鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

何を食べてる? 海ガモ類

2011-01-21 23:39:08 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
漁港内でカジカ類を捕食するウミアイサのメス 2008年2月 北海道幌泉郡えりも町)

日本野鳥の会十勝・会報「十勝野鳥だより173号」(2011年1月発行)より転載 一部を加筆・修正、写真を追加)


 寒い冬の海で日がな一日潜水を繰り返し、餌捕りに励む海ガモ類。彼らは一体何を食べているのでしょうか?日本では海ガモ類の食性に関する研究は少ないですが、欧米とも共通種が多いので、そちらの情報も盛り込みながら、主要な7種の海ガモ類が冬に何を食べているのか垣間見てみましょう。
①スズガモ
 貝類をはじめ、浮遊甲殻類、カニ類、ヒトデ類といった水生無脊椎動物を中心に、植物質の餌(アマモの種子等)も食べます。動物性の餌が占める割合は、地域によって45~97%と変異があるようです。オランダで、9~2月に111個の胃が調べられた例では、貝類が全容量の80~95%を占め、貝は主にイガイの仲間(ムール貝に近い)、他にザルガイ、タマキビ類、ムシロガイが含まれていました。スウェーデンで3~4月に採取された24個の胃も同様の傾向で、イガイの仲間が87%の出現頻度を示しました。旧ソ連での研究では、餌は季節と地域によっても変化することが示され、例えば秋(10月)には貝類の割合は31.5%で、水生昆虫(24%)や種子(10.5%)も重要な餌となっていました。
 以前、根室の春国岱と黄金道路で、どちらも11月に拾得された本種の胃内容物を見たことがあります。春国岱個体の胃には干潟性のアサリ、ホッキ、黄金道路個体の胃には岩礁性のエゾタマキビガイが見られ、その時住んでいる場所の近くに豊富にある餌を、状況に応じて利用している様が窺えました。
 本種のちょっと変わった餌としては、シシャモがあります。これは自由に泳ぐ魚を捕まえるのではなく、大津漁港等でシシャモ漁期(10~11月)に、岸壁からこぼれ落ちて水没したものを狙って、多数のスズガモが岸壁付近で活発に潜水しているのを見ることができます。


岸壁付近でシシャモを捕食するスズガモ・メス
2009年11月 北海道中川郡豊頃町
「柳葉魚をめぐる鳥たち」の記事も参照。
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②クロガモ
 貝類を中心にエビ等の水生無脊椎動物、時に魚類が餌となります。10~4月にデンマークの海上で得られた219個の胃内容物では貝類が95.9%と高い出現頻度を示し、中でもイガイの仲間(50.7%)、ザルガイの仲間(42.5%)が多く出現しました。甲殻類は10.9%の胃から出現し、それらは主に端脚類(ヨコエビやトビムシの仲間)でした。旧ソ連や北米での研究でも、イガイの仲間が重要な餌生物となっていました。


二枚貝類を捕食するクロガモのオス
2010年1月 北海道中川郡豊頃町

貝は既に口の中にあるが、付着した海藻等がはみ出している。
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直後、それらを洗い流すような仕草を見せた。
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③ビロードキンクロ
 貝類を主食とし、水生無脊椎動物や魚類、植物質のものも食べます。デンマークで冬期に集められた144個の胃内容物では、貝類が出現頻度で97.2%、全容量の83%と卓越し、イガイ、ザルガイ、ムシロガイの仲間が中心でした。他には甲殻類(出現頻度16%)、棘皮動物(ウニ、ヒトデなど;出現頻度9.7%)、環形動物(ゴカイなど;出現頻度8.3%)、魚類(出現頻度4.2%)等が出現しました。北米での研究でも、貝類やカニ類が主食であることが示されています。秋にはカゲロウ等水生昆虫の幼虫や蛹も食べているようです。
 ヨーロッパでは、クロガモより岸近くで採餌することが多く、おそらくそのために餌メニューの幅があると考えられています。北海道沿岸では砂質海岸の海上で見られることが多い本種ですが、これもクロガモと餌や採餌環境を別にしているからなのかもしれません。


二枚貝類を食べるビロードキンクロ・オス
2008年2月 北海道幌泉郡えりも町
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④シノリガモ
 繁殖期には渓流をカワガラスのように潜水してトビケラやその幼虫を捕えていますが、冬には貝類や甲殻類が主食となっているようです。ヨーロッパではほぼ完全に動物食といわれ、主に貝類(タマビキ類、イガイの仲間)、他に甲殻類、環形動物、魚、魚卵を経寝ています。アイスランド沿岸では甲殻類が中心で、若干の貝類も食べているそうです。アラスカではイガイの仲間、プリビロフ諸島では端脚類とヤドカリの仲間というように、海域によっても餌は異なるようですが、いずれにしても動物質が中心で、植物質は全体の1 %程度と考えられています。11月に根室の花咲港で拾得された本種の胃内容物を見たことがあります。エボシガイ、コガモガイ、エゾタマキビガイ、イガイの仲間、フジツボ、稚ガニ、2~3種類の甲殻類、海藻などが含まれ、沿岸部の多様な無脊椎動物を利用している様子がよく分かりました。
 ただ、諸外国で言われているほど植物質への依存度が低いのか、疑問に思うこともあります。本種は漁港のスロープやその波打ち際付近で、コクガンやヒドリガモとともに採餌していることがよくあります。後2者は海草食者でスロープ周辺に付いている植物を食べていることは明らかです。シノリガモは何を食べているのでしょうか?また、漁港の岸壁部分に生えている海草群落から何かを食べているのを見たことがあります。ただし、フジツボ等固着している無脊椎動物を食べている可能性も否定できないので、今後注意して観察する必要がありそうです。


渓流に集ったシノリガモ
2007年5月 北海道十勝川上流域
「渓流の道化師」の記事も参照。
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⑤コオリガモ
 貝類、小型甲殻類、軟体動物等動物質を中心に食べます。デンマークで11~4月に集められた113個の胃内容物では、貝類(ザルガイ、イガイ)の出現頻度が高く(93.8%)、甲殻類(端脚類や等脚類(ワラジムシ等の仲間);54.9%)、魚類(ハゼ科など;14.4%)、多毛類(ゴカイ、イソメ等;9.7%)等がそれに続きました。グリーンランド沿岸では甲殻類と貝類、カムチャツカでは端脚類と貝類など、同様の結果が他の海域でも得られています。
 珍しい事例として、荷役中の船からこぼれ落ちた穀粒を食べたというものがあります。

⑥ホオジロガモ
 昆虫類、甲殻類、軟体動物といった動物質の餌のほか、水生植物も食べます。デンマークで10~2月に集められた90個の胃からは、甲殻類の出現頻度が最も高く(76%)、貝類(小型のタマビキ類、イガイ、ザルガイ;70%)、魚類(主にハゼ科;22%)がそれに続きました。北米で11~4月に集められた150個の胃内容物は貝類、甲殻類(ザリガニ)、昆虫(トビケラ幼虫)等で、海ではそれらにフジツボ、カニ等も加わったということです。本種は内陸から外洋まで幅広い水辺環境に生息するので、その環境によっても餌生物は変化します。スコットランド等の内陸部で調べられた事例では、トビケラやカワゲラ、カゲロウといった水生昆虫の幼虫が重要な餌生物であることが示されています。十勝でもワシクルーズで出会うような河川中流域に暮らす群れは、水生昆虫の幼虫を食べながら冬を送っているのかもしれません。

⑦ウミアイサ
 魚食性が強く、ヒナや幼鳥はエビや水生昆虫も食べます。静岡県の駿河湾では、コアユとマイワシを捕食しているのが観察されています。私はえりも町の漁港で、本種が小型のカジカ類を食べているのを見たことがあります(冒頭の写真)。他に外国で食べているのが確認されている魚類には、トゲウオ、ギンポの仲間、ローチ(ウグイに似た魚)、キタノカマツカ、ツノガレイ、クロダラ、サケ科、ヤツメウナギの仲間、パーチ(スズキに似た魚)、イカナゴ等があります。胃内容物から甲殻類や昆虫が見つかることもありますが、小型のもの場合、魚が食べていたものの可能性があります。一般にカワアイサより小型の魚類を捕食するため、稚魚に有害であるとされます。
 フェリー等で沖に出ると、他の海ガモ類が沿岸部で多く出現するのに対して、本種はかなり沖合でも群れを見かけます。これは他の種類の主食が貝類のような底性動物で、水深がありすぎると潜って捕りに行けない(または行っても労力の割に合わない)のと違って、本種は表・中層の魚を捕れば沖合でも浅い潜水で餌にありつけるからではないかと思います。
 魚群が表層近くにあると思われる時に、他種の海鳥と採餌混群を形成することがあります。こうした混群の多くはまずオオセグロカモメやウミネコ等が集まって、続々と海に飛び込み始め、それを見たと思われる本種やウトウ、ウ類、アビ類等が飛来し、潜水採餌を始めることによって群れが大きくなります。潜水採餌者がメインになってくるとカモメ類はまた別の場所に飛び込み始め、潜水採餌者が再び追随することによって形成と分解を繰り返します。


ウミアイサを含む採餌混群
2010年4月 北海道根室市
夕刻の海上に海鳥が集う。オオセグロカモメウミネコは既に次の場所に移動を始め、ウトウヒメウが集まって来た。ウミアイサは最大3羽が観察された。
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岸壁から何か(貝?)をこそぎ取るクロガモ(メス?)
2010年4月 北海道広尾郡広尾町
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(2011年1月4日   千嶋 淳)