YS Journal アメリカからの雑感

政治、経済、手当たり次第、そしてゴルフ

In My Time: Dick Cheney

2011-09-01 10:35:04 | 書評
政治家の回想録は星の数程あると思うが、こんなに面白いのは初めてで、こんなに真剣に読んだのも初めてである。

販売当日の2日前にキンドルで購入したばかりであるが、読み出したら止まらなくなって、キンドルで一万ページもあるにの、読み終えてしまった。

興味は、どうしても自分が知っている2000年ブッシュの副大統領候補になった時から、8年間の副大統領時代に集中してしまう。

フォード大統領の首席補佐官(史上最年少)、その後10年間の下院議員として様々な委員会での活動と両党にまたがるネットワーク、パパブッシュ大統領時代の国防長官として湾岸戦争の指揮等々、政治家としての重厚な実績があったので、激動であったブッシュ政権の8年を支えられたのだ。「史上最強の副大統領」と形容されたのも頷ける。

副大統領になるまで約30年、実務レベルで官僚、議員、軍関係者と幅広く人々と、いろんな案件で一緒に働いており、副大統領時代に彼等が主要官僚になったりして、既に信頼関係が出来ていた。特に軍との関係が深い事が、良くも悪くも、9/11後のアフガン、イラクとの戦争をスムーズ(?)に遂行された大きな要因であるのは間違いない。

ブッシュ大統領との意見の相違もあった事で、影から操っていると根拠のない憶測もあったが、全編を通して、大統領個人、大統領職への尊敬の念は疑う余地が無い。見事に副大統領に徹していたようだ。

日本絡みの北朝鮮問題では、ライス長官とヒル国務次官補が6カ国協議の基本路線から外れ、2国間協議に漂流し、結果的にブッシュが追認して、テロ国家リストから北朝鮮を外す事で、日本の拉致問題解決が出来なくなった事に対しては、忸怩たる思いを吐露している。

北朝鮮の核開発については、シリアに技術提供を行っており、2007年にイスラエルが密かに空爆して破壊している。この事実は暫く伏せられていたが、6カ国協議の枠組みで、この情報を中国と秘密裏に共有する事などの作戦を用いれば、効果的に北朝鮮への圧力を掛けれたのではないかとも述べている。

(このシリア核施設のイスラエル空軍による破壊は、日本では報道も少ない。北朝鮮がシリアに対して技術供与をしている事は、アメリカが切り札として上手く使えなかった事も含めて、非常に重要なポイントであったと思われる。アメリカは、北朝鮮だけでなく、シリア、そしてイランへの核拡散も押さえたいという意図があったが、瓦解している。日本は、この手の情報はどこから入手出来るのだろうか?国務省からだけでなく、ホワイトハウスにも確認をとるとか、複数のパイプは存在したのであろうか?)

(そう言えば、日本では人気のある(?)アーミテージであるが、チェイニーとは仲が良くない様だ。名前はちょくちょく出てくるが、重要な外交案件(日本に関係あるなし無にかかわらず)での影響力はほとんど無い様な感じであった)

ブッシュ政権の末期の影響力が落ちて行く中で、ホワイトハウス内でも統一の取れないまま、国務省の先走りで6カ国協議が形骸化した事は日本にとって不幸であった。結局、北朝鮮問題はその後進展しないばかりか、悪化している様に見える。

控え気味ではあるが、オバマ政権への批判も出てくるのであるが、決して表層的なものではなく、本心でアメリカを憂えている事が良く理解出来る。オバマ就任直後のキューバの収容所閉鎖とか、テロリストを刑事裁判(軍事裁判ではなく)で裁くとか、議論をするのもバカバカしいと言う感じがヒシヒシ伝わる。

この本の内容がどこまで客観的か正しいかは別にして、詳細な資料での回想録なので、過去30年の(あくまでも共和党政権のであるが)アメリカ政治のダイナミズムを理解出来る良書だと思う。

アメリカの政治は、誰か黒幕が操っているとか単純な構図では無く、考えられない様な天賦の才能を持った多くの人々が、想像を絶する様な働きをしながら運営しているのである。悪玉、善玉といった単純な話ではないのである。(それは日本も同じであろう)そして、それは余りにも生々しい人間模様でもあるのだ。

アメリカ政治に詳しい人の翻訳で、日本語版が出る事を切望する。


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