![1 1](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/60/b7e0fc3d3f9c97e402ae7de4ed56b69d.jpg)
All Photos by Chishima,J.
(ホオジロガモとヒメハジロの雑種? 以下雑種はすべて同一個体で2010年3月北海道十勝川中流域での撮影)
札幌のNさんから、「十勝に珍しいカモがいるようだ」とのメールを受け取ったのは2月の末だった。彼から教えてもらったURLを見ると、確かに見慣れぬカモの写真が数枚掲載されており、ホオジロガモとヒメハジロの雑種らしいとあった。普段珍鳥情報を聞いても重い腰をなかなか上げない性質であるが、この雑種?には俄然興味を抱き、3月上旬以降何度か観察に赴いたので、写真とともに紹介する。なお、雑種であることやその両親の証明はきわめて難しいが、北米のサイト等でも同様の特徴を持つ個体を「ホオジロガモ×ヒメハジロ」としていること、「世界の鳥類の雑種のハンドブック(Handbook of avian hybrids of the world)」という専門書に、北米で狩猟者がヒメハジロとホオジロガモまたはキタホオジロガモの雑種と考えられる翼を持っていた例が記載されていることから、ここでは便宜的にそのように扱う。
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全体的な形態:大きさはホオジロガモと同大か僅かに小さい程度で、全体的な形やプロポーション、三角形の頭部等はホオジロガモに酷似する。警戒等のため首を上げた時には後頭部が冠状に目立つため、ややヒメハジロ的なjizzを受けることがある。
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頭部:嘴は黒いが、一部灰色みを帯びる。顔は喉、嘴基部から目の上の頭頂部にかけて帽子状に、そこから更に後頚にかけて暗色である。この暗色部は一見黒っぽいが構造色であり、順光下において頭頂部より後方はホオジロガモのオスと同様の緑色光沢を呈し、前頭部の一部は赤紫色を帯びる。この構造色はホオジロガモ以上に出にくいようであり、かなりの順光下においてようやく認識できるものである。それ以外の顔、目より下方の大部分は白色で、そのため本個体は顔の白っぽい印象を受ける。ただし、目の後下方はやや汚灰色を帯びる。この白色部は後頚の上部において、中心側に顕著に食い込み、後方からは2つの白いパッチ状に見える。虹彩は褐色~黒色の暗色であり、ホオジロガモの黄色とは異なっている。
![3 3](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/5c/971f7c0d73779f8ce0ae658598f56b7d.jpg)
![4 4](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/34/fb1d3dcade4ed4f8f40ab62f73f03e8e.jpg)
体上面:背、肩羽から上尾筒、尾羽に至る体上面は光沢を帯びた黒色(ただし尾羽では光沢なし)で、この部分は光が当たっても緑色みを帯びない。肩羽の外側には白いラインが入るが、ホオジロガモ・オスのような櫛歯状黒線は不明瞭である。翼上面は次列風切、小~大雨覆の広い範囲が白色で、そのパターンはホオジロガモに似る。次列風切白色部の最外側は、羽全部が白色でなく、tip状に白斑が入る。白色部以外の翼上面は黒い。翼下面は次列風切の白色部が上面同様白く見える以外は、黒色である。
![5 5](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/79/ce72e70b7ad4705cb365a03f2cd537e7.jpg)
![6 6](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/cd/4a2b3ed92a9c36aab473c86db71354a5.jpg)
体下面:胸から腹にかけては、一様な白色である。脚は淡い橙色で、ホオジロガモの鮮やかな赤橙色と比べると、かなり薄い印象を受ける。
![7 7](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/79/ac248713fb477a0b4c93a3af69772a39.jpg)
![8 8](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/6a/0bd5d89b02fe39ae6ff10f93e63560b1.jpg)
行動等:十勝川中流部に飛来した。単独での行動が多いが、数羽のホオジロガモと行動を共にすることがある。日中は流速の緩やかな入り江状地形で、潜水採餌している時間が圧倒的に多い。計測していないので断言できないが、周囲の他のホオジロガモに比べて潜水時間が長いようである。ただし、それが個体差なのか種(?)差なのかは不明である。水面での捕食は観察されず、潜水中に餌生物を捕食していると考えられる。潜水方法は、跳躍して頭から水中に飛び込むもので、ホオジロガモやヒメハジロと同じである。ホオジロガモがよく示す、頭部を水面に付けて伸ばし、「前かがみ」のような姿勢(下の写真)を頻繁に取り、この姿勢から潜水するのも観察された。
![9 9](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/6d/43c8b695a3d18463f7e11c340187a41e.jpg)
採餌以外では、ホオジロガモのメスに対する求愛行動が何度か観察されている。これはホオジロガモ・メスの周囲で頭部をやや後方に傾けながら上下するもの(下の写真)で、ホオジロガモのオスでも同じ行動が観察された。この行動に対するホオジロガモ・メスの反応は、観察されていない。
鳴き声は聞いていない。
![10 10](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/53/ce7116e9983b8394ec4dfb54d561fb55.jpg)
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昨冬は根室で、今シーズンは十勝の海岸部で単独のヒメハジロのオスが、ホオジロガモのメスに対してディスプレイを行い、ことごとく振られるのを見た。もっとも、単独で迷行してきた種のオスが近縁種のメスに対してディスプレイを仕掛けるのは普遍的なようで、アメリカヒドリ、クビワキンクロ、アラナミキンクロの単独のオスがそれぞれヒドリガモ、キンクロハジロ、クロガモのメスへディスプレイしているのを観察したことがある。そのような試みが軒並み失敗しているのを見ると「種の壁」を感じるが、果敢な挑戦がごくごく稀に結実することもあることを、今回のような個体の存在が教えてくれている。ただ、その数の少なさを考えると、やはり大部分は徒労に終わっているのだろう。
ホオジロガモは、マガモやカワアイサと並んで厳冬期の十勝川中~下流では最も数の多いカモ類である。警戒心の強さや河原までのアプローチの困難さからつい細かい観察を怠ってしまうが、昨冬は部分白化と考えられる個体が(「ホオジロガモの部分白化?」の記事を参照)、今冬はこの雑種が現れるなど興味深い発見も多い。
ヒメハジロ(オス・右)とホオジロガモ(オス)
2009年2月 北海道根室市
![11 11](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/33/85128c7cc4945fec8a109ec4765f5f59.jpg)
ヒメハジロ
2009年2月 北海道中川郡豊頃町
2月下旬から3月上旬に漁港に飛来した個体。メスと言われたが、顔の白斑の大きさや胸、脇の白い羽等からオス幼鳥の可能性がある。
![12 12](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/f4/686c4f997d36922c2f5e2d7963d82837.jpg)
(2010年3月18日 千嶋 淳)