鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

柳葉魚をめぐる鳥たち

2009-12-10 02:19:06 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
スズガモのメス 2009年11月 北海道中川郡豊頃町)


 秋の午後独特の柔らかい陽射しが降り注ぐ岸壁では、係留された漁船の脇で家族総出でのシシャモの選別作業が行われている。麗らかな陽気を反映してか、それはとても穏やかな漁港の風景に見える。それでも、木の台の上で次々と魚を選別してゆく手つきは決して緩んでいない。漁船の奥の水面は、綿菓子を散りばめたように数百羽のカモメ類で覆われている。双眼鏡で見やると、ユリカモメやカモメ、ウミネコなど小・中型の種類が中心のようだ。
 彼らの狙いは他ならぬ、この岸壁だ。選別でこぼれ落ちた、あるいは状態が悪く投げ捨てられた魚が出ると、何羽かがすかさず飛び立ち、魚に向かっての競争を繰り広げる。勝者が嘴に魚を掴み取った後も勝負はまだ続く。時には執拗に追い回した個体が奪い取り、最終的な勝者が入れ替わることさえある。こうしてシシャモを選別する人たちの話声と、それを取り巻くカモメ類の喧噪に包まれた漁港を、釣瓶落としの秋の陽がセピア色に染めて行く。(10月中旬)


岸壁の風景
2009年10月 北海道中川郡豊頃町
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ユリカモメ(左手前)とウミネコ
2009年10月 北海道中川郡豊頃町
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船の合間を縫って飛ぶウミネコ
2009年10月 北海道中川郡豊頃町
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                   *

 朝晩の冷え込みが肌を刺すように厳しくなり、遠く望む日高の峰々は日々白さを増して来る。そんな午前に訪れた漁港は閑散としていた。シシャモ漁船がカモメたちを引き連れて、前浜に出漁中のためである。人っ子一人いない静かな岸壁の直下で、十羽程のスズガモがしきりに潜水している。普段は港の奥で人を避けるように休息しているスズガモが、一体何をしているのだろう?
 一羽が餌をくわえて浮上した。銀色に光る細長い体がまぶしい魚だ。おそらくシシャモだろう。昨日の選別作業でこぼれ落ち、なお且つ水面でカモメ類に浚われなかったものが、この浅い海底に沈んでいるものと思われる。スズガモは一気呵成に、数口で飲み込んだ。そうしなければならない理由はじきに分かった。漁船に付いて行かず港に留まっているオオセグロカモメが、あわよくばシシャモを奪おうと周囲で狙っているのだ。そのため、水面下で先に飲み込んでから浮き上がる個体も少なくない。
 小春日和の午前中に、静寂の中でスズガモが潜る「ポチャッ」、魚を食む「ペチャペチャ…」という音に浸れるのもあと数日だろう。今年の漁もじきに終わる。(11月中旬)


シシャモ?を食べるスズガモ
2009年11月 北海道中川郡豊頃町
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                   *

 シシャモは北海道の太平洋沿岸に生息する、日本固有のキュウリウオ科の魚である。アイヌの神様によって柳の葉から作られたという伝説があり、「柳の葉の魚」を意味するアイヌ語のスス・ハムもしくはシュシュ・ハモが和名の由来だという。10月中旬から11月下旬にかけて、日高地方の鵡川や沙流川、十勝川、釧路地方の庶路川、阿寒川、新釧路川、別寒辺牛川等に産卵のため遡上する。その時期に、沿岸で主に桁網を用いて漁獲される。シシャモというと日高の鵡川が有名だが、胆振・日高地方の資源は著しく減少し、近年では十勝・地方で全道の漁獲量の大半を占めている。
 本州などでは「シシャモ」として出回っているかなりの部分が北太平洋や北大西洋で獲れるカラフトシシャモ(カペリン)で、本当のシシャモは高級魚扱いになっているそうだが、産地が近いこともあって十勝のスーパー等では比較的安価で求めることができる。何を隠そう今晩も、安く手に入れた干物を焼いたやつでの晩酌を楽しんだ後でこの駄文を綴っている。


十勝産シシャモの干物
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カモメ(成鳥冬羽)
2009年11月 北海道中川郡豊頃町
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(2009年12月9日   千嶋 淳)