All Photos by Chishima,J.
(大津燈台より漁港、市街を望む 2009年8月 北海道中川郡豊頃町)
(日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより」167号(2009年8月発行)より転載 一部を加筆・修正)
河口の後は、大津漁港を目指そう。まずは漁協のある、港内側を訪れたい。ここには、この地域では少ない公衆トイレもある。大津漁港の探鳥は、一言で言うと当たり外れが大きい。ヒメハジロやオオホシハジロといった珍鳥が観察されることもあれば、普通種のカモメ類ですらろくに見られない日もある。そのつもりで臨もう。秋冬であればスズガモやクロガモ、ホオジロガモなどの海ガモ類やカモメ類、時にアビ類やミミカイツブリなどを間近に観察できる。オジロワシが水鳥を襲いに現れることもある。また、秋のシシャモ漁の時期なら、水揚げのある時間には数千羽のカモメをはじめとしたカモメ類を見ることもできる。港の最奥部にあるスロープもまた穴場で、特に天気の悪い日には多くの鳥が避難してくる。近年では数羽のハマシギが、このスロープで越冬している。
ハマシギ(夏羽)
2007年5月 北海道中川郡豊頃町)
ヒメハジロ
2009年2月 北海道中川郡豊頃町
漁港の内側を一通り観察したら、漁港の北側を迂回する道を通って、外側を目指すと良い。漁港の北東にある沼も、クイナやアカエリカイツブリなど水鳥の観察適地であったが、2009年7月現在、土取りのダンプカーが絶え間なく走るようになってしまい、今後どうなるかわからない状況にある。道路が海岸に突き当たったところで左折すると、大津漁港の外側部に出る。ここでも秋冬を中心に海ガモ類やカイツブリ類などの海鳥を観察でき、外海に近い分その姿も多い。ケイマフリやカンムリカイツブリ、ビロードキンクロなど、普段観察する機会の少ない海鳥が現れることもある。釣り人が居並ぶ岸壁では、ゼニガタアザラシの「コロ」が寝そべっていることだろう。このオスのゼニガタアザラシは、2003年頃から大津漁港に出現するようになり、なぜか人のそばに上陸するという、通常では考えられない行動を示している。2006年には全国報道されたため、見物客が押し寄せ、触ったり、犬を嗾けたりするなどマナーの悪い行為が目立った。翌2007年には3人が相次いで噛まれる事態が生じ、それ以降は適度な距離を保ちながら観察する人が増えている(それでも去年、ある写真展で子供をじゃれつかせてる写真が展示されるようなケースはある)。アザラシの首は思いのほか伸びるし、陸上での移動も結構敏捷である。安全な距離を保ちながら、観察したい。時間に余裕があるなら、望遠鏡を持って防波堤を先端付近まで歩くのも面白い。ハシジロアビやマダラウミスズメを観察したことがある。
ゼニガタアザラシの「コロ」
2007年3月 北海道中川郡豊頃町
このアザラシをめぐる問題については、「危険!」、「剥離」、「呆れて物も…」などの記事も参照。
漁港外側から長節湖までは、右側に斜面、左側に砂浜と海を望みながらの、まっすぐな道が続いている。右側の斜面では、冬にチョウゲンボウやケアシノスリ、オジロワシなどの猛禽類やハギマシコがよく観察される。左側の海上ではクロガモやウミアイサ、シノリガモなどの海ガモ類、カモメ類、アビ、ウミスズメなどが秋~春を中心に観察され、初冬には数百羽のカワアイサの大群も出現する。この海岸は、十勝で最もネズミイルカを観察しやすい場所の一つである。冬の、波の穏やかな日中が望ましい。波打ち際付近の海上をじっと眺めていると、小さな背ビレの付いた黒い背中が、すーっと現れてまた沈んで行く。これがネズミイルカである。ネズミイルカは体長2m弱の小さなイルカで、一年を通じて寒い海に生息する種類だ。「イルカ」という言葉から連想されるような、派手なジャンプは決してしないが、北の海で慎ましく暮らす小さなイルカとの出会いもまた悪くない。
ネズミイルカ
2008年2月 北海道中川郡豊頃町
長節湖に面した草原では、繁殖期にシマセンニュウ、コヨシキリ、ノゴマなどの草原性鳥類が、ハマナスやエゾニュウなど季節の花とともに楽しめる。長節湖は海と隔てている砂丘が時に決壊することがあり、その時には広大な干潟が出現する。それと、シギ・チドリ類の渡りのタイミングが合えば、十勝では珍しい、干潟に群れるシギ・チドリ類(メダイチドリ、ダイゼン、トウネン、ソリハシシギ、アオアシシギ、オオソリハシシギなど)を楽しむことができる。また、氷の緩む3月末から4月頭には、オオワシ、オジロワシが数十羽飛来することがあり、壮観である。開水面が多くなるとワシは姿を消すが、ウミアイサが数多く湖面に入って来るのは、この時期(4月中旬)である。
長節湖東側の道路を通って、国道336号に戻ることになる。この道では、葉っぱの落ちる秋冬には、森林性の小鳥が観察しやすい。カラ類やキツツキ類、カケスあたりがメインだが、オオマシコ、カシラダカ、ルリビタキなどが見られることもあり、ワタリガラスの記録もあるので気が抜けない。シカの死体がある時にはワシ類も見られるだろう。
以上のコースを辿ると、河口でカモメ類にどっぷりはまりこまない限りは、大体半日くらいのはずである。まだまだ時間はあるので、河口橋を渡って三日月沼や豊北、十勝太など浦幌町の探鳥地を巡るのも良いし、反対方向に進んで湧洞沼や生花苗沼など十勝海岸の湖沼群を回るのも楽しい。いずれにしても渡りの盛期であれば、一日で70種以上の鳥に出会うことも難しくはないコースだ。
最後に注意点をいくつか。大津市街では商店で、菓子や飲み物は調達できるが、弁当や食事は手に入らない。最寄りのコンビニ・飲食店は、豊頃市街か茂岩、浦幌市街になるので、事前に調達しておくか、そのようなプランを組んでおくのが良い。海岸湖沼群コースに行く場合は、晩成温泉にレストランがある。トイレは大津漁港にあるだけなので、有効に活用しよう。漁港では出港や水揚げ時を中心に、車が走り回る。また、築堤でも工事で大型車が絶え間なく走る場合がある。くれぐれも邪魔にならないよう、注意していただきたい。防波堤・海岸では、高波の時には慎重な行動をお願いしたい。十勝川沿いは、築堤からでも十分観察可能である。湿原内に踏み込むのは、鳥の繁殖に悪影響を与えるのに加え、突然沈むような箇所もあるので、危険だ。
オオマシコ(オス)
2009年2月 北海道中川郡豊頃町
(完)
(2009年7月15日 千嶋 淳)
てっきりウミウと思っていましたが、カワウでしたか!記録を訂正します。
十勝河口大橋から川沿いに下る道は、未だ行った事が無いので、来年の楽しみにします。又、冬期にも一度行く必要が有りますね。
今後ともよろしくお願いします。
御無沙汰しております。ウですが、厄介なことに十勝川河口付近では、カワウもウミウも両方見られます。今の時期ですと数的にはカワウの方が多いのですが、ウミウが川に入って来たり、逆にカワウが港で見られることもあります。ですので、田澤さんが御覧になったウは、ウミウの可能性もカワウの可能性もあると思います。
冬にも是非いらして下さい。鳥は年による当たり外れが大きいですが、凍った十勝川やそこから流れ出して海岸に漂着した氷(流氷の子供みたいな感じ)、雪上を縦横無尽に走るキツネやウサギの足跡などは、一見の価値ありです。