YS Journal アメリカからの雑感

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島津奔る:池宮彰一郎

2011-09-13 05:31:45 | 書評
池宮彰一郎の盗作問題については、うっすらと知っていたが、この『島津奔る』も既に絶版となっている。(『島津奔る』の他に、『本能寺』と『高杉晋作』を新刊で持っている。後の2冊は、絶版にはなっていない)

歴史書、それも戦国時代から江戸幕府の始まりについては、書かれている事も多く、あらたな資料が出てくる事もないので、ある程度似てくる事は致し方ない様な気もする。

今回『島津奔る』を読み返してみて、後期の司馬遼太郎の様な、くどくどとした "歴史エッセイ" の挿入がないので、簡潔な文体と相まって、心地良くページを進める事が出来た。

朝鮮征伐にしても、関ヶ原にしても、今更という気がするのだが、この話の価値は、全く荒唐無稽に見える朝鮮征伐と江戸幕府の大名の扱い方に共通点、意外に思える経済的な視点を持ち込んでいる事だろう。

つまり、応仁の乱以降100年以上も続いた戦国時代が、太平の世になることで、戦争非常時経済をどのように転換して行くかという話である。戦続きで、活気づき膨らんでいる経済が一気に萎む事を、どうやって避けるかという事である。

石田三成、徳川家康、島津義弘だけが、大転換期を認識しており、そして島津義弘のみが、案を持っていたという設定になっている。石田三成は朝鮮を伐つ事に解決策を求め、思案中の家康に島津義弘が策を示すという筋書きである。

その策とは、城の普請を含む様々な土木工事と参勤交代である。つまり、江戸幕府は、生き残った大名たちに引き続き支出を強いる事で、経済の軟着陸を図ったのである。

実際には、このように劇的ではないと思うが、経済の戦後処理を考える人々がいたのであろう。但し、長い間、この政策をやり続ける事で、結局、大名が貧乏になり、流通の発達などで商人が力を持つ様になった事で、幕府が崩壊していくという皮肉な結末になるのである。

盗作問題で絶版という憂き目に遭っているが、『島津奔る』は読むに値する。

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