早稲田大学の「大学院先進理工研究科における博士位論文関す調査委員会 」の報告書全文(82頁)を読ませていただきました。
32頁から始まる「第2章 調査結果、II. 本件博士論文の作成過程における問題点の検証、2. 本委員会による認定の補足 (1) 本件博士論文の元となった実験の実在性について」の部分が科学的には最も重要な部分なのですが、そこには延々たる黒塗り部分があり、殆ど報告書としての意味をなしていません。とりわけハーバード大学への取材部分は関係者の証言が殆ど黒塗りで全く分からないことになっています。
このような報告書を公開して頂いても「本件博士論文の元となった実験の実在性について」何も分かりません。もっともこれは早稲田大学への報告書であるため、われわれに分からない報告書であっても構わないものなのです。しかし公開したにもかかわらず、この報告書でもっとも重要な当該箇所を黒塗りにするとは、早稲田大学は外部委員会にこのようなきちんとした報告書を出してもらいました、と示しているに過ぎません。いわゆるアリバイ工作のようなものでしょう。その内容に関して、適切であるかどうかを世間の人々に公開し、判断して頂くものではないと考えざるを得ません。
報告書は多くの関係者への取材がなされており、もしも黒塗り部分がなかったら有意義なものであろうと考えられるため大変残念です。今後早稲田大学がこの報告書に基づき、どのような判断を下すのか注目されるところですが、O氏の学位の問題のみならず、博士論文審査に関わる制度の整備についても改善されることが強くのぞまれます。現在の体制では、到底まともな審査とはいい難く、早稲田大学の当該学部学科の博士号は博士号として通用しないものと看做されましょう。
折から東京大学の加藤研究室における不正事件に関する報告書、「分子細胞生物学研究所・旧加藤研究室における論文不正に関する 調査報告(第一次)」が昨日公表されました。こちらは7頁という短いものではありますが、論旨は明快であり、その主張するところも納得できるものです。また、委員会の構成員全員の氏名もあり、黒塗り部分などはありません。
加藤氏は名誉毀損での訴えも辞さないとのことですが、関係者4人は法廷で堂々とやり合ったらよいと思います。研究室運営の何が問題であったのかが明らかになることは今後の日本の研究組織にとって有益です。
O氏の問題については色々なところで議論が盛んになされていますが、これも大変よいことだと思います。問題が明らかになることが最も大事な第一歩であるからです。今後も引き続きこの問題についてフォローして行きます。