前回「ゲノム編集」について書きましたが、すでにこの技術が「ふぐ」の品種改良に応用され、ふっくら筋肉質の「ふぐ」が作られ、育てられています。ちなみにふぐの遺伝子は全部解読されています。
ところでこれは遺伝子組換え動物なのか、という問題ですが、この筋肉質の「ふぐ」は遺伝子組み換え動物ではありません。
遺伝子組み換え生物の定義は、本来その生物種が自然界では持ち得ない他生物の遺伝子を遺伝子組み換え技術で組み込んだ生物のことです。
例えばサンマの遺伝子をもった「ふぐ」であれば、遺伝子組み換え生物です。良くあるのは除草剤耐性遺伝子を組み込んだ大豆やとうもろこし。本来の大豆やおうもろこしにはない遺伝子を持っているため、安全性を含め、詳細な検査が必要となっています。
現在のところアレルギー等の安全性試験がなされていて、一応安全である、ということになっていますが、直観的には、やはり自然界に存在しない生物を口にするのには気分のいいものではありません。
大豆にしろとうもろこしにしろ、消化によってタンパク質もアミノ酸、またはペプチドに分解されたものを吸収しているので、大きな影響があるとは思えません。ただ、自然界に存在しないアミノ酸配列のペプチドができている可能性もあります。それが強烈なアレルゲンになる可能性も無いとは言えません。
また、タンパク質をコードしていない調節領域が他生物の遺伝子で、コーディング領域は同じ生物の少し変異のあるものを使う、という場合もあります。これもタンパク質産物は同じ生物のタンパク質ではあっても他生物の遺伝子がゲノムに入っていることから遺伝子組み換え生物といえます。タンパク質としては同じなのだから問題ないか、といえば、そうではありません。
自然界には存在しないと考えられる(あるかもしれないが)遺伝子配列が、ゲノムに人為的に組み込まれているのです。その細胞がそれこそ話題のオートファジーを起すなり、あるいは食物として摂取され、ゲノムが消化されDNA断片となって吸収された場合、アレルゲンになる可能性があるのです。
多細胞生物の免疫系は複雑なので、配列だけでアレルゲンになるかどうか予想はできますが、確定はできないのです。
つまり、自然界に普通に存在しないDNA配列やタンパク質は安全性試験をパスした、といってもなお心配が残るのです。そして、現在の遺伝子組み換え生物を作成する技術は殆どの場合、ゲノムの中に外来性遺伝子断片を残すことになってしまいます。あとからCre-loxシステムなどを使って抜き取ったとしてもその後にはloxP配列がなお残ります。これもごく小さな断片ですが、これはもともと組み替え酵素に認識される配列であるため、もしかしたら必要の無い遺伝子組み換えを誘引するかもしれません。
ところが「ゲノム編集」技術とはこのような外来性遺伝子断片を残すこと無く、ゲノム上の遺伝子配列をピンポイントで変えることができる技術です。
こうなりますと、組み替え技術を用いた、とはいっても、最終的な生物は元の生物の遺伝子しかゲノムに持たないため、もはや遺伝子組み換え生物にはなりません。つまり、自然界で起こる自然突然変異体を人工的につくり出している、と言ってよいでしょう。
上で書いた筋肉質の「ふぐ」も普通にもっている二つの遺伝子が働かないように遺伝子を書き換えた、とのことです。ただし、この遺伝子を書き換えた部分が断片としてアレルゲンにならないかどうかは未知です。非常に低い確率ではありますが、理論的にはあり得ることです。
が、ともあれゲノム的には「ふぐ」です。美味しく頂けることでしょう。(続く)