湘南発、六畳一間の自転車生活

自転車とともにある小さな日常

直江津集合2010 1日目 笹子峠・大弛峠・馬越峠

2010年08月29日 | MTB
 今年も走って来た。直江津まで。そして今年も日本海に沈む夕日を見て来た。

 今年で4回目となる「直江津集合!」。ことばには出来ないような衝動にかられてひとりで直江津を目指した2006年から数えると5回目の直江津。あれからもう5年がたとうとしているのか・・・。そう考えるとなんだかとても不思議な気がする。そしていくつかのやはりうまくことばにはしにくい感情が胸に渦巻く。



 今年は26日木曜日23時に滑川出走。本当は27日に日付がかわる0時きっかりに走りはじめようと思ったのだが、気持ちが静かに興奮気味だったのかうまく仮眠がとれず、1時間出発を早めることにした。

 鎌倉からはまずはR134で相模大橋を越えたところまで。そこからはR129~R413・412~R20と走る去年と同じコース。去年は気持ちの良い追い風に、セーブしつつもついついペダルを踏みすぎて相模湖あたりで疲弊してしまったので、今年は2006年にはじめて直江津を目指したときのように、序盤は本当に力を抜いてペダルをまわす。どうせあとから嫌でも力を振り絞らなくてならないのだから。体力気力を絞りとられるのだから。

 そんなふうに気をつけていたせいもあってか、津久井湖相模湖あたりの嫌らしいというか残念というかの上り基調のアップダウンも比較的楽にこなせた。そして仮眠できなかったわりには、たいした眠気を感じることなく順調に走ることができた。

 ただ気になることもないわけではなかった。サドルとサドル位置の違和感である。まだ全然馴染んでいないガチガチのブルックスの革サドルをせっかくだから馴染ませてしまおうと今回つけてきたのだけれども、ポジションの違和感がやはり気になってきてしまったのだ。サドルをもう少し後退させられれば良いのだけれども、これ以上後退させると重いサドルバッグをつけていることもあって、ギシギシときしみ音が出てきてしまうのだ。でも今更サドルを交換するわけにはいかないので、なるべく足に負担をかけないような走り方をするしかないな。使い慣れていないサドルを取り付けてきたのだから仕方ない。それなりに覚悟もしていたわけだし。



 省エネ走法を続けて、笹子峠の旧道には6時58分に到着。去年は分岐で笹子トンネルで楽をしたい衝動にかられたけれども、旧道の好ましい静かな雰囲気のなかを走ったほうが疲れが少ないということが去年わかったので(ホントか?)、今年は迷わず旧道に向かうことができた。



 笹子峠からは塩山に向かって下る。そして今年も大弛峠を目指す。

 ところで、大弛峠を自走で越えるという発想は、一昨年までは心のどんな片隅にも、どんな奥底にもこれっぽっちもなかった。学生時代に大弛峠には3回行っているけれども、すべてが輪行だった。標高差の少ない長野側の信濃川上駅から走りはじめて、峠でテントを張って1泊、そして金峰山や国師岳、北奥千丈岳などの山歩きを楽しんで塩山まで下るという2日で80kmくらいのツーリングだった。もっともそうは言っても当時の大弛峠は長野県側だけでなく、山梨県側も金峰牧場まで未舗装だったし、キャンプ道具を積んでの走行と山歩きを含めればそんなに楽なツーリングではなかったけれども、とにかく標高差が2000m近い山梨側から上るなんて絶対に嫌だったし、自走なんて本当にこれっぽっちも考えることはなかった。

 だから2年前にこちらの合宿で自走で大弛峠を越えようとしているという話を聞いたときは耳を疑った。それも笹子峠の旧道を越えたあとに大弛峠を目指すという。結局、崖崩れか何かで通行止めになっていたせいで笹子峠ではなく笹子トンネルを通ったのだけれども、そのかわりに塩山からは太良峠~水ヶ森林道経由で大弛峠まで走ることになった。そして何度も挫けそうになりながらも、なんとか大弛峠を越えて目的地である廻り目平のキャンプにたどり着くことができた。とてもきつく、とても苦しかったけれども、これは僕にとって確かにひとつの自信になったのだと思う。そしてそのときになんとなく思ったのが、「大弛峠を越えて日本海を目指すことができるかもしれない」ということだった。

 そのときに感じた気持ちを僕は翌年試すことになる。期待よりも全然大きな不安を抱えて鎌倉を走り出した。出走時にSNSに書き込みをしなくてはならなかったのだけれども、本当に日本海にたどり着ける自信がなかったので、決して出し惜しみをしたわけではなく、いや少しは出し惜しみもあったけれども、大弛峠を越えるまではどうしても書き込みができなかった。

 自転車での苦しさというのは、結局のところ日常や人生の苦しさやつらさと比較すれば本当にちっぽけなものなのだろう。1年たてば忘れるとまでは言わないにしろ、勝手に美化されたり歪曲されたりしてしまうものなのだろう。

 というわけで、今年も大弛峠を向かったのである。去年はどこで朝飯を食べるか、どこが最後の補給地点なのかなどと不安を感じながら塩山市街をふらふらしたりしたのだけれども、今年はそういった心配はなかったのでとりあえずスムーズに大弛峠を目指すことができた。もっとも、コンビニ前での朝食時に100%のオレンジジュースを1リットル飲み干してしまったのは大失敗であったが。こみ上げる酸味、そしてそれを和らげるために必要以上に繰り返される水分補給。腹はとっくにたぽたぽなのに水を飲むことがやめられないのだ。



 そんな状態だったので、乙女湖を越えて登場したこの水場は本当にありがたかった。ちなみに塩山からここまでの1200m近い上りはあまりにきつ過ぎだ。とりたてて景色が楽しめるわけではない、太陽が照りつける勾配のきつい南側の斜面。休憩はするのだけれども写真をとる余裕はなく、一桁当たり前の巡航スピードで無言で上った。



 しかし標高が高くなるにつれて、少しずつ空気が涼しく、そして勾配も穏やかになり、景色も柔らかく優しいものにかわっていく。



 そうなると当然気持ち的にも余裕がでてくる。



 がしかし、峠まで残り5km、標高2100mあたりでいきなりアスファルトを叩きつける激しい雨。正直この写真をとったときはすぐにやむと思ったのだけれども、雨はさらに勢いをまし、この場所でずぶ濡れになって45分以上も雨宿りをすることになってしまった。今回はペラペラのウィンドブレーカーしか用意してこなかったので、この容赦なく雨の打ちつける雨宿りになっていない雨宿りは本当にきつかった。しゃがみこんで身を縮めてぶるぶる震えていたのだが、そうしていたら左足が攣りそうになる。まずいと思って左足の位置をかえて力を抜こうとすると今度は右足がピクピクする。仕方なく立ち上がって屈伸やマッサージをすると、今度は上半身が寒さでがくがく震えだす。少し待てば絶対にこの雨はやむはずだ、それに猛暑でみんなが苦しんでいるときにこんな涼しい場所にいる自分はとても幸福なんだと自分を励ましたり、慰めたりしようと試みるのだが、残念ながらほとんど役にはたたなかった。

 ようやく雨が小降りになったあとは、体を温めるために軽いギアをくるくる高回転でまわして峠を目指した。



 そしてようやく到着した到着した2360mの大弛峠。ぎづがっだ。。。

 ホントは大弛小屋でコーヒーなりカップラーメンなり体を温めるものをお腹に入れたかったけれども、曇を見ると雨の心配はいまだありそうだったので、早く標高の低い場所へ移動したほうがいいと少しの休憩ののち長野側へ下りはじめた。



 わかってはいたことだけれども、大弛峠の長野県側の下りは第一級といっていいくらいのガレガレのダートなので、1.5インチのスリックタイヤでは一桁のスピードでしか下れない。こんな天気だからこそパンクは絶対に避けたかったのでかなり慎重に下った。



 しかしこの写真の場所から少し下った標高1850mくらいの場所でまたしても土砂降りに。たまらず山側の木の茂った斜面に避難した。ここはさっきよりはかなりまともで、木の下にしては充分くらいに雨粒を避けることができた。もちろん完全には避けられるわけではないけれども、体がずぶ濡れびしょびしょになるということはなかった。ただジャージやレーパンは濡れたままだったので、やはり寒さがきつかった。それから車がまったく通らないので、少し心細かった。このまま雨がやまなかったらまずいなと思った。そのときは自転車押してでも廻り目平まで下って、金峰山荘で泊まるしかないなと思った。幸い今まで5回も通っている大弛峠だからまだましだけれど、これがはじめての山深い場所だったら相当不安に感じるだろうななどと、羊羹などを補給しながらぼんやりと思った。

 30分ほど待って雨が小降りになったので、心を決めてまた下りはじめた。待っていても誰が助けてくれるというわけではないのだ。跳ね上げられた泥や砂でサングラスの視界がどんどん悪くなっていく。とても路面が見づらい。それでもパンクだけはしたくないので、慎重に注意深く下る。



 そしてようやく舗装路へ。この舗装路もしばらくはえぐれていたり、陥没していたり、グレーチングがすっぽりなかったりといった場所がいくつかあるので油断はできないのだけれども、舗装路に出て相当気持ちがほっとしたのは事実だ。ふぅ。

 大きな農道に出たあと、畑から流れ出した泥水を跳ね上げながら信濃川上の県道に出て、サングラスを外した瞬間に冗談抜きで世界がぐらぐらと揺れた。たまらず歩道にへたりこんだ。冬からめまいが発症しやすくなっているということもあるのだろうけれども、視界の悪いサングラス越しに荒れた路面状況を把握しようと、変なふうに目を使い続けたからだろう思った。今年は去年越えられなかった馬越峠を上りたかったのだけれども、この時点ですっかり心が折れて、馬越峠へ向かうのはきっぱりと諦めた。というより、馬越峠がどうこうというより、信濃川上駅でDNFしたいくらいだ。



 でも、なぜか40分後の自分は馬越峠に向かっていた・・・。歩道でぐったりしてたらめまいがおさまったのだ。汚れたサングラスをタオルで拭いて(タオルしかなかったのだ)かけてみたらとりあえず問題なさそう。



 そして亀のようなといったら亀に失礼ではないかと思われるような歩みでようやく標高1640mの馬越峠に到着。あぁあとはここからは佐久平の健康ランドまでほとんど下りだぁとホッとしたのも束の間。馬越峠からの下りでまたしても雨に降られたのだった。南相木村の床屋さんの軒下でしばらく雨宿りをさせてもらいながら、携帯でここらの天気予報を確認するとこの雨はどうやらにわか雨ではなく、明日明け方まではやまないようだ。普段は雨だとまず自転車に乗らない僕は、自覚はしていたけれども雨などものともしないブルベライダーに代表とされるような人たちと比べて、脆弱でありタフさがないのだ。というわけで、またしても意気消沈したのだけれども、ここでずっと雨宿りをしていても状況がかわるわけではないので、とりあえず小海駅まではと思って「えいや!」と走り出した。だいたいすでに全身ずぶ濡れなのだ。

 1.5インチのスリックタイヤは笑ってしまうくらいに路面の水を跳ね上げる。実際にへらへら笑っていたなんてことはあり得ないのだけれども、口のなかは砂でジャリジャリだ。放心状態で口が半開きになっていたのだろうか?小海駅が近づいてきたら雨はまだ降っていたけれども、ありがたいことに小振りな雨のなかに太陽の光が差し込んできた。そして今日の目的地である佐久平方面には青空すら広がりはじめていた。

 そのまま小海駅を過ぎ、R141を北上しているあいだに雨はやんだ。それでもしばらくはウィンドブレーカーを着て走り続けた。そして風で乾いたことを確認してからウィンドブレーカーを脱いだ。そのあとは意識してもどうにもならないのだけれども、ジャージとレーパンが乾くよう意識して走り続けた。雨が気になっていた革サドルはもうとっくに諦めていた。

 そして18時30分少し過ぎに去年も泊まった佐久平の健康ランドによーやく到着した。本当はもう少し早く着いてのんびりしたかったのだけれども、いろいろ予定外の休憩というか停滞があったので仕方ない。まぁそういうのも含めてがサイクルツーリングなのだ。ま、でも普段は雨中走行は嫌ですけどね。。。

 健康ランドに入る前にガストで夕食を食べた。本当は違うお店で食べたかったのだけれども、ガストが一番近かったのだ。隣の夢庵のほうがまだ良かったのだけれども、シューズを脱ぐ勇気がなかった。ずわんねん。

 健康ランドでは風呂に入る前に、古新聞をもらってソールとシューズの水気とりの準備をした。面倒だけれどもこれをやっておこないと、明日そして今後大変なことになると思われたから。そしてその後靴下を洗って、やはり古新聞で包んでからようやく入浴。いやいや、ホント疲れた1日だった。でも無事ここまで走ってこれて良かった。

 ただ、来年からはもう大弛峠を越えて直江津に向かうことはあり得ないと思う。山梨側から上って長野側に下るのはあまりに労多くして益が少ない気がする。太いタイヤを履いて、少ない装備で走れば楽しめるとは思うけれども、細いタイヤで日本海に向かう途中で通るのは2回も走ればもう充分だと思った。これは本当に心からそう思った。来年は違うコースを考えて、MTB以外の自転車で走ろうと心に決めたのだった。

 1日目の走行距離245.12km

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ありえません (dokaidokai)
2010-08-31 22:49:45
ごぶさたしてます。 先週の土曜日に塩山まで輪行して大弛峠に行ってきました。 今回は、徒歩で国師ケ岳にも行きましたが、疲れたのなんのって、2日後でも筋肉痛でした。 それを、日本列島横断の途中にやりとげるなんて、しかも、雨、ありえません。
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え(@@; (noahpon)
2010-08-31 23:56:32
ブルックスの革サドルつけてったんですか!雨のなか、気を遣いますよね。ビニールかぶせてある気持ちが痛いほどわかります!


ところで、やっぱり私より数時間前に林道を走破してたんですね。何となくそんな予感がしましたので、ダートの路面を目を凝らしながら走りましたけど、バイクや車のタイヤ跡が目立っており、見つけることができませんでした(^^;
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いいですねぇ (ワニガメ)
2010-09-01 14:27:42
どの記事にコメントしていいか迷いましたが、一番上のでw

林道でこれだけの距離を走破されるとは、さすがです。

舗装路ももちろん素敵ですが、林道はまた違う感動がありそうで・・・羨ましいです。

この道は私もぜひ走ってみたいコースです!!!
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正直僕もそう思います (yuzito)
2010-09-01 21:04:02
□dokaidokaiさん

ブログ見ました。自転車&国師岳への山登り、いいですね。こういうの僕も大好きです。
自走大弛峠は、走った僕も正直ありえない気がします。多分ものすごぉくゆっくりなので何とかなるのだと思います。でももう来年はしないと思います。

□noahponさん

革サドル、最初は気にしてたんですが、途中で諦めました。ビニール走っているとずれちゃうんですよね。
去年そんなことをおっしゃってたので、僕ももしかしたらnoahponさんも走るかなぁと思ってました。掲示板みてにんまりしてました。

□ワニガメさん

いや、ホントにうさぎと亀の亀のようにゆっくり走りました。あ、ところによっては亀に失礼なくらいにゆっくり。だからこそ、こういうコースも走れたんだと思います。
MTBやランドナーも乗っているので、そういった自転車に乗ってダートも走って日本海まで行ってみたいという好奇心があったのですが、来年はもういいかな(^^;
大弛峠は晩秋か初冬あたりに峠でキャンプとか楽しそうじゃありませんか?www
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ずわんねん。 (masa)
2010-09-06 22:36:12
ずわんねん、って何ですか(笑)

いやぁ、すごい!
苦行みたいですよ。こんな背景があったとは!
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ずわんねんとは (yuzito)
2010-09-07 18:57:16
□masaさん

心の底から残念に思うことです。たぶん(笑)
今年走って、ちょっとした雨宿りしかなかった去年がいかに恵まれていたのかわかりました。
夜も雨もへっちゃらなmasaさんはすごいです。
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すっかりMTB開花してしまいましたね (T)
2010-09-09 10:38:20
私は今年はW屋のイベントすっかりご無沙汰してますが、丹沢半周耐久ツーリングとあの時の夏合宿ですっかりMTB開花してしまいましたね。
丹沢ツーリングでyuzitoさんの実力を認め、夏合宿自走を勧めた鏑木店長の判断も正しかったということですね。
私は最近通勤でしか自転車乗ってないので体力かなり落ちてしまいましたが、体を鍛えて山岳ツーリングにいける体力をつけたいと思います。
あの夏合宿楽しかったなあ、また企画してくれないかなあ
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あの2つは大きかったです (yuzito)
2010-09-09 21:58:50
□Tさん

こんばんは。コメントありがとうございます!
最初の年の丹沢半周耐久と自走大弛峠越え合宿を完走できたのは、ホントに僕にとって大きなことだったと思います。あの2つの影響は計り知れないですね。なので、W屋さんのイベントに誘ってくれたことをホント感謝です。
通勤はもしかしたらまた距離短くなっちゃいましたか?でも今の勤務地であればMTBでトレイル走ってなんて贅沢もできそうでちょっと羨ましいです。
また一緒に走りましょうね~!
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Unknown (ikeda)
2022-10-04 19:34:08
久々に拝読しました。 いやーやっぱ、yuzitoさんはすごいですわ、いつか(来年?)っこのコースをリスペクトしたコースで直江津にグラベルバイクで行きたいです。
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ありゃま (yuzito)
2024-05-05 17:06:22
□ikedaくん

久々にアクセスして、コメント今気づきました!
申しわけない!!

グラベル直江津、僕も憧れるのだけれども、今は自転車との距離がほんと遠くなってしまいました。

いつか、僕も行けるといいなぁ。
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