鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

コミミズク

2011-02-08 23:13:34 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
雪中のコミミズク 2010年12月 以下すべて 北海道十勝管内)


(2011年1月10日釧路新聞掲載「道東の鳥たち22 コミミズク」より転載 写真、解説を追加)


 初冬の海岸は寂しいものです。僅かな雪も風で飛ばされ、銀世界には程遠い褐色の風景。夏に絢爛と咲き誇ったハマナスも、今は赤く萎んだ実で点々と面影を残すのみ。午後早い時間、低い位置から原野を茜色に照らす太陽が、一年で最も昼の短い季節を教えます。そんな荒漠の中をふわふわと飛ぶ鳥。鳥はそのまま地面に向けて急降下することも、流木や杭へ止まることもあります。二つの金色の目玉がこちらを睨んでいるかもしれません。コミミズクです。

流木からの飛び立ち(コミミズク
2010年12月
画面右下にはハマナスの赤い実も。
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 コミミズクと聞くと、小さくて可愛らしいミミズクを想像されるかもしれませんが、実際には翼を広げると1m近くある、カラスより少し小さい中型のフクロウです。耳のように見える羽(羽角)が小さい、つまり小さな耳のミミズクというのがその名の由来です。


杭に止まるコミミズク
2008年1月
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 コミミズクは二つの、他のフクロウ類とは異なる特徴を持っています。一つは草原性で、フクロウやシマフクロウなど他のフクロウ類が森林を生活の場としているのに対して、海岸草原や河川敷、農耕地など開けた環境に生息する点です。もう一つは、夜行性のフクロウ類の中にあって昼間も活発に活動することです。もちろん夕方や夜間にも活動するのですが、特に北海道では本州以南と比べて、昼行性が顕著な印象を抱いています。


午後早くから飛び回る(コミミズク
2008年1月
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 北半球の亜寒帯以北で繁殖し、日本へは冬鳥として渡来します。道東では8月下旬に根室近海で漁船へ飛来した例もありますが、通常12月頃より観察の機会が増えます。本州では10月頃から普通に見られることを考えると不思議です。道東と本州に渡来するコミミズクとでは、繁殖地が異なるのかもしれませんが、詳しいことは分かっていません。
 越冬中の主食はノネズミ類で、草原を低く飛びながら、獲物を見付けると停空飛翔や急降下して捕えます。杭などの上で待ち伏せする場合もあります。日高静内でのアイヌ語名「エルム・コイキ」(ネズミ掴みの意)は、本種の習性から付いた名前でしょう。渡来数は年によって著しい差があり、あちこちで出会う冬があれば、まったく見かけない冬もあります。これは繁殖地でのネズミ発生量と関係しており、ネズミが大発生した年には産卵数が増加し、2回目や遅い時期の繁殖も活発になるそうです。ロシアでは、ネズミの多い年の11月にまだ幼鳥と卵のある巣が見つかった例があります。精悍な狩人のイメージとは裏腹におっとりした性格で、よくカラスに追われていますし、ケアシノスリやハヤブサなど他の猛禽類に食べられてしまうこともあります。


ノネズミ類を掴んだコミミズク
2008年1月
獲物はおそらくアカネズミの仲間。草は捕えた時、一緒に握ったのか。
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 愛嬌のある顔や仕草ゆえ、鳥の中でも人気者です。数年前、十勝の海岸に何羽も飛来した時は連日多くの観察者で賑わい、天然記念物の海岸植生を踏み荒らしてコミミズクを追い回し、撮影用の人工的な止まり木を設置する人が続出しました。狩りの瞬間を撮ろうと、餌のネズミを集めるためヒマワリの種を撒く人さえいました。デジタルカメラの普及で、鳥や野生動物を撮影する人が格段に増えました。それと同時に動物やその生息環境への配慮を欠く行為も多く目にするようになったのは、残念なことです。自然に対する感謝と謙虚な気持ちを忘れることなく、フィールドへ赴きたいものです。


落陽に照らされて(コミミズク
2008年1月
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コミミズク
2008年1月
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(2010年12月29日   千嶋 淳)

本種については、
「コミミ狂想曲」 (2008年1月)
「遭遇」 (同)
「至福の一時」 (2007年1月)
の各記事も参照



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