鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ハシボソミズナギドリ(その1) <em>Ardenna tenuirostris </em>1

2012-08-14 19:51:09 | 海鳥
Photo
All Photos by Chishima,J.
以下すべてハシボソミズナギドリ 2012年5月14日 北海道十勝沖)


 一連の写真は同一日、同一海域のものだが、別個体。Puffinus属は最近の遺伝学的研究では単系統でないとされ、例えばHowellの「Petrels,Albatorosses & Storm-Petrels of North America」では同属はCalonectris属と共通の祖先を持つ小型ミズナギドリ類に限られ、本種を含む南半球の繁殖種はArdenna属とされている。属名はラテン語の「熱烈な、燃えるように輝く」に由来するとされる。種小名は「細い嘴の」を意味し、オバシギと共通である。かつて同義の英名”Slender-billed Shearwater”も存在したようだが、現在では”Short-tailed Shearwater”が一般的。

 オーストラリア南東部にあるタスマニア島周辺のおよそ90の島々で、同地の夏である9月下旬から3月中旬に繁殖する。繁殖後に赤道を越えて太平洋を北上し、北海道近海には4月中旬に到達する。道東太平洋では4月末から5月初めに大群が通過し、岬や無人島では西方から東方へ、川のように切れ間なく群れが飛ぶのが見られる。厚岸沖の大黒島で5月頭に、沖を群れが数日に渡って同方向に飛翔するのを観察したことがある。夜間は見えなかったが、少なくとも夜明けから日没前後までは途切れることなく群れが流れていた。6月後半以降はハイイロミズナギドリが卓越してくるが、7月上旬にも大群が出現し(おそらく幼鳥の群れ)、今年は8月に入っても道東沖で多数観察された。主群が晩夏から秋にかけて近海にとどまって餌生物の分布に応じて動いているのか、ベーリング海等へ北上するのかは不明。10月頃までには少なくなるが、11月下旬に見たこともある。


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 ハイイロミズナギドリとよく似るが小型で、嘴は短くて細い。全体的に寸胴で、翼はやや短く先端は丸みを帯びるので、ハイイロほどスレンダーな印象は受けない。5月頃にはこのように初列風切内側を換羽中の個体が多い。非繁殖鳥の換羽はやや早いようである。上嘴付け根から頭頂部にかけては切り立って見え、頭部が大き目な印象を受ける。ただし、姿勢や羽毛の膨らまし方によっては、あまり切り立って見えない。


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 喉が白っぽく見えるのは本種が多い気がするが、決定的な識別点になるかはわからない。体サイズが違うので飛び方が異なり、本種の羽ばたきは“ぱたぱた”と軽い印象を受ける。同じ黒色ミズナギドリ類の中でもアカアシミズナギドリは大型な分オオミズナギドリに近く、ハイイロミズナギドリはその中間な感じ。翼開長は本種が95‐100cm、ハイイロが94-105cmでオーバーラップする。


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 水面を助走して飛び立つ。翼下面は銀白色から暗色まで個体により様々で、ハイイロとの識別には役立たないと思われる。


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 翼先が尖って、また体躯も細長いためハイイロミズナギドリのように見える個体。嘴や頭部の形態から、おそらく本種。繁殖期の終わりには100g以上ある脂肪を、40g前後まで消費して太平洋を北上する。年間の移動距離は3万kmを超えるという。


(2012年8月13日   千嶋 淳)


本種に関しては、
厄介な二種
ハシボソミズナギドリ
の記事も参照。



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