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便乗値上げを「不当」と思う気持ち

やっと横浜線が動いた。栃木県・群馬県・千葉県のローカル線と同等扱いであることもわかってしまった。とほほ。初めて2chっていうやつにアクセスした、中の人が居るかなと思って。

 

前エントリーで非常時の便乗値上げは悪くないのではないかと述べた。3/11夕方、コストを掛けてでも居酒屋を開けて帰宅難民にそのコスト分乗っける「便乗値上げ」を実施したほうが双方が喜ぶのではないかということだ。交通難民と化したシフト員・非シフト員にタクシー代を払ってでも出勤してもらう(非シフト員だけでなく従業員全員にニンジンが必要であろう)、寒さしのぎの顧客は回転率(注文数)が低いのでその分の値上げをしないと経営的に損である。非常時に店を開けるのは高コストだから、便乗値上げを認めないと従前の市価でのモノ・サービスの提供ではなく、「閉店」なのだというのが前エントリーの骨子。

そのエントリーにコメントを頂いたのだが、私は「便乗値上げ」でも非道い表現だと思っていたのである上、再三コストの話をしたのであるが、コメント氏は「不当に高い値段」という表現をなされていた。

 

そうか「不当」がキーワードなのであろう。辞書で確認すると該当部分は「正当・適当でないこと、道理に合わないこと。また、そのさま。」とある。

 

阪神淡路大震災でダイエーの中内氏が陣頭指揮をとって本店で「コスト度外視で」物資を供給したのは伝説であろう。企業はある意味社会公器で、うそ臭い企業理念を掲げる企業は発展できないとされている。米ウォルマートなどは「地域最安値で商品を提供する」というもの、値段は地域最低で利益は後から考えるそうだ。まぁどちらもある意味マジキチだ。そうでない薄っぺらい企業理念は直ぐに従業員に伝達し、顧客に伝達するのでマジキチでも企業理念の徹底は大事だということであろう。

このダイエーのエピソードは非常時に平価で商品を供給するのは非常に高コストだということだ。なので非常時にモノ・サービス(以下商品と記述)を適正な利益を乗せて提供するとどうしても値上げせざるを得ない。なのでその便乗度によるのであろうが、非常時の便乗値上げはとても不当には該当しないと思われる。

 

本来、その状況でモノ・サービスが必要かどうかで値段が決まるはずである、その業者が損をしているか得をしているかは究極的には関係ないはずである。しかし一般的な日本人消費者はその構造を気にするけどよく知らない、なので分かり易い値上げは受け入れるけど理解できない値上げは受け入れない、が大変さ(=コスト)はお金に反映しない。例えば富士山の山頂の飲料の値段は受け入れる、石油の値段が上がればガソリンの値上げは受け入れる、雪の日にタクシーに乗れば運転手を気遣う(けどチップを払うわけではない)という具合。一方で観光地価格や旅行の年末年始・GW価格は気持ちよく払う感じではない、不当だと思っているのだ、まだこれらは浸透しているので不当とまでは思っていないかもしれない。
富士山の山頂への輸送費や原料費の高騰など分かり易い値上げは受け入れる。そうでないまたは頭ではわかるけど同じ商品が時期が違うだけで値段が違うというのはなんか不当に近い感じを受けるらしい。
この意識は僕も認知している。例えばキーエンスは営業利益率が50%と聞くと「儲けすぎだろ」と忌避したくなる、本来はモノ・サービスの良さと値段で決めるべきはずが全く関係ない要素が頭をよぎる(=利益率が低い企業を応援したくなる)。一方で収益に困難な企業同士での価格競争も行う。

 

不当という概念に「他人が儲けたら不当」という感情が根底にあるのではないか。原材料が上がった分の価格転嫁は「原材料分だけ(そんなわけないのだが)」で、品薄による価格高騰は不当だと。アイデアや付加価値は関係ないので原材料比率が心配で、加工費等の付加価値は不当な利益だと。いや付加価値は利益ではないんですけど、、、というような論理は通用しないわけだ。

 

多分だけど、コスト構造が理解されやすい商品は受け入れるけれど、そうでない価格硬直性が高い加工食品や公共サービスの便乗値上げには、その値上げを「不当な利益」と感じるのではないかと思う。市場ということを考えたとき物価が状況によって変わらないのは異常である、がその価格弾力性を最低価格と最高価格の差を「不当な利益」感じるということだ。まぁコストは一定だと勘違いしたいのは理解できる。

では逆に何故ど素人なのに原価率を気にしてその変動分を「不当値上げ」と感じるか。日本人は教育レベルが高いのでそういった裏のことを推測して「自分が損をしたくない」という感覚が働くのかもしれない。知らないことはブラックボックスにする割には自分が損した(多く払った、仮に供給側から適価でも)という事実を受け入れられないのかも。

要は定価より高い価格で買うことが許せないという感情の問題であろう。その感覚を倫理に昇華してしまったということだ。そこに論理性は無い(僕は倫理は論理で説明できると考えているが感情を倫理といわれると、、)。かのコメントも論理的な指摘は無かった。あくまで感情の問題であろう。(そういえば冷凍食品のように(それこそ)不当に高い定価を設定して毎日50%引きみたいなビジネスホテルが多いなぁ。)

仮定なんだけど、日本人は損をしたくないあまり定価ビジネスが基本なのだと思う。居酒屋などは月火はサービスという名のダンピングが行われていて、金曜日は2時間で追い出されている。実質的な価格弾力性をしいているけど意識させないのは知恵ということか。EDLP店が仕入れ状況により最低価格を保証しても、定価を意識させそこから何%下げて売っていますという方が受け入れられるのは「自分が幾ら得した(損したは存在できない)」を計算できるということがキモなのではないか。実質価格弾力性をしいているけどそこを意識させないのが企業の営業上の知恵なのであろう。

 

とにもかくにも非常時の営業は高コストでその分の便乗値上げは到底不当だといえない。まぁ不当な値上げもあるかもしれないがそこは値段と釣り合わなければ利用しなければいい話で誰も損はしない。要は他人が儲けることを許容できないことを倫理に置き換えて吠えているだけだ。値段とモノ・サービスの提供価格に問題があるのではなくて価格弾力性の⊿を不当利益と誤解しているということなのだ。
別にそのことも不当だとは思わない、事業者は事実だと認識すればいい。そういう人種が大多数であれば高コスト営業をしないだけだし、定価を吊り上げておいて毎日コストや市価を勘案してダンピングすればいいだけで、実際にそのようなビジネスは多い。あくまで感情の問題だと認識すればいい。

 

この仮定が正しいとしたら前エントリーの結論と同様にやはり便乗値上げをすべきである。非常時は季節・曜日のような波形とは関係ない需給であろう、コストや利益の幅に押えられない。非常時価格を定価として冷凍食品のように毎日40%引きも理論的には考えられるけど現実的ではない。先のエントリーでは便乗値上げの反対は平価販売ではなく閉店だと述べた、非常時の営業は高コストだからである。非常時の高コスト営業を取りやめるとそれはやはり日本人全体が損をするのは明らかだからだ。非常時だからこそ便乗値上げを許容すべきだ。

 

結論:
(1)利益は不当

(2)日本人は定価は受け入れる。(例えば金曜日に盛り上がってホテル代とタクシー代の天秤に掛ける程度の理性は酔っていても存在する)

(3)何故か分からないが定価より高いのは受け入れられない、事情より感情の問題である。なので企業の知恵は高い値段を「定価」と設定して毎日定価の○○%引きをしている。実質価格弾力性はある。(便乗価格否定派にこの倫理上の問題点を教えて欲しい、揶揄してないです)

(4)非常時には設定した価格弾力性を超えてしまう。なので閉店がデフォ。

(5)これらは感情なので論理的でない、論理を信じて便乗値上げを個人的には薦める、その結果救われる人が少なからず居る。しかし恨みを買って長期的な信用が落ちる可能性が高い。閉店に悪化印象はないので何人困ろうが閉店が最善。

 

最後に利益(に見えるものは全部)不当。馬鹿ってことだね。まぁ感情の成分が支配していて、論理的でないのであればその対策を打つだけ、それが高定価、割引率商売なのだろう。それがそれこそ不当の温床でオープン価格を導入させられた家電メーカーからは納得いかないと思うけど仕方が無い。感情だから。

 

以下雑談。

(業界によって異なるが)食品などの消費財のざっくりとした原価構成は一般的な話として流通(小売・卸)4割、残りの6割のうち原材料費1割、加工費1割、包材費1割、メーカー固定費(家賃・人件費・研究開発費等)4割、販促費2割、メーカー粗利益1割である。このことから100円で買った食品の原材料原価率は6%ということになる。
よくあるネットでの議論は6~10%の原材料原価に「払う価値ねー」というのがあるが、話は馬鹿馬鹿しい。市価の生鮮品での調達価格と思いっきり異なるし。さらにいうと生鮮品の原材料原価率は恐ろしく低いであろう。

私は技術屋なのでコスト(製品原価・加工費・資材費等)に常に直面している。なので街の商品を見ると「よくこの値段でつくれるなぁ」とか感心する。知らず知らず原価計算をしてしまう習慣がある。規格化された多点数で構成される商品、例えばボールベアリングなど安すぎて可哀想になる。とても生産性が高いのであろう。会計にもちょっとだけ興味があるので、混んでいる店や客が少ない店の外食でも回転率と客単価でその店の売り上げを計算して勝手に心配してしまう。

原材料費にが最重要だという観点が分からない、同様に変動費である加工費・資材費まで限界利益扱いで(まぁ加工費は限界利益だ)。

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