YS Journal アメリカからの雑感

政治、経済、手当たり次第、そしてゴルフ

ただ栄光のために:海老沢 泰久

2010-10-18 21:03:54 | 書評
この本は、巨人軍のピッチャーであった堀内恒夫の(選手の時の)ドキュメンタリーである。

巨人軍が9連覇をした黄金時代は、小学校から中学校に掛けてなので、それなりの記憶があるのだが、元々映像が少ない事で記憶を強化出来る機会がなかった事で、イメージがあまり残っていない。どちらかと言うと後に書かれたもので理解している事が多い。長島、王という圧倒的な存在があるので、堀内もその他大勢と言う感じで記憶になっている。

しかし、堀内に関しては、奇妙に覚えている映像がある。それは、もう選手としても終わりに近い頃のキャンプでのものだった。和やかな投手の守備練習で、緩いゴロを処理して一塁に送球するウォーミングアップみたいな練習だったが、堀内は後ろに回したグローブで両足の間を抜けてくるゴロをひょいとキャッチして、無駄のない動きで送球をしていたのである。

私は、スポーツ選手の余興でやる技が大好きで、例えばタイガーのウエッジでのリフティングとか、イチローの背面キャッチ等をみると、子供の様に(子供以上に)うれしくなるたちである。

巨人のエースだったというイメージだけしかなかった堀内が、そんな芸当を難無くこなすのをみて、ひょっとすると人とてつもない野球センスがあるのではないかと思った事を覚えている。(私もキャッチボールの時にまねてみたが、取る事は簡単だが、送球へ移る動作がぎこちなくなる)

堀内が高校生の時から野球センスが抜群で、プロに入っていきなり13連勝等のとてつもない偉業をさりげなくやっている事で、彼の凄さが分かる。一方で紳士たれと言われた巨人軍、特に川上監督が堀内を理解出来なかった事も納得出来る。

9連覇の頃は、巨人軍が圧倒的に強いため、その他の球団は親の敵の様に闘志剥き出しで挑んでくるなかで長年エースとして実績を残した堀内の偉大さが、淡々と書かれている。

淡い記憶にある古き良き時代の野球を思い出しながら、読んでいる間中、幸せであった。

作家の海老沢泰久は、昨年亡くなっている。昔、何冊かは読んだ記憶があるのだが、近藤唯之の様な、くさい表現が無くて、それなりの好感を持っていた。スポーツドキュメンタリーは、本の中でも一番大好きなジャンルなのだが、良い作品が余りに少ない。沢木耕太郎のスポーツものはストイック過ぎるし、大好きな山際淳司もちょっと甘ったる過ぎると感じる時がある。

現在、日本でどんなスポーツライターが活躍しているのか疎いのだが、読んでいる間こんなに幸せにしてくれる作家がいる事を望むばかりだ。

Young Guns - A New Generation of Conservative Leaders: Paul Ryan, Eric Cantor, and Kevin McCarthy

2010-10-17 21:28:04 | 書評
共和党の若手指導者3人を Young Gun のエントリー で紹介したが、彼等の共著である "Young Guns - A New Generation of Conservative Leaders を読んだ。

中間選挙に向けた宣伝要素の強い本だと言う認識だったが、全くその通りであった。3人の対談で始まり、それぞれの政治体験やワシントンでの経験、特にオバマ政権発足からの、民主党の横暴について詳しく書いてある。フェアであるのは、共和党の失敗についても素直に反省しており、自分たちの手で共和党そして国を、建国の理念にさかのぼって立て直すという強い決意を表明している。

具体的な政策については、原則論ばかりで詳しく記述されているわけではないので、具体性に欠けている事は否めない。共和党若手保守派に馴染みのない人にとっては取っ付き易く入門書的に読む事が出来るが、多少なりとも政治に興味を持っている人にとっては、完全に物足りない。

それなりの分量のある本であるが、出張の行き帰りの飛行機(正味2時間位)で読めた。英語の速読が急に出来る様になった訳ではなく、内容的に知っている事が多いので、スピードが格段に上がっただけである。自分がアメリカ政治を強い関心を持っている期間と重なっているし、基本的に自分と同じ政治信念がベースになっている事が読書スピードアップに貢献しているのだろう。

まあ、本の内容はどうでも良くて、中間選挙で共和党が下院の過半数を取った場合に、この3人には下馬評通り、いや、それ以上の活躍をしてもらいたいものである。

絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌 10月15日で前半終了

2010-09-27 05:34:49 | 書評
糸井重里の『ほぼ日』で連載されている絆回廊(新宿鮫 X )は、10月15日からの後半開始に伴い、前半のアーカイブが削除され読めなくなる。鮫島ファンの方は今のうちに読んでおく事をお勧めする。

登場人物が出揃い、殺人事件が2件発生、鮫島も狙われたりして、段々と調子が上がりスピード感がでてきた。ここまでの流れからすると、途上人物、特に男は皆死んでしまう様な気がする。どうなる事やら。内容的には、中国からの麻薬ルート、日本のやくざと中国人達(日本国籍であったり、真の中国人)の関係で構成されている。

第2作目の『毒猿』から、日本で跋扈する外国人、密入国者、移民、中国残留孤児の子供等が必ず登場してくる。日本の移民受け入れ問題等が話題になったりするが、新宿界隈では、現実として既に移民が深く日本社会に根差している現状が垣間を垣間見れる。

前半終了の現時点で、最初のエントリーで感じた疑問は少しも解決していない。その上、アーカイブから消してしまう事に何か意味があるのだろうか?最初から計画されていたのか、何らかの事情でアクセス数を増やす為の安っぽいマーケッティングテクニックなのか、全くの謎だ。

将来的には本として出版されると思われるので、小説的には前半終了時点で読めなくする事の意義がどうしても考えつかない。大沢在昌はあくまでもハードボイルド作家なので、後で読み返して、あっと思う様なトリックが隠されている様な事はしないであろう。

小説の出来としては相変わらず水準が高いので楽しみに読んでいる。前半終了時点でそこまでを読めなくするという事で、やや深読みし過ぎている気もするが、ネットでそれも週毎の連載の仕組みとの関連性を思わざるを得ない。

話の展開よりも、そんな事ばっかりが気になるので、早くクライマックスを迎えて欲しい今日この頃だ。


追記(10/1/10)):今週の更新分を読んで、「ロケットおっぱい」晶の事をスッカリ忘れていた事に気が付いた。バンドメンバーへのクスリの嫌疑から家宅捜索という展開になっている。『新宿鮫』(第一作目)で晶が改造拳銃マニアに狙われるというのがクライマックスになっていた事を思い出した。鮫島の上司である桃井課長もこの第一作目で、鮫島の命を救う為に犯人を射殺しているが、この『絆回廊』の重要登場人物との過去の関係も登場して来た。

英語で言う Full Circle の様相を呈してきた。いかにも日本の小説らしく、吉川英治の『宮本武蔵』みたいに、何もかもが関連してきている。(計らずも、登場人物のやくざが「まったく、新宿って街は妙なところだ。いろんなことがあって、ばらばらに飛び散ったもんが、いつのまにかまた集まってきちまうのだからな」と言っているのだが、「新宿」を日本のどの町に置き換えても言える様な気がする。場所だけでなく、日本の真理を言い当てているのではないだろうか)

『絆回廊』で、新宿鮫シリーズが終了するかもと言う予感が強くなった。

陰険な目つきをしたオバマが表紙の2冊

2010-09-13 06:26:36 | 書評
11月2日の中間選挙に向けて、保守系の評論家がオバマ大統領について批判した内容の本を2冊立て続けに読んだ。内容的には、ラジオ、新聞、テレビ等で知っている事が多いので、流し読みであったが、改めてオバマの過去と大統領になってからやらかした事についての復習となった。どちらも陰険な表情のオバマの写真を表紙に使っている。

Crimes Against Liberty: David Limbaugh

筆者はアメリカの保守系のラジオホストとして抜群の人気を誇る Rush Limbaugh の兄である。つい2週刊前にでたばかりであるが、最新の New York Times Best Seller List の Hardcover Nonfiction で第一位となっている。オバマの政策や手法が、いかに議会、選挙民、憲法、企業、産業界、世論に対して、犯罪と呼べる程、姑息であるかを丁寧に分析している。

Culture of Corruption: Michelle Malkin

昨年、出版され同じくベストセラーになった。オリジナルは、シカゴで大統領に選出されるまでの過去を暴いている。今回ペーパーバックとなり、大統領就任以降の分析を追加している。こちらにはシカゴ時代の事が詳細にでているので、ミッシェルの意地汚さや、オバマ政権の首席補佐官、政策アドバイザーの過去についても記述がある。どいつもこいつも、上手く政治システムを利用して、政治的な栄達や、私腹を肥やす様に上手くやっている事がよく分かる。政府のお金を上手く使う、使う。税金の寄生虫のようなものである。

解釈は別にしても、2冊ともオバマ本人の発言を始め、事実はよく調べてある。2冊で過去から現在までを通して見れる事で、オバマのやり口が良く理解出来る。どちらの本もタイミング的に、中間選挙での共和党を援護射撃する形となっている。オバマに反対の立場の人には一読をお勧めする。(オバマに好意的な人は、もとから読む気にならないであろう)但し、購入の必要は感じられず、本屋や空港売店の立ち読みで充分であろう。但し、読み進んでいくうちに、なんでこんな人が大統領なのだろうと暗い気持になるのでご注意を。

アマゾンの書評を見て面白いのは、2冊とも、星の分布が1つ星と5つ星に分離する事である。保守系は絶賛し、リベラルはけちょんけちょんである。但し、リベラルの薄汚いのは、読んでもないのに内容に価値がないという正直というかバカというか、掟破りの書評を書いたりしている。リベラルは保守系を馬鹿にするが、馬鹿を曝け出すのはいつもリベラルという典型であろう。

Justice: Michael J. Sandel 『これから「正義」の話をしよう』

2010-09-05 23:57:23 | 書評
高校や大学での青臭い議論を、適切な具体例を豊富に揃え、大人の知性をまぶしたらこんな本になる。今更(良い年をした大人がという意味で)、こんな事を本質的に考えなければならないのであれば、非常に幸せな人生のまっただ中で、今まで何も真剣に考えた事が無い証拠である。つまり大学生にとっては非常に役に立つが、まともな大人に取っては、何を今更といった類いの本である。(幼稚なマーケティングに乗せられて本を購入した大人な私は、不甲斐なし)

俯瞰的で抜群なのは池田 信夫の書評で、これ以上の事は誰にも書けないだろう。ついでに、彼のブログエントリーで「リバタリアン対コミュニタリアン」「アメリカ現代思想」を読むと、現代の政治思想の背景が体系的に理解出来る。

読む価値があるかと聞かれたら、自分としては「ある」というほか無い。本の内容より、読むまでに予習した事、特に上記の池田信夫を読む事で元が取れている。

個人レベルでは、高尚なよた話の域を出ないものである。しかし、政策決定、代議士選挙、代議士の政治信念の点検という意味では、決して我々の生活と無関係ではないのである。

私の正義 (Justice) の話を2つしよう。非常に個人的であるが、結論は日本人の英知が凝縮されていると思っている。(歪んだ手前味噌な持論肯定ではあるが)

1つは、死刑の問題。私は賛成論者である。殺人罪の罰して死刑はもっと適用されて良いと思っている。精神鑑定で責任能力が問われる事があるが、罪に変わりはないので責任能力は関係無いと考えている。

2つは、自殺幇助に賛成である。本人が明確に死にたいとの意図があれば、合法的に自殺する術はあっても良いのではないかと考えている。

日本では先進国の例に習ってという場合が多いが、死刑は先進国で廃止、中国でさえ廃止議論が出くらい反対の方法へ進んでいる。一方で自殺幇助については、北欧(確かノルウェー)では合法、アメリカもオレゴン州では認められている。つまり、歴史や文化の違う他の国には答えは無いのである。

これらの考え方の根底には、経済合理性や潔い生死観有り、社会秩序や後世への負担を軽減する知恵があると思う。正しい答えは無いと思うが、政治が判断しなければならない時に、薄っぺらな人権擁護的な議論や判断先送り的な政策については、批判的でなくてはならない。そうでなければ、死に対する究極の判断が、他人の手で決定される日が来る事を覚悟しておいた方が良い。そしてその決定は、安上がりである死を常に指向するものである事も。

僕のアメリカ青春3部作

2010-08-19 03:21:49 | 書評
何でも見てやろう小田 実

なぜ、アメリカに来たかったのか、これだという決定的なものは無いのだが、本からの影響という意味では、これが一番であろう。1950年代のフルブライトでのハーバード留学の事を書いた本である。高校三年生の時に読んで、大学の時に、そのうちアメリカ留学でもして物書きにでもなるかと、人生を踏み誤る将来設計を描く事になる原因となった。(その将来設計は狂い、人生も誤った。)

浪人中に代々木ゼミで本人の英語講座も受講した事があるのであるが、有名人に弱い体質ながら、余り興奮した記憶が無い。その頃は時代遅れの活動家という感じであり、ただのむさ苦しい中年おやじと80年代初期の雰囲気が、既にマッチしなくなっていたのであろう。

今でも覚えているのは、帰国前に全米バス旅行するのであるが、アメリカ南部の片田舎のトイレでも熱いお湯が直ぐに出る事に感動した場面である。私はてっきり、アメリカという国は、お湯の水道網が上水道の様に張り巡らされているものだと勝手に思い込んでいた。ああ恥ずかしい。


シスコで語ろう高橋 三千綱

これも留学記であるが、内容は全く記憶にない。私が大学生の頃は売れっ子作家になっていたと思う。留学記でデビューしているのに、その事とは全く関係なく活動している所に潔さを感じた覚えがある。

著作が映画化されたりしたりして、ルックスが良い事もありカッコ良いと言う印象がある。最近(といっても10年位前だが)は、ゴルフ雑誌にエッセイを連載しているのを時々読んだりしたが、年寄りゴルファーの事を書いても甘ったるいので、そう言う作風だったのだと妙な納得をした。


ストロベリーロード石川 好

アメリカに来てから読んだので、自分の人生にインパクトは無かったのであるが、作品としては一番面白かった。確か映画にもなったと思うのだが、一読の価値あり。ずっと中西部に住んでいるので、カリフォーニ(確か作品の中ではこう発音していた)での生活はイメージ出来なかったが、ロス郊外に長く住んでいる知人は、絶賛していた。

その後、アメリカ専門(?)の評論家になり、それなりにユニークな活動(参議院に立候補したり)をしていたが、インパクトは乏しかった。


3作とも、60年代(小田実はに至っては50年代か?)のアメリカの話であり、当時でも時代遅れの情報を有り難く読んでいた事に、改めて唖然とする。留学記が出版される事など、今では考えられない。書く気のある人はブログでもやっているだろう。

アメリカ絡みの物書き商売としては、副島隆彦などが活躍する今日この頃なので、憧れの地アメリカのロマンの香りを放つ本は、絶滅した。僕が読んだ頃に本当は死滅していた事を、正しく認識しておくべきであった。

懐古趣味的、僕のアメリカ青春3部作でした。

Never miss an opportunity to be fabulous

2010-08-14 12:51:03 | 書評
"What I Wish I Knew Whn I Was 20"(日本訳は『20歳の時に知っておきたかったこと』)の書評なのであるが、エッセンスは、終わりの方の章に出てくる"Never miss an opportunity to be fabulous."に詰まっていると思う。敢えてへたくそな訳をつけるとすれば、「自分の輝けるチャンスを見逃すな!」

先週の休暇に5冊も6冊も本を持参したが、結局は、この本の出だしの数章を読んだだけであった。書評などで良く取り上げられている、スタンフォード大学の講義である「Five-Dollar Challenge: 5ドルと2時間でいくら儲ける事が出来るか」の導入は、面白いのだが、ただそれだけである。

自己啓発本として読む傾向がある様だが、取り上げら得る例などは玉石混交なので、良い話に感動して、読んで満足という事になりかねない。20歳の若者には非常にエキサイティングな内容で有ろうが、私くらいの年代(40代後半)になると、現象としては現代風に焼き直してあるが、根底に有る原理は、どこかで見聞したものばかり平凡であった。

が、"Never miss an opportunity to be fabulous."を目にした瞬間に、本全体が浮き立ってきた様な感覚があった。

人は自分で納得の出来る輝く瞬間を多く経験したいが為に、才能を見出し、努力するのである。運命論的ではあるが、全ての人にチャンスは訪れるのである。それを信じればこそ、頑張れるのである。なによりも肝心なのが訪れたチャンスを逃さない事になるのである。この事を意識出来れば、途端に年齢は関係なくなる。この程度の本(良い本だが)で、心が奮い立ち頑張ろ気持になるのが大切なのである。

自分の子供が20歳になる時にプレゼントしてあげたい本であるし、自分の行動が少しでも本の内容と重なると思い当たってくれれば、下手な説教よりよっぽど役に立つであろう。

内容とはややかけ離れた所で、自分なりに大きな意義の有る珍しい本であった。額面通り読んでも面白いので推薦します。

How Evil Works: David Kupelian

2010-07-26 10:06:31 | 書評
『How Evil Works』は、今年4月に購入した中の一冊である。しばらく積んであり、再来週のバケーションで読もうと考えていたのだが、先週性懲りも無く、バケーション用にアマゾンで英語の本を6冊も購入してしまったので、未読の中では一番気になっていたこの本を、昨日の出張に持参し、結局、アトランタ空港のターミナルで深夜に読む羽目となった。

状況的にも、内容的にも重苦しい物があり、辛い読書となったが、アメリカの社会状況や、政治状況を理解するのに少しは役に立った。著者は、保守系の敬虔なクリスチャンなので、アメリカが、建国理念の基礎であるキリスト教(ジュデオークリスチャニティー(judeo-christian))の教義から離れていったことで、Evil (邪悪さ)が様々な形で政治を含めアメリカ社会を蝕んでいると分析し、宗教心からもっとも離れた所にあるリベラルの意識が社会全般に広く悪影響を与えていると主張している。

健康保険改革法案を追っているうちに、自分なりの結論としてだした『神なき国アメリカ』と通じるものがある。

書評などでは、前作の『The Marketing of Evil』の方が高い。(まだ、読んでいない)内容的には同じ事と思われる。『How Evil Works』は、オバマ大統領の就任後に出版されている事もあり、政治の分析では、オバマ批判で具体的になっていて納得する事が多いのだが、その他の社会分析は、内容にムラがある。全体として、キリスト教を宣伝するイメージになっており、前作に比べて希薄になっている感じが否めない。

ヒットラーを Evil では無く、Devil と呼んでも憤る人は少ないと思うし、むしろ賛同する人が多いと思うが、ヒットラーの世論操作の方法論の分析や『我が闘争』の内容と、オバマのやり方と非常に似通っている。その手法とは、世論が冷静になるヒマを与えず、自分が悪いと認めたり誤る事を決してせず、妥協案は絶対に受け入れず、批判を受け付けず、絶え間なく都度都度の敵を作り上げ、悪い事全て敵のせいにする。こうやって大きな嘘をつき続けると、そのうち人々はこの大きな嘘を信じる様になるというものである。

極論すれば、独裁者としての手法、メンタリティーは同じで、アメリカの政治システムがオバマの暴走を食い止めているだけとも言えるのである。オバマは建国の父達が作り上げた憲法を基本とする政治システムが自分の理念を妨害する事をハッキリ認識しており、これさえも迂回したり、破壊しようとさえしている。(行政権の拡大行使、法廷での闘争)もし、オバマがヒットラーと同じ権力を持てば、ヒットラーがした様な事、それ以上の酷い事をしない保証はどこにも無いのである。(ヒットラーも民主的な手続きで選出されているのだ)

不意に映画「オーメン」を思い出した。オカルト映画が嫌いな私はこのシリーズをキチンとみた事はないのであるが、第3作は、悪魔の子ダミアンが大統領になり世界を支配しようとするプロットだったと記憶している。(最後は、神の子に殺される)オバマにチョビ髭をつけたポスターやダミアンへの投影は、保守系の人々でさえ眉をひそめるのであるが、私はある種の真実が含まれている気がする。

オバマ自身にヒットラー体質は間違いなくある。但し、悪魔では絶対にない。悪魔がこんなに間抜けな訳がない。

四千万歩の男:井上ひさし

2010-04-13 00:25:07 | 書評
演劇に興味が無いので、井上ひさしが亡くなった事の感慨は、それほどでもない。しかし、なぜか『四千万歩の男』を所有しているので、それなりの思い入れはある。

井上ひさしの著作は、大学時代に友達に家にあった『吉里吉里人』しか読んだ事が無いにもかかわらず、『四千万歩の男』を購入した理由は、単に大日本沿海輿地全図を作った伊能忠敬が主人公だったという一点に尽きる。Google Map 等、ネットでの地図には一つも興味ないのだが、紙の地図には大変興味があり、カジュアルな「地図フェチ」(形容矛盾?)としては、新刊で5冊の大作を見逃す訳にはいかなかった。(という事だったと思う。)

内容は、全く覚えていないのでもう一度楽しめるのだが、私の中では小林信彦の『ちはやふる奥の細道』とゴッチャになっており、伊能忠敬が幕府の隠密という設定と勘違いして記憶していた。(小林信彦は、私の好きな作家の一人である。『ちはやふる奥の細道』は名作だと思います。(所有していない))

で、『四千万歩の男』であるが、自分が面白かったとは、全く別の思い出がある。家内は、読書は余りせず、読む本も私の趣味とは全然違うのだが、たった一回だけ(十年以上の結婚生活で、本当にたった一回)、私に面白い本は無いかと聞いた事があり、その時推薦したのが『四千万歩の男』であった。その上、推薦した私に対して、「こんな面白い本をいつも勝手に一人で読んでいる」となじったのである。そうやってなじった挙げ句、第一巻しか読まず、結局完読していない怠慢振りも発揮するという、思い出深い本であった。

文豪(井上ひさしには相応しくないが)亡くなると、彼等の脳に詰まっているものが、永久に失われる喪失感にいつも襲われるが、今回もそんな気持になった。新刊で5冊の大作『四千万歩の男』ではあるが、未だ構想の七分の一しか書いていないと告白してあり、その後、続編が出てもいないので、本当に永遠の未完となってしまった。

まえがきとあとがきに、50歳で隠居した後、星学暦学を勉強しに本地図を完成させた伊能忠敬を人生の達人と認識している。そして、現代では、定年後(当時は55歳)20年も30年も生きるので、みんなが人生の達人にならなければならない過酷な運命になったと考えた事が、決定的な動機となっている。慧眼である。

伊能忠敬は商売で成功しており、ある種の艶福家でもあるのだが,老いの問題もあるので、日常を書き込む事で第二の人生をどのように生きるかを示そうという思いがあるそうだ。この辺は、遅筆堂の評判通り、手法というよりスタイルだと思うが、書く込む事で、情報が重厚になって読み応えがある。

ざっとページをめくってみると、江戸後期の経済、政治、文化だけでなく、日本で独自に進化した和算の事も当然でてくるし、数学音痴の私にとっては、非常に刺激的な読み物になっている。

数ヶ月前に『菜の花の沖』を読んだ事もあり、少しだけ幕府末期の北海道にも詳しくなったので、残りの七分の六に思いを馳せながら、読み返してみようと思う。

MACROECONOMICS: N. Gregory Mankiw

2010-04-09 19:01:29 | 書評
最近買った本で紹介した"MACROECONOMICS"を、出張中の飛行機のなかで読んだ。まあ、一時間半位だったので、読んだと言うより、全ページをめくったと言う感じだ。

私の経済学の知識は、MBA で、この本のが対象としているレベル(Intermediate-level)を取った事があるくらいで、後は下手の横好きで経済関係の本を何の脈略もなく読むくらいだ。

結論を言うと、教科書としても、私レベルの参考書として非常に良く出来た本だと思う。経済と政策の関連性、つまりマクロ経済学の本質が簡潔にまとめられている。(教科書なので、じっくり書き込んであるのだが、全体像としては簡潔な印象。)

一番の特徴は、あとがきとして、マクロ経済学がこれまで明らかにしてきた4大重要点、これから解決していかなければならない4大問題点を列挙している事だ。教科書としては珍しいと思う。著者の心意気であろう。

The Four Most Importnat Lessons of Macroeconomics

1.長期では、一国の材とサービスを供給出来る量が、その国民の生活レベルを決める
2.短期では、一国の総需要が材とサービスの供給量に影響を与える
3.長期では、通貨供給量がインフレ率を決めるが、失業率には影響を与えない。
4.短期では、金融と財政をコントロールできる政策実行者が、インフレと失業率のバランスをとる必要がある

The Four Most Important Unresolved Questions of Macroeconomics

1.政策実行者がどのように、国力を活かす経済成長策をとれるか?
2.経済実行者は経済の安定化を試みるべきか?
3.インフレの影響とは、又、インフレを抑制する事の影響とは?
4.財政赤字の問題の大きさとは?

つまり、マクロ経済学は、政策を立案、実行するためにあるのである。と言っているのである。極めてシンプルである。全ての政治家に、最低このくらいの経済学の知識は持っていて欲しい。

ケーススタディーとして、日本とドイツの第二次世界大戦後の経済成長の分析があった。ソローモデル(Solow Model)を使っての説明だが、これほどシンプルで的確な日本の高度経済成長の分析に初めてお目にかかった。(知らないのは私だけ?現在、高度経済成長のことを調べているので、まとまりのない考えに芯が出来て、非常に役に立った。)

全くマクロ経済学の下地がない人にとっては、じっくり勉強出来る教科書であるし、ある程度の知識があれば、一気に通読して復習する事が出来、参考書として活用出来る。

重い、立派な本なので、出張に持っていくのは迷ったのだが、一時間半という制約の中で、一気に全体を眺める事が出来てラッキーであった。そうでもしなければ、何年も手付かずで埃を被っていたような気がする。

アメリカ版は、$130もしたが、国際版(英語)は8,000円位で日本のアマゾンで売っている。最新版は Seventh Edition なので、それだけ間違えないようにしての購入をお勧めする。

最近、買った本

2010-04-02 14:44:02 | 書評
今週、アマゾン(勿論、アメリカの)に注文していた本が届いた。これから読む本の棚は、又,増殖中だ。

たとえ、積ん読でも、「本を購入する事で、内容の80%は理解している事になる」の言葉を信じている。(小説には当てはまらないと思うけど)これは、本を購入する行為は、その内容を有る程度把握した上で、興味があるという事なので、本そのものを読む以外でも、新聞、テレビ、会話等、メディアや人間関係の中で、関連事項を吸収していくという事だそうだ。これは絶対に(希望的に?)真理だと思う。

最近買った本の紹介です。そのうち、書評出来る様努力します。

では、今週届いた本から。

MACROECONOMICS
池田信夫のブログを始め、あちこちで評判が良いので、奮発した。リーマンショック後に出版された事もポイントが高い。常に経済学には片思いだ。

RULES FOR RADICALS
活動家のバイブルとも呼ばれている本で、オバマも活動家のときに傾倒していたらしい。オバマ政権のやり方を知る上で参考になると考えた。

HOW EVIL WORKS
『RULES FOR RADICALS』と表裏一体の本。活動家は、得てして、企業などを悪者扱い (Demonize) にして自分たちの考え方、行動を正統化しようとするが、その方法論と対処の仕方が書いてあるようだ。

この2冊は、対オバマ政権用だ。(ちょっと大きく出てしまった)

THE SHACKLED CONTINENT
日本訳の書評で興味を持った本。アメリカがダメならアフリカがあるさ。帰るところが無い身としては流れていくしか無いのだが、最後の流刑地(?)アフリカの事をあまりに知らなさすぎるので、先ず一冊。

ENOUGH
これもアフリカ関係。なぜか WSJ に頻繁に書籍宣伝として出ていて、『The Shackled Continent』等よりずっと以前から気になっていた。特に農業関係には興味がある。サブタイトルとして、世界中で充分食料が足りているとあり、全世界、特にアフリカの食料危機が叫ばれているだけに気になっていた。ところで WSJ で書籍宣伝された本を何冊が勝って読んだが、ここまでは全部ハズレ。この本にはその流れを断ち切る期待している。


昨年のクリスマス頃から、溜め込んでいる本。

AMERICA FOR SALE
『Obama Nation』の著者でもあるので、対オバマ政権本の流れでもあるのだが、莫大な対外債務を抱えたアメリカの問題を理解するため。

THE HOUSING BOOM AND BUST
アメリカの住宅バブルを理解したくて購入。著者の Thomas Sowell は、有名な経済学者で、コラムニストとしても活躍している。いろんな分野の経済的考察をしており、その他の著作にも興味あり。この辺は経済学、下手の横好き系の嗜好だ。(既に改訂版も出ている)

END THE FED
先ずは、FED の始まりから勉強しようと思って 『The Creature from Jekyll Island』を読もうと思ったのだが、たまたま品切れで、FED の廃止を訴えるこの本を購入。FED の事、現時点でさっぱりわかっていません。(それでも普通に話題にしているのは、無鉄砲ですが、皆同じ様なものですよね?)

DIPLOMACY
『同盟漂流』を読んだりして沖縄問題を考えてた時に、外交と何ぞやと思い始め、これも確か日本訳の書評を読んで、思わず購入。内容が濃いだろうとの予想はしていたもののベーパーバックになっているにも拘らず、圧倒的な分量にノックアウト状態。完読はライフワークになりそうだ。

こうやって紹介しながらも、既に80%理解した気になっている。

因に、『BREAKTHROUGH RAPID READING』も持っている。内容は80%理解していると思うが、スキルを身につけないと意味が無い。(速読の本は、10年に一冊くらいのペースで買っている気がする。)

頑張るぞ!!

絆回廊(新宿鮫 X ):大沢 在昌

2010-03-20 06:08:51 | 書評
絆回廊(新宿鮫 X )は、糸井重里の『ほぼ日』で連載が始まっている。毎週金曜日更新で、今週で第五回目だが、何回まで続くのだろう。

連載開始前の大沢、糸井対談は、面白いのだが、大沢在昌はひょっとして限界を感じているか、新宿鮫をぼちぼち終わりにしようと思っている印象を受けた。

ここまでの新宿鮫9作は、多分全部読んでいると思う。単行本だったり、ノベルスだったり、新刊だったり、人に貸したりで、全部揃えて持っていない。(特に確認はしていない)1作目は、売れる理由は分かった様な気がしたが、登場人物が上手く書けているのに、密造拳銃の描写が拙な過ぎたイメージがある。(これはアメリカにいて銃に対する体感温度(?)が違うからだと思っている)

初めて読んだ時は既に大ブレークしていたが、新宿鮫を読むキッカケは、シカゴで大沢在昌の講演会(90年代後半?)で話を聞いた事だ。この講演会、今考えると豪華であった。大沢在昌と伊集院静の講演会であった。どちらかと言うと伊集院静目当てで行った覚えがある。なにせ、松田聖子やユーミンのコンサート演出をし、故夏目雅子の夫であったし、篠ひろ子の旦那である。(実は、未だに著作を読んだ事がない。全く関係無いが大学の先輩でもある。)

だが、講演は、大沢在昌の話の方が面白くて、これが読むキッカケになった。完全にネタになっている永久初版作家の話もその時聞いた。うだつの上がらない時代が続いて、乾坤一擲の思いで書いた『氷の森』もやっぱり売れず、ほうけた状態で新宿鮫を書いたら、当たったとの事であった。律儀な私は、本人が永久初版作家の汚名を雪ぐため全力を投入して書き上げた『氷の森』もキチンと読んだ。(日本出張の時にわざわざ探して購入)力作ではあるが、これはこれで売れないという事が良く分かる作品であった。(新装版で復活したりしている。勝てば官軍、新装版?)

作家の事務所の事も、このとき聞いたと思う。所属の宮部みゆきや京極夏彦も、その後結構読んだのも因縁(怨念ではない)を感じる。

新宿鮫シリーズであるが、登場人物も分かっているし、レベルは高いし、日本の知らない情報というか雰囲気も入手出来るし、いろんな意味で安心して読める。だからといって、特に思い入れの有る作品がある訳ではないし、読み返す気も余り無い。

で、今回のウェブ連載であるが、ファン層を増やす意図もあるそうだ。『ほぼ日』の中心読者の30代女性を狙っているとの事だ。(私の印象と違って、新宿鮫フランチャイズはまだまだ続くのか?)今後の30代女性を引き付ける展開になるのかわからないが、出だしとしてはハードボイルドの香りプンプンなので、順調な(?)滑り出しと言えるだろう。

連載されているので読み続けると思うのだが、ウェブ連載の意義が見つけられない。やっぱり本の方が良い。1-2時間、自由に幸せな読書をさせてくれる新宿鮫の方が、何倍も良い。まあ、最終結論は連載終了まで保留しておこう。

人は生きる為に書き、飲む為に宣伝する

2010-03-16 01:40:17 | 書評
契約書は交わしてないのですが、日本での飲み代がかかっておりますので、今回は本の宣伝を。

『「耳の不調」が脳までダメにする』:中川 雅文

Drなかがわ(そのままですけど)として、コメントしていただいている中川先生の本です。横浜で擦れ違い、シカゴで巡り会って、話してみたら高校の同窓生だったという作り話のような関係です。因にその高校とは、宇和島東高等学校です。(公式ホームページはこちら)

同窓生のなかには、世界の中心で愛をさけんだり、大リーグで活躍する選手もいるのですが、私は、全く関係ありません。但し、中川先生は出身有名人リスト入り直前と認識しております。尚、耳鼻科系が話題の時の『ためしてガッテン』でご勇姿を拝めたりできます。

我流ゴルフ理論の医学的根拠を示していただいたりして感謝する一方、先生の威厳は大丈夫なのかと要らぬ心配をしたりしております。

私の様な能天気でも、年のせいか時々耳鳴りがする時があるので、症状のある方は、脳に到達する前に是非読んでみて下さい。(私は読んだ事ありません。中川先生、返す返すも申し訳ございません。)


『小学生のための会話練習ワーク』:森 篤嗣 牛頭 哲宏 共著

サンパウロ工科大学卒業の友人、ゴズベロチーノ・テッチーノは、なぜか地元で牛頭 哲宏という名前で小学校の教師をしております。(インサイドジョークです。気にしないで下さい)

中学校からの友達で、大学は別でしたが、東京でも良く一緒に遊んでました。奥さんとも大学時代からの知り合いで、会う事は少ないのですが、私と家族にとっては、一番気心の知れた友人、家族です。

教員になってから国語教育の大学院に派遣されたりして、ずっと国語教育に熱心に取り組んでいます。そんな彼が、共著とはいえ初出版の運びとなりました。アマゾンの説明によると「日本語を母語としない子どもたちへの補習授業にも使うことができますし、内容によっては成人に対する日本語教育でも使うことができます」とのことなので、我家の必需品ではないかと思っております。(サイン入り謹呈本、お待ちしております)

ルポ貧困大国アメリカ II:堤 未果

2010-03-15 11:16:28 | 書評
先週、シカゴに出張したおり三省堂書店で『ルポ貧困大国アメリカII』を購入。実は『ルポ貧困大国アメリカ』、と間違って購入という間抜けぶりだ。(帯で、II が隠れていた)オリジナルの方はベストセラーなので、あちこちで目にしていたので気になっていた。時間がなかったので購入を決意。ちょいと見で内容が随分新しいとは思ったが、急いでたのでやってしまった。それはそれでありだろう。このIIも結構売れているようだ。

読後の第一印象は、全く同じ手法で『ルポそれでも経済大国アメリカ』を書けるのではないかという事だ。つまり、内容的には良くまとまっており、取材もしっかりされているが、バランスが悪いのである。(タイトル自体が、貧困大国なので当たり前ではあるが)

学生ローン、年金崩壊、医療保険問題、受刑者問題と個人レベルでの貧困問題に付いて良く調べてある。上手く書いてもあるので、短時間で読める。でも、それだけだ。

取材期間が、オバマ大統領就任から、結局何も変わらなかった昨年暮れまでなので、政治への虚無感を強く滲ませている。(なかなかオバマ大統領が悪いとは書けないようだ)

堤 未果は、アメリカでジャーナリズムを勉強のの影響か、この本も翻訳本かと思える様な書きぶりでした。(まさか、個人へのインタビューがどこかのからの引用では無いと思うが)

あとがきの最後に妙な希望を述べて終わっているのが、ジャーナリストから活動家への兆しと思うのは、考え過ぎか?

読む価値については微妙。結構すいすい読めるので、立ち読み45分で如何でしょうか。

やっぱり、オリジナルの方も読んでみたいと思わせる一冊であった。

日本の税抜き定価の720円、シカゴ三省堂書店で $11.88 ($10.80+Tax(10%) $1.08)。

Free: Chris Anderson

2010-02-28 09:59:53 | 書評
Free は、The Long Tail を書いた Chris Anderson の第2弾である。(日本語版は、フリーロングテール

The Long Tail を読んでない身としては偉そうな事は言えないが、間違いなくThe Long Tail の方が画期的な著作であると思われる。デジタルコンテンツは、倉庫スペースが無尽蔵でほぼコストがゼロになった事で、在庫をいつまでも持つ事が可能となり、特にニッチマーケットで末永いビジネス(The Long Tail)が可能になったという内容である。Free では、コストがゼロになる事を分析し、ビジネスモデルや社会的インパクトについて書いてある。

しかし、この本、面白くないのである。一月前に購入して、就寝前に読もうと努力したが一向に進まないのである。先週の出張の折に持参して、飛行機の中で無理矢理読了した。手際良くまとまっているとは思うが、インパクトが無いのである。

「フリー」は、基本的に IT 関係のものが圧倒的なのであるが、デジタル関係の技術革新が著しく、特に流通(アクセス)、在庫(データ保存)のコストが限りなくゼロに近づいている状況が大きい。

それでも最終的に採算が合わなくてはならないので、「フリー」とそれを支えるビジネスモデルという事になる。著者は大きく3つのモデルに分類している。

1. Direct Cross-Subsidies 何かが有料だと、それと直接関係するものがフリー。(例:通話料とフリーの携帯電話)

2. Three-Party, or "Two-sided" markets 種類の違う顧客の一方を有料に、片方をフリーにする。(例:ブログの広告主と使用者)

3. Freemium 一部の顧客は有料で、その他はフリー。(例:ブログのプレミアムメンバーとプリーメンバー)

ビジネスモデルとして考える限りは、プロモーションの一形態としか考えられず、目新しい事は無いのである。

一方で、インターネットの恩恵が一番あると考えられてた活字メディアは、危機的状況にある。アメリカでは新聞社は新聞を発行する事では、ほぼビジネスとして成り立たなくなってきた。フリーで情報を提供しているうちに媒体の本質的変化が起こり、採算の取れるビジネスモデルの確立が出来ていない。出版業界は、自分で eBook リーダーを開発しない(出来ない)こともあり、小売りを含めた流通の将来は暗いが、コンテンツに集中する事で転換を図りつつある。(私自身は紙媒体の存続については楽観的)

尚、個人レベルでのフリー、自己満足系の話も出ているが、個人的にはウィキペディアの投稿者減少に見られる様に、継続的な情報インフラとしては、成り立たないのではないかと思う。自己満足を求める人のねずみ講なので、いつか終わりは必ず来る。

私のような門外漢にとっては、インターネットを中心とした世界で何が起きているのかを系統的に理解出来たので役に立った。しかし、物理的に存在する商品を扱っている者としては、フリーを支えるビジネスモデルの応用を、と思うのだが、無理だろうなー。