All Photos by Chishima,J.
(ヒドリガモとアメリカヒドリの雑種? 2007年9月 北海道帯広市)
冒頭の写真は、9月26日に帯広市郊外で撮影したものである。頭頂部の黄白色や眼後方の緑色光沢、顔の細かい班の密集等はアメリカヒドリのオスを連想させる。写真ではわかりづらいが、本個体の雨覆は白色だったので、幼鳥ではなく成鳥のエクリプスから生殖羽への移行中と考えて良さそうだ。
しかし、後頭部から後頚にかけての赤褐色は、アメリカヒドリの特徴としては腑に落ちない。調べてみるとアメリカヒドリのオスではどの羽衣でもこのような赤褐色は出ず、ヒドリガモ的な特徴である。したがって、ヒドリガモとアメリカヒドリの雑種と考えるのが妥当なのだろうが、普段目にする両種の雑種と考えられる個体(例えば「カモの変り種」を参照)と比べると、アメリカヒドリ的な要素が強く感じられる。アメリカヒドリと雑種の交雑など想像は膨らむが、この個体がしばらく滞在してくれ、完全な生殖羽に移行した段階を見たいものだと思っている。なお、本個体の腋羽の色は、残念ながら確認できなかった。
ヒドリガモとアメリカヒドリの雑種?
2007年9月 北海道帯広市
アメリカヒドリ(オス)
2006年4月 北海道中川郡幕別町
下の2枚の写真は、10月3日に十勝川下流域にある湿地で撮影したものである。曇天時に100m以上の距離から、2倍のエクステンダーを使用して撮影したものを更にトリミングしたので、非常に荒い画像となってしまった。この個体を最初に数百mの距離から望遠鏡で観察した時、周囲にいたコガモより少し大きいこと、コガモより横長に見える嘴、それに眼の前後に黒い過眼線のようなものがあり、その上方は白い眉班状になっていることから、シマアジかと思った。ただ、シマアジにしては顔全体が白っぽく見えることを訝り、折に触れて観察していたところ、伸びをした際に次列風切~大雨覆にかけての色が下から白、黒・緑、橙褐色であり、もしかしたらと思っていたトモエガモであることを確信した(コガモでも似たパターンが出る個体がいるが、コガモの場合最上部の橙褐色の幅は一様でなく、またその部分にも白が入る)。
トモエガモ
2007年10月 北海道十勝川下流域
その後、もう少し近くまで来た時に過眼線に見えた黒線は、眼の前方で一旦途切れること、肩羽に栗色の羽縁があること等を確認した。トモエガモであることは間違いないと思うが、現時点でこの個体の性及び齢は不明である。メス成鳥とは顔の模様が異なり、白っぽい顔にうっすら模様が出始めているような気もするのでオスのエクリプス(あるいはそれから生殖羽への移行中)ではないかと思うのだが、幼鳥の可能性も否定できない。世界でも極東という非常に狭いエリアにのみ分布する本種に関しては知見が少なく、洋書のモノグラフでもイラストや記載が不正確なものがまま見受けられる。
この日、このような特徴を持つトモエガモを少なくとも3羽、観察することができた。十勝地方において本種はきわめて稀な冬鳥で、従来の記録の大部分は冬~春に集中している。秋の記録の少なさは、今回のような地味な個体がコガモに紛れて、観察者との距離がある湖沼や湿地に渡来しているため、見逃されてきたことを反映している可能性もある。
トモエガモ(オス)
2006年12月 群馬県前橋市
最後に、少々古くなってしまったが、冒頭のアメリカヒドリ雑種?を観察したのと同じ9月26日に撮影したヒドリガモ・オスの写真を数点、掲載しておく。いずれも成鳥のエクリプスから生殖羽へ移行中であるが、その段階にはかなりの個体差があり、一見メスのような個体から、頭部のクリーム色などオス生殖羽の特徴がはっきり現れ始めている個体まで様々である。ヒドリガモ・オスの生殖羽への移行は比較的早く、当地においてはマガモに次いで早いようだ。普通種ではオナガガモがそれと同じか少し遅いくらいで、コガモはもっとも遅く、12月頃からようやくきれいなオスが見られ始める。このような差が何によってもたらされるのかわからないが、何らかの適応的な意義があるのだろう。
ヒドリガモ(オス・エクリプス→生殖羽)の様々な段階
2007年9月 北海道帯広市
まだメスのような羽色だが、背に灰色の羽が僅かに出始めている。
背・肩羽の灰色が目立ってきた個体。
頭部のクリーム色、胸の葡萄色等、オス生殖羽への移行が進んでいる。
(2007年10月17日 千嶋 淳)
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