湘南発、六畳一間の自転車生活

自転車とともにある小さな日常

行列のできる焼き鳥屋さんにて

2007年03月17日 | 日常生活
 僕がよく行く鎌倉の焼き鳥屋さんは地元ではなかなかの人気店である。平日はそんなにひどくはないけれども、土日となるとラーメン屋さんのように回転がいいわけでもないのに行列ができてなかなかお店に入れないこともある。

 そんな行列に並んでいるときの心境はちょっと複雑である。後ろに並んだ人は自分が並びはじめてから20分くらいあとにやって来たというのに、たまたま席が一気に空いて、あとからやってきたその人たちも一緒に入店できたりするとなんとなく面白くない感情を抱いたりする。決してその人たちが悪いわけでもないのにね。要は僕は人間が小さいのである。

 皆が皆ではないけれども、帰るお客さんの多くが、並んでいる人たちに「2つ空きますよぉ」といった感じで声をかけて行く。そうするのがそのお店の慣わしのようになっているところがある。そうすると先頭の2人は強張りはじめた表情を緩め、「ありがとうございま~す」と言って狭い店に入れ違いに入って行く。他の人たちは「自分の番はまだもう少しあとかぁ」と肩を落として場所を詰め、まだ少し順番を待つことになる。

 僕が思うに、帰って行くとき、並んでいる人たちに「空きますよぉ」と声をかけるのって結構気持ち良いんじゃないかと思う。並んだ末にようやく入店し、店内でお酒を呑みながら美味しい焼き鳥を食べて楽しく過ごす。外に出ると行列がさらに伸びていたりする。そこにほろ酔い加減で、「空きますぉ」と声をかけて帰っていく。なんとなく優越感を感じる瞬間である。つまり、僕は人間が小さいのである。

 ○月×日 曇り一時雪のち晴れ 酷寒

 その焼き鳥屋さんの開店まで少し時間があったので、小町通りを冷やかしながら八幡宮まで歩き、お参りをする。そうして焼き鳥屋に戻ってきたのは開店8分後。行列こそできていないものの店内はすでに満席。とても回転の良い店とは言えないので、とりあえず1時間くらいまたどこかをふらついてから戻ってこようと今度は海まで歩く。

 夕暮れ間近の海まで歩き、砂浜に下りる。いつも自転車に乗りながら眺めている海も、足の裏で砂の感触を味わいながらだとまた違って見えたりするものだ。

 そうしてまたお店に戻ってきたら店の外に5人の人が待っていた。この程度で良かったと列の後ろにつく。時間がたつにつれて少しずつ列は長くなり、足先がかなり冷えてきた頃にようやく列の先頭で「2人空きますよぉ」と声をかけられたときには10人以上の人が並んでいた。かなり冷えた空気のなか、30~40分くらいじっと外で待っていたので店に入るときはかなりホッとした。

 普段はビールばかりの僕も、さすがにこの日は熱燗を頼んだ。そして冷えた体にエネルギーを補充するために普段よりかなりたくさん焼き鳥や小皿を頼んだ。塩加減焼き加減ともに絶品のバラやシロ、気持ちジューシーなレバーや新鮮な鳥刺し、こんがりと焼き目がついたうずらなどなどを食べ、静かに話をしながら落ち着いた時間を過ごし、最後に“あがり”と呼ばれる鶏がらのスープをもらう。熱々の“あがり”をはふはふしながらすするのがまた幸せである。

 ほろ酔い加減で会計を済ませ、寒さに震えながら席が空くのを待っている人たちに上機嫌で「2つ空きますよぉ」と言って帰ろうと思って扉を開けたら、外は暗闇のなか寒々しい風が吹くばかりで、並んでいる人などひとりもいなかった。なんだか肩透かしを食った気分ではあったけれども、小さいことを考えていた僕にはふさわしい光景のようにも思え、なんとなく笑ってしまった。

 季節が逆戻りしたような、とにかく冷えた夜のことだった。