鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

他力本願?(10月22日)

2010-12-03 22:38:53 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
牧草地の上を飛ぶハイイロチュウヒ・オス 2010年10月 北海道十勝川下流域)


 まだ15時前だというのに西に大きく傾いた陽と、牧草地や畑を渡る冷たい風は紛れもなく10月下旬のものであった。牧草は例年に比べて聊か背の高い気がする。既に何度かの刈り入れを経ているはずだが、今年の夏から秋の高温が生育を促したのかもしれない。そんな秋も後半の風景を背に、2羽のハイイロチュウヒのオスが飛んでいた。ハイイロチュウヒ自体は数少ない旅鳥または冬鳥として毎年渡来するが、大抵はメスまたはそれに類した羽色の幼鳥である。青灰色と黒、白のコントラストが美しいオスが、それも2羽同時に現れるなどというのは、そうあることではない。

ハイイロチュウヒのオス
2010年4月 北海道中川郡豊頃町
本種は十勝地方では9月末に渡来し、4月下旬まで見られる。渡来数は年により異なる。
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 はじめ互いに比較的近い距離を飛翔し、攻撃的な絡みも見せた2羽は徐々に距離を離してゆく。ただし、やっていることは同様で、農耕地の上を低く掠めるように飛び、時々停空飛翔や地上への突っ込みを繰り返している。たまにその先から小鳥、距離があるので正確にはわからないがタヒバリやカワラヒワと思われる、が飛び出して全速力で捕食者から逃げてゆく。生と死のせめぎ合いにしばし見入っていると、興奮のため見逃していたと思われるあることに気が付いた。


停空飛翔しながら地表を窺うハイイロチュウヒのオス
2010年10月 北海道十勝川下流域
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 双眼鏡の視野内を、コチョウゲンボウがやたらと横切るのだ。最初は偶然かと思っていたが、ハイイロチュウヒが低空飛翔や地上への突撃など獲物を仕留めそうになった時に特に、右から左から1羽のコチョウゲンボウ(メスまたは幼鳥)が弾丸のごとく飛来して、疾風よろしくハイイロチュウヒの傍を吹きぬけてゆく。何度か観察するうちに、これはハイイロチュウヒから逃れて飛びだした小鳥を狙っているのではないかと考えるようになった。なるほど、これならハイイロチュウヒに付き纏うかのように視野に入って来るのも納得がゆく。


ハイイロチュウヒ(オス)とコチョウゲンボウ(メスまたは幼鳥)(その1)
2010年10月 北海道十勝川下流域
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 その後、コチョウゲンボウが付き従っていた1羽目のハイイロチュウヒが獲物を捕えて、地上での捕食に入ったと思われる(草丈が高く、詳細は観察できず)と、今度はまだ飛びながら狩りをしていた2羽目の方に移行し、やはり右から左から、ハイイロチュウヒの近くを掠めるようになった。結局、こちらのハイイロチュウヒは獲物を仕留めることなく視界の外に飛び去ってしまい、コチョウゲンボウもそれに追随したので、コチョウゲンボウの企てが成功したかはわからない。


ハイイロチュウヒ(オス)とコチョウゲンボウ(メスまたは幼鳥)(その2)
2010年10月 北海道十勝川下流域
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 それでもこのような行動を示すということは、過去にそれによって狩りに成功した経験があるということなのだろうか。確かに両種とも中継地や越冬地では農耕地や原野、草原など開けた環境を好み、獲物は小鳥類が多い(ハイイロチュウヒでは小型哺乳類も重要な餌であるが)点は共通している。ただ、狩りの方法はまったく異なっていて、ハイイロチュウヒが上述のように地表近くを飛びながら、餌に突っ込んで捕えるのに対して、コチョウゲンボウは小さくて小回りの効く体を活かして、主として空中での追撃や不意打ちを得意とする。そこで、ハイイロチュウヒの捕りこぼした獲物を空中において失敬するといったような方法が発達したのかもしれない。それを表題では「他力本願」と呼んだが、たとえ他者が捕りこぼした獲物でも、その後自身が追跡・捕獲しなければならないのだから、強ちそうとばかりも言えないと思い、「?」を付しておいた。


ハイイロチュウヒ・オス
2010年10月 北海道十勝川下流域
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コチョウゲンボウ

オス
2009年2月 北海道中川郡豊頃町
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メス
2008年4月 北海道十勝郡浦幌町
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追記:この秋の十勝川下流域では、ハイイロチュウヒ・オスの通過数が多かったようで、例年の傾向に反してメスタイプよりも頻繁に見られた。11月に行われた日本野鳥の会十勝の探鳥会や第6回十勝川エコツアーにおいても、美しいオスを全員で観察することができ、至福の思い出となった。


(2010年12月3日   千嶋 淳)



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