All Photos by Chishima,J.
(潜水するビロードキンクロのオス 2008年2月 北海道幌泉郡えりも町)
冬の北の水辺には、潜水の名手が多い。海岸や漁港では海ガモ類をはじめ、アビ類やウミスズメ類など、また内陸でも不凍水域があればホオジロガモやアイサ類、カイツブリなどを見ることができる。彼らはいずれも水中や水底といった他種が利用できない空間に巧みに進出し、そこで魚類や貝類を捕えるのに特化したグループであるが、その潜り方に着目すると、主に水面下での推進の方法と関連して幾つかのパターンのあることがわかる。
まず、もっとも基本的なのは翼を閉じたまま跳躍して、頭から水中に飛び込むものである。この仲間の水面下における推進力は脚だ。最初の推進力を得るために、跳躍はしばしば放物線を描く。アビ類、カイツブリ類、ウ類、オオバンやスズガモ属やアイサ属、クロガモなど多くの潜水ガモ類がこれに属する。
シロエリオオハム(冬羽)
2006年3月 北海道厚岸郡浜中町
ヒメウ
2007年12月 北海道幌泉郡えりも町
スズガモ(上:メス、下:オス)
2007年12月 北海道広尾郡広尾町
次いで翼を半開きにしてそのまま潜水するもの。このグループの水面下での推進力は翼によって得られており、まさに水中を飛ぶという表現がふさわしい。脚は用いないため、潜水の時点で体後方に向けられている。ウミガラスやウミスズメなどのウミスズメ科が代表選手だが、コオリガモもこれに近い潜り方をする。
海上を飛翔するウミスズメ
2006年11月 八戸~苫小牧航路
コオリガモ(オス)
2007年4月 北海道根室市
顔が白く、長いはずの中央尾羽も短いことから、若鳥か?
コオリガモ(オス)の潜水の瞬間
2007年2月 北海道根室市
英名Long-tailed Duckの由来となった、長い中央尾羽は、対の右側が短い。事故か何かで抜けたのだろうか?
三つ目は前二者の中間ともいえるもので、水中での推進力は翼と脚の両方で、潜水時に翼は軽く開いている。跳躍を伴うことが多いが、その程度は種によりまたケースによりまちまちで、一般に最初のグループほどの勢いは無い。ビロードキンクロやシノリガモがこの仲間で、実見したことは無いがケワタガモの仲間もこれに属するらしい。また、厳密には翼と併せて推進力となる脚が水面下にある点で、コオリガモもこちらに属する(ウミスズメ類は脚を後方に向ける)のだが、跳躍無しで翼を半開きで潜るその方法は、ウミスズメ類により近く見える。マガモやヒドリガモなどの普通は潜水しない淡水ガモ類が、浅い水底の水草などを潜水して食べる場合は、これに近い潜り方をする。おそらく跳躍による第一の方法では、浮力がありすぎてすぐに浮上してしまうので、翼で勢いをつけるのであろう(「ヒドリガモの潜水採餌」、「マガモの変則的採餌法」の記事も参照)。
シノリガモ(メス)
2008年2月 北海道幌泉郡えりも町
この仲間で面白いのがビロードキンクロ属で、ビロードキンクロとアラナミキンクロはこの方法で潜るのに、クロガモは最初の方法、すなわち翼を開かずに跳躍することによって潜水する。クロガモとビロードキンクロにみられる、環境の好みや習性上の違いは、潜り方の違いと関連しているのかもしれないが、残念ながら詳しいことは現時点ではわからない。また、コリンズのバードガイドでは、これら3種の潜り方の違いが図示されており、軽い跳躍を伴うアラナミに対してビロードは跳躍しないとなっているが、後者でも軽い跳躍を伴うことがあるのは冒頭の写真の通りである。ヨーロッパと日本のビロードキンクロは亜種が異なっており、潜り方の違いが亜種間の差なのか、時と場合によるのかは不明だ。
ビロードキンクロ(オス)
2008年2月 北海道幌泉郡えりも町
ヨーロッパや西アジアの基亜種fuscaは、東アジア産亜種stejnegeriでは赤と黄色の嘴の部分が、黄色である。
上記三種が主な潜水法であるが、カイツブリは少々特殊な潜り方をする。目の前にいたカイツブリが、音も無くスッと水中に消えてしまった経験をお持ちの方もあろう。これはカイツブリが、密生した羽毛の間にある空気を排出して、気嚢を空にするだけで潜水できるからである。カイツブリ類は全般にこの方法を行うとされるが、ミミカイツブリやアカエリカイツブリのような中・大型種では、普段の採餌には第一の方法(翼を閉じて勢い良く跳躍)を用いることが多く、人間や外敵の接近などで緊急に潜水する時にこの独特の方法を執るように感じる。また、カワアイサもカイツブリのように静かに水面下に消えてゆくことがあるが、こちらについてはもう少し観察を積むこととしたい。
潜水するカイツブリ
2006年12月 群馬県伊勢崎市
「モグリッチョ」の記事も参照。
遠くの波間に浮き沈みする海鳥の、潜る瞬間をじっくり観察するのは難しいが、鳥との距離が近く、波も穏やかな漁港や内水面なら手に取るように見ることができる。時には水中での行動も見える場合がある。冬の水鳥観察のオプションとして、是非お勧めしたい。
内陸の潜水手たち
2008年2月 北海道中川郡幕別町
頭の赤いのがホシハジロのオス。その右後方がクビワキンクロ・オス。他はキンクロハジロ。
(2008年2月23日 千嶋 淳)
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