つつじの書・・

霧島つつじが好きです。
のんびりと過ごしています。
日々の暮らしを、少しずつ書いています。

エッセイ お祖母ちゃんの味

2019-10-05 11:23:51 | 楽しい仲間

エッセイ お祖母ちゃんの味 課題【食べる・飲む】2010.11.12   

          つつじのつぶやき・・・

       9年前の作品です。遠い記憶の底にあるお祖母ちゃんの漬物の味。


暗い土間を入ると、背戸から、ちろちろと水が流れ落ちる音がする。
以前は木小屋だった小さな家に祖母は住んでいた。

祖母は長生きだった。大抵日の当たる縁側で縫い物をしていた。

「お祖母ちゃん」と声をかけると、目をそばめて笑顔になる。
眼鏡は無くても縫い物は出来るといっていたが、「丁度良かった、針に糸を通してくろ」という。
何本もの針に糸を通して針山に刺した。

祖母はいつも黒っぽい木綿の着物に、長い前掛けをかけていた。
腰が大分曲がっていたから、歩く度に前掛けがひらひらしていた。
髪の毛は、ひっ詰めておだんごを作り櫛を挿していた。
その櫛を水にぬらして前髪をなでる。

時々「裏に行くか?」と言うことがある。
杖を付きながら歩く祖母について行くと、沢沿いの先に、湧き水がしみ出た窪地がある。
蕗や三つ葉などの山菜が生えていて、それを籠にいっぱい採って帰った。
あの頃、祖母とどんな会話をしたのだろう。

私は小学校に入ったばかりの頃、麻疹に罹った。
弟も続けて罹り、その後重病の肺炎になり、母が付き添って入院した。

山の家から祖母が出てきて、治りかけた私の面倒を見てくれた。
いつも側にいて、布団をはぐとすぐに首まで引き上げられた。

熱が下がった時、ご飯の上に、小さく刻んだ菜っ葉の漬物をのせて食べさせてくれた。
食欲が戻ったのか、沢山食べた。
真っ白いご飯と緑色の漬物、あの味はずーと記憶に残っていた。
後に母が作った漬物で思い出し、聞くと大根の間引き菜の一夜漬けだと分かった。

私は一時期、小さな家庭菜園を借りていた。
間引き菜を採るため大根の種を多く蒔き、一夜漬けを作ってみた。

あの時のお祖母ちゃんの味には届かなかった。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする