All Photos by Chishima,J.
(アラナミキンクロのオス 2007年3月 北海道幌泉郡えりも町)
(日本野鳥の会十勝・会報「十勝野鳥だより173号」(2011年1月発行)より転載 一部を加筆・修正、写真を追加)
C. 会えたら宴!? お年玉級の4種
⑧オオホシハジロ
スズガモ同様ハジロガモ族ですが、冬の出現はもっぱら海上です。本来は北米に分布する鳥で、稀に北日本に飛来します。ホシハジロとよく似ていますが、長大な嘴やごつい頭部は独特です。主に1~3月に漁港や河口周辺で記録があり、多くは1~数羽ですが、06年1~3月には大津漁港でオス12羽、メス4羽、合計16羽もが観察されました(浦幌鳥類目録第2版)。
他に内陸部で秋の記録が数例ありますが、秋のホシハジロには嘴の黒い個体が少なからずおり、額も切り立って見えることがあるため、特にメスや幼鳥ではホシハジロとの識別に注意が必要です。特定の識別点に固執しないで、総合的に特徴をとらえて判断することが大事でしょう。
2006年1月 北海道中川郡豊頃町
左がメス。
2000年2月 北海道野付郡別海町
オス。この冬やその前の冬にも道東には割と多く飛来した。
⑨コケワタガモ
1945年発行の「鳥と猟」(堀内讃位著)という本では、「この鴨の顔を見ると、米国の秘密結社KKK団を思ひ出す」と書かれるくらい、オスはユニークな顔付きです。北極海沿岸で繁殖し、冬もあまり南下しません。国内の記録の大半は道東で、根室の納沙布岬周辺では1990年代半ばまで数~数十羽が毎冬観察されていました。襟裳岬でも同時期まで記録がありました。しかし、2000年代以降ほとんど観察されなくなりました。十勝での記録も1984、85年の広尾町での2例のみです。本種は主要な繁殖地でさえも生息数が不規則に変動する習性があり、道東への飛来状況の変化もそうした傾向を反映したものかもしれません。
ちなみに英名Steller’s Eider、学名の種小名stelleriは、ドイツ出身でロシアの博物学者、医師のシュテラー(ステラー)にちなんでいます。ベーリングと共にカムチャツカやアリューシャン列島を探検し、オオワシ、トド等の英名にもその名を残しています。
Steller’s Sea Eagle(オオワシ・成鳥)
2010年12月 北海道十勝川中流域
「シュテラーに因んだ海ワシ」の意の英名。かつてベーリング海に生息し、絶滅したステラーカイギュウも彼の名に因んだもの。
⑩アラナミキンクロ
ビロードキンクロと似ますが、オスの額や後頚の白、嘴の模様は更に派手に見せています。本来は北米に分布する鳥で、日本では1970年3月根室での初記録以降、道東を中心に稀に出現し、関東地方での記録もあります。十勝では00年11月に豊頃町湧洞の海上で、クロガモの群中にオス1羽を観察しましたが、写真はありません。えりも町庶野漁港には、2000年代にオス1羽が連続飛来しましたが、06~07年の冬にメスを伴って出現して以降、記録が途絶えました。まさかメスが、北米に連れ帰ったのでしょうか?
メスは後頚に白色の出ない個体もおり、ビロードキンクロとの識別に手を焼きますが、全体に黒っぽく、また嘴と顔の境界ラインが本種独特の形状です。飛翔時には白くない次列風切も識別点となるでしょう。本種だけでなく、海ガモ類の嘴やその周辺の形態は、生態を反映してか種ごとに異なっており、野外識別や漂着死体の同定で役立つことがあります。
以下2点とも 2007年3月 北海道幌泉郡えりも町
メス。オスは冒頭の写真。ビロードキンクロとの識別については、「アラナミキンクロのメスの識別について」の記事も参照。
オスの飛翔。雌雄ともビロードキンクロと異なり、翼上面(次列風切)に白色部は出ない。
⑪ヒメハジロ
アイサ族の中で最小のカモ。オスの頭部周辺の構造色の美しさは、カモ類の中でも秀逸です。北米に分布する種で、日本では北海道、東北地方等北日本に稀に渡来します。十勝では1989~2010年の間に十勝川河口周辺や生花苗沼で、少なくとも5例の記録があるほか、昨年2、3月に十勝川温泉で本種とホオジロガモの雑種と思われる個体が観察されました。本種や上述の雑種については、「ホオジロガモとその仲間」や「カモ類の珍しい雑種:ホオジロガモ×ヒメハジロ?」の記事、また雑種は「BIRDER」誌の10年8月号にも記事がありますので、興味のある方は参照下さい。
雑種と思われる個体
2010年3月 北海道十勝川中流域
D. この鳥を探せ!? 未記録種たち
⑫コスズガモ
北米に分布する種で、スズガモとよく似ています。識別が難しいためか、国内での初記録は1980年代ですが、その後は関東地方や沖縄県等全国から記録されています。北海道では92年1月にえりも町でオス1羽が観察・撮影され、その後根室市や別海町で3例の記録(いずれもオス)があります。本州以南では都市公園の池や河口で観察されますが、道東での記録はすべて漁港です。えりもで出ていることを考えれば、十勝に飛来しても不思議はないですから、図鑑とにらめっこして、後頭部の尖った顔が紫色のスズガモを探すのも夢がありますね。ただし、キンクロハジロとスズガモの雑種はコスズガモ的な形態を示すので、御注意あれ。
⑬ケワタガモ
北極海沿岸で繁殖し、冬もあまり南下しません。和名は、良質の羽毛(毛綿)が採取の対象となったことに由来します。戦前の北千島では「ガチョウガモ」とも呼ばれていたそうで、オスの嘴基部にあるこぶのためかもれません。道東では根室半島や野付、襟裳岬で7例の、いずれも単独の記録があります。最近では06年1月に稚内で観察・撮影されています。国内での記録はすべてオス幼鳥かメスです。今後も国内では最も見づらいカモの一つだと思いますが、釧路博物館や山階鳥研には千島列島産の標本が結構あるので、もうひと飛びしてくれることを願いたいものです。
また、根室で2例の観察記録があるだけのホンケワタガモ(オオケワタガモ)や、国内未記録のメガネケワタガモとの出会いを夢見るのも、極寒の海を望遠鏡で眺める励みになるかもしれません。凍傷や顔面神経痛にはくれぐれもお気を付け下さい。
北洋産のケワタガモ・オス標本
⑭キタホオジロガモ
アイスランドからアラスカにかけて、ホオジロガモより北で繁殖し、冬もあまり南下しません。ホオジロガモと似ますが、額が大きく盛り上がった、独特の頭の形をしています。北海道や岩手県で数例の記録があるだけの迷鳥で、「日本鳥類目録第6版」でも扱われていません。84年の3,4月に広尾町音調津やえりも町庶野でメス1羽が観察・撮影されているそうですが、残念ながら撮影者が亡くなられているため、写真の所在は不明です。本種については、「ホオジロガモとその仲間」の記事も合わせて御覧下さい。
(2011年1月4日 千嶋 淳)