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ObamaCare: 連邦最高裁合憲判決

2012-06-29 18:17:09 | アメリカ政治
発表された直後は、違憲判決の報道がされる程、精緻に練り上げられた合憲判決であった。

法案が成立した根拠となっている Commerce Clause の適用は違憲判断なのだが、健康保険を購入しなかった人に対するペナルティーを税金と規定する事で、連邦議会のみが持つ徴税の立法特権を適用して合憲判断となった。

連邦最高裁判事は、リベラル4人、保守4人、そして Swing Vote と呼ばれる中道が1人の構成なのだが、Swing Vote と目されていた Kennedy が違憲(保守側)の判断をした。しかし、保守派とされている Chief Justice(筆頭判事)の Roberts が税金の概念を持ち込む事で、結果的にはリベラル側に回っての合憲判断となった。



保守は、Chief Justice Roberts が憲法解釈を捻じ曲げて、政府とアメリカ市民の関係を永遠に変える判決を下したと憤慨している。一方、リベラルは、ObamaCare の法解釈には無頓着で、合憲と判断された事に大喜びである。

保守を裏切ったとされる Roberts であるが、ObamaCare という近年で最大の判例を通して、最高裁のあり方(と見られ方)、政治的な大紛争に巻き込まれないようにする、そして、国を二分する重大な政策は、究極的にアメリカ市民の判断に委ねるという、天才的な判決を出したのではないだろうか。

最高裁判事の構成で述べたように、どちらに転がるか分からない判例では、それぞれのイディオロギー(往々ににして、どちらの党の大統領に任命されたか)に沿った意見がだされ、リベラル、保守が均衡して、Swing Vote である Kennedy 次第という状況が続いていた。

今回も従来のような判決をだすと、連邦最高裁判所は法解釈ではなくて、イディオロギーで判決を下すと言う事が決定的になり、本来の機能を果たせなくなる恐れがある。 連邦議会で民主党と共和党がいがみ合った形がそのまま反映され、最高裁判所自体が、国民皆保険という最大の政治問題の渦中に巻き込まれる事になる。 又、他の判事、特にオバマに選出された二人に対して、イディオロギーを超越した連邦最高裁のあり方を自らが示したのではないだろうか。

合憲判決ではあるものの、連邦議会が Commerce Clause を拡大解釈、適用する事に歯止めを掛けており、ObamaCare を税金問題に矮小化させて居る所がこの判決の最大の妙味だと思う。 つまり、連邦議会で廃案を審議する時に、政府がこのような税を課税して良いのかという議論に集中出来る。

タイミングも抜群で、この秋に大統領選(上院の3分の1、下院)を控えており、ObamaCare が選挙戦の最大の焦点になるのは間違いない。結局は、アメリカ市民が自分たちで国民皆保険をどうするかを決めなさいと言っているのである。

Roberts は、リベラル判事に参加することで、ObamaCare を合憲としたものの、アメリカ市民の判断に信を委ねたのだ。それはアメリカの保守を試す事でもあるが、誰かに頼る(ここでは最高裁判所の判断)のではなく、自分たちの未来は自分で決めなさいという問題提起をしたことで、連邦最高裁筆頭判事という立場を超えた正統な保守であろう。

尚、Roberts は、Kennedy が違憲判断をした後に意見を変えている事をみても、ただ単に合憲、違憲だけを考慮した判決ではなった事を裏付けていると思う。


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2 コメント

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有り難うございます。 (真正保守政党を設立する管理人)
2012-07-01 12:13:42
判決内容自体は、「正面から入ると違憲、でも裏口から入るのは合憲」というような内容だと感想を持ったのですが、そういう読み取りが必要なのですね。

こちらでは「合憲か違憲か」という話しか出ておらず(それでも注目が高いとはとても言えませんが)、この水準の解説は全く成されていません。

来る大統領選は、相当に重要ですね。
アメリカの根本的なイデオロギーまで揺るがすインパクトを持つ可能性もありそうですね。
Roberts の変心 (ysjournal)
2012-07-01 22:21:18
Roberts の変心については、色々な憶測が飛んでおりますが、アメリカにおいて、リベラルの聖杯である国民皆健康保険を裁判所が判断する事を良しとしなかったのだと思います。

本当に今年の大統領選は、非常に需要な意味を持つと思います。

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