山上俊夫・日本と世界あちこち

大阪・日本・世界をきままに横断、食べもの・教育・文化・政治・歴史をふらふら渡りあるく・・・

イギリスのパブとエールビール

2018年07月03日 23時36分33秒 | Weblog
 小坂剛『酒場天国イギリス』(中公新書)を偶然手に取った。イギリスのパブを中心にしたイギリス文化論の本だ。パブはパブリック・ハウスの略で、酒を提供する場であるとともに、共同体の拠点だと指摘している。日本でも昔の田舎の公民館が、さまざまな村の宴会の場であったように、パブはイギリス全土にわたって、酒を飲んで、しゃべり、交流するパブリックな場なのだ。
 ヨーロッパではキリスト教会が祝宴の場でもあったが、「俗」を酒場に移し、教会は「聖」に純化した。日本でも何回忌かの法事は親族の交流と結束を固める大事な祝宴だ。わたしの子ども時代、浄土真宗では宗祖親鸞聖人を偲ぶ報恩講が毎年行われた。持ち回りだったか定かではないが各家でも行った。そこは親鸞聖人へ感謝し、宴を共にするのだ。子供の間でも報恩講をした。報恩講と称して仲間の家に泊まって遊ぶだけなのだが。昔の農村では宗教行事のときしか酒を飲む機会はなかった。今とは違う。
 ヨーロッパではパブやバルが、祝宴と交流を受け持って、「公」と「民」の中間的な場で全国展開したということだ。都会でも地域共同体、あるいは労働者街の共同体のパブリックな交流の場として栄えた。パブでは、いす席もあるが基本立ち飲みだ。どんどんつめかけると外にテーブルを出す。ビールなどを片手に、おしゃべりに花を咲かす。そのビールも味わいながら飲む。何軒もはしごする。基本は飲むだけ。日本のように刺身や酒の肴を競い合うことはない。だから私など、肴なしで飲むのはさびしい。せいぜいポテトチップス程度のようだ。もちろん気の利いたつまみや食事を出すパブもあるが。
 以前、イギリスに住んでいた元大学教授とスキーで同宿した時、イギリスのパブは入り口が二つあり、一つは労働者庶民の、もう一つは上流階級の人の入り口だと。上流の人は専用口から入り、飲み物を買う。別の口からは労働者が入りビールを手にする。店のなかではごっちゃになるが、入り口が違うと買うビールの値段が違うのだそうだ。階級社会といわれるイギリスの面目躍如だ。同じビールに高い金を払うのを腹を立てたりしない。そこはイギリス紳士だ。おうような姿勢が身についている。この本ではそのような解説はなかったが、本の写真をよく見ると、入り口が二つあるパブがいくつか写っている。
 イギリスではパブ文化を崩しかねない、閉店ラッシュがあるようだ。酒だけの店が苦戦しているようだ。でも地上げ業者のような連中が閉店に追い込む事態に、反対運動があちこちで起きているという。パブリックなパブゆえだ。
 パブでの主なビールは「エール」ビール。常温で発酵させるタイプのビールで、低温発酵の「ラガー」ビールとは違う。イギリスでは伝統的に、「エール」が主で、「ラガー」は少なかったが、今や逆転したそうだ。しかし伝統回帰でエールもがんばっているという。エールは、色が濃く焦げ茶色だ。ラガーは山吹色だ。もともとエールはホップを入れなかったが、今は入れる。でもラガーに比べれば控えめ。だから、味は濃いが、ホップが効かず、やはりラガーの方がいい。
 今日、イギリスエールビールをエールと認識して初めて買った。以前にも飲んだが意識したのは初めてだ。しかしやはりラガーのほうがいい。エールは噛むように飲むビールだ。勢いに任せて飲むタイプではない。
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