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松本清張/新潮文庫
もくもくとした煙草の煙、仕事帰りの男性が女子社員の肩に手を回す・・・思いっきり昭和な出だし。
ある意味、時代を感じる作品だったわね。
出雲方言を東北訛りと聞き間違える・・というのは本作の重要なファクターなのだが、昔同じ職場の先輩が、やはり木次線沿線の出だったけど、東北弁に近い発音は一度も聞かなかったなぁ。
上巻は飛ぶような速さで読んで、下巻も終わり近くなって、初めて全容がわかるのだけれど、なんとなく飛躍が多すぎて個人的には冷めてしまったかな。
ちょっと苦しいな・・と思ったのが、列車から紙吹雪を飛ばすところ。敢えて、人に見られるところでやるかな。(列車の窓からものを捨てて怒る人がいないなんて、漱石の時代みたい。)血痕のあるワイシャツを細かく切り刻む・・はいいとして、トイレで流した方が人に見つからなくてよかったのでは・・・当時、線路の上に垂れ流しだったから、トイレから出しても行き着くところは同じだし、何より誰がやったか人に見られないところがいいよ。
超音波殺人のところ・・流石に映画化された時はカットされたらしいけど、人を殺せるまでの超音波を出す機器を個人で作れるのか・・作ったところで、人に見られないように、対象者を閉じ込めないと使えないというハードルがあるし、さらにそれが堕胎に使えると考えて、使ってくれと頼み込む人がいるのか・・せいぜい押し売り撃退くらいだろうけど、玄関で使うには自分は耳栓等をしないと自分もやられるわけだから、その動作でなんかやってるとバレないか?
等々・・色々気になるところはある。名作にケチをつけるつもりはないが、「?」と思った瞬間、物語の世界から離れて冷静になってしまうので、小説って難しいな。
根底となるテーマにハンセン病がある。特効薬は発見されていたのに、日本では言われなき差別が長く続いた。ハンセン病の親を持つ子供が逃走し、戦災で戸籍が消失しているのをいいことに自分につながる戸籍をでっち上げ、自分の出自を知る者を手にかける。。。そこまでする??と思ってしまうけど、社会的名声を得た人間が過去を必死で消そうとするのは、ハンセン病がかつて遺伝すると考えられ、その病になる人は罪人同様であるという誤った考えが流布していた時代だったから・・・ということなのだろう。我々も新型コロナなど、未知の病気に接した際に起こった偏見を考えると、決して過去の話とは片付けられないのだが。