エッセイ 耳 課題【耳】 2019年Ⅰ月25日
出かける時は、バスに乗ることが多い。
最近とても疲れやすくなった。
余程急用でなければ、座席に座るようにしている。
渋滞などで長い行列の時は立ってでも乗るが、停留所が近づく度に、席が空かないかとキョロキョロするから恥ずかしい。
入口から後ろの席は二人掛けが多く、そこに座ると連れの人との会話が耳に入る。
すぐ後ろの席の女性が、バイト先のあれやこれを話している。
ラストオーダーが遅いとか、お通しがどうのこうの、店長に文句を言われて泣いたとか。
居酒屋に勤めているのかなと言う様な会話だった。そんな話の後に、
「就職が決まっておめでとう」
「それはいいのだけれど、お給料が安いので心配、保険とか引かれると二十万円にならないみたい」
「バイトでは、幾ら位貰っているの」
「夏休みや多い時は三十万円以上あったわ」
「でもいいじゃない、夕方早く帰れるし、毎月決まったお給料が入るもの」
降りる時、それとなく見たら近くの大学の学生のようだった。
華奢な体の地味な学生が、夜の居酒屋で頑張っているのだ。
「へ―― 凄いな、アルバイトの方がいいのだ」なかなか聞けない話だ。
昼間のバスは空いている。
斜め後ろの座席は、母親と娘さんらしい二人が座っていた。
「今月は何時お金を入れるの、自分の物ばっかり買って」
「・・・・・」聞き取りにくい。
「すぐ、直ぐにと、先月も言ったよね」
「だからね・・・・・」
「今日帰り、銀行に・・・・・、いつも胡麻化すのだから、父さんも・・・・・」
大きな茶色のショールを巻いた娘さんは、周りを気にしてか、小さな声で何か言う。
お母さんは「えっ、えっ?」と聞き返し、興奮してきたのか「もうーっ」と大きな声を出し、静かになった。
何を聞いたのかな。