Who Knows
 B-1 Hard Rock Cafe
 B-2 Time Alone
 B-3 God Only Knows
 B-4 Th Know That I Love You
 B-5 One

結論からいうと、あの仄かに暗いAメロから開放的なサビへと進展する十八番の「節」が、ほとんど出ていないと感じます。というか、キャロル・キング自らが新しいメロディ展開を模索し、なんとか捻り出した歌……、というものばかりなんですねぇ。

これはファンの中でも私だけの気分かもしれませんし、新しい試みに臨んだキャロル・キングに対しては贔屓の引き倒しでしょう。

しかしここに収められた歌は、なにもキャロル・キングが歌わなくとも、リンダ・ロンシュタットやカーラ・ボノフでもOKじゃないかとさえ、思います。

ちなみに当時はイーグルスが全盛期の「ホテル・カリフォルニア」を出し、ウエストコーストロックが頂点を極めていましたから、キャロル・キングにしても、そうしたサウンドを狙うことで、これまでの個性から、更なる飛躍を目指したことは、決して間違いではないかもしれません。

しかも彼女自身がハリウッドを離れ、コロラドに移り住んだという生活環境の意図的な変更や演奏パートのほとんどを現地のローカルバンドだったナヴァロと名乗る6人組に委ねたあたりも味わい深いところです、

そして出来あがったのは、なんとその年のワーストアルバムに選ばれるというほどの賛否両論!?!

う~ん……。

それでもA面ド頭収録のアルバムタイトル曲「Simple Things」は、なかなかハートウォームな曲メロと分厚いストリングスが効果的なアレンジで、実に秀逸♪♪~♪ まさにプロのソングライターの良い仕事だと思います。

ただし、繰り返しますが、それまでの特徴的な「節」がほとんど出ないのでは納得出来ない部分が多く、どうにかシングルヒットになった「Hard Rock Cafe」にしても、こんなタイアップ曲を何故に歌わなきゃならないの? と思うばかりです。

またバックバンドのナヴァロにしても、本当に器用で上手い連中なんですが、個性が感じられず、「You'er The One Who Knows」や「God Only Knows」あたりの正統派ウエストコーストロックがど真ん中のアップテンポ曲においても、ギターソロやコーラスが虚しかったします。

正直、何が悲しくて、こんなのを聴かなきゃならない?

と思いましたですねぇ、当時は……。

実はこの背景には、キャロル・キングの新しい曲作りの相棒で、後には三度目の結婚相手となるリック・エヴァーズという人物が存在しており、コロラドへの移住や新レーベルの設立にも関与していたというのですから、さもありなんでしょうか。

ご存じのとおり、このリック・エヴァーズにしろ、ナヴァロにしろ、当時も今も評価されているとは決して言えないわけですし、特にリック・エヴァーズは次作アルバムの準備中に悪いクスリで急逝するという悲劇もあったりして、全く当時のキャロル・キングは迷い道だったと思います。

しかしリアルタイムを過ぎて、時が流れた後、時折に取り出して聴くこのアルバムは、なかなか素直で良く出来ているなぁ~、と妙に感服したりします。

なによりもキャロル・キングのボーカルに勢いと潤いがありますよ♪♪~♪

ですから曲調に往年の味わいが薄れていても、いや、それだからこそ、彼女の歌いっぷりに素直に惹かれるのでしょう。特に今の時期にはジャストミートだと思います。

忘れられたアルバムの再発見も、時には素敵な贅沢ですね。

コメント
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