鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

飯綱(10月14日)

2008-11-02 14:05:44 | 自然(全般・鳥、海獣以外)
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All Photos by Chishima,J.
駈けるイイズナ 以下すべて 2008年10月 北海道十勝管内)


 定点調査の午後二時過ぎは正直辛い時間である。鳥の動きもほとんど無く、人間側は昼食で満たされた食欲に続いて睡眠欲が台頭してくる。定期的に襲って来る睡魔を振り払いながら、秋の午後は厭味なくらい緩やかに過ぎて行く。時折遠くでタンチョウが甲高く鳴く以外は静かなものだ。あと半月もすれば北風の音が鳴り止まぬ季節だが、その直前はこうも穏やかなものか。

 ふと視界の片隅の地面を、何か小さいものが這っている。
「毛虫??」
眠気で呆けた頭で一瞬思ったが、そこまで小さくはないようだ。それに形もどうも哺乳類ぽい。
「トガリネズミだろうか?」
 双眼鏡を手にとって覗くと、小さいながらも立派なイタチの形・顔をしている。イイズナだ!
 慌ててカメラに持ち替えるが動きは早く、なかなか追い切れない。そうこうしている内にどんどん近付いてきて、定点としている車の下に入ってしまった。後に残されたのはただ静寂のみ。

こちらに近寄って来るイイズナ
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「あのまま行ってしまったのか…」
不安と一縷の望みと共にそっと車を降り下を覗き込むと、イイズナはまだいた。しかも上半身を起して周囲を観察している。写真を撮ろうとしたが、近過ぎて望遠レンズの最短焦点距離を切ってしまっている。こうなったら瞼を通して脳裏に焼き付けておこう。それにしても何て大きな頭部なのだろう。或いは下半身が小さいのか、頭部が体の半分を占めているようにも見える。そして黒くつぶらな瞳は何と可愛らしいのだろう。


立ち上がって周囲を確認(イイズナ
右上に写っているのは車輪。
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 暫く周囲の確認をしていたが流石に人の気配を察したのか、最寄りの叢に向けて駈け出した。一度走り出すとそのスピードの速いこと。細長い体をくねらせながら一目散に駈けて行く。この間凡そ一分ほど。私の手元に残ったのはピンボケ・ブレブレの写真ばかりだったが、それを悔しく感じさせない、幸せな出会いであった。捕獲された個体や目の前を一瞬で駈け抜けて行ったもの等を除いて、初めてこの動物をじっくりと観察できた瞬間だったのだから。
 頭胴長が20㎝にも満たない、愛嬌たっぷりのこの小型哺乳類は、飛び立つライチョウ類を襲って空中戦の挙句落としたとか、馬小屋に入り込んだだけで馬が恐れおののき動けなくなるといった伝説に事欠かない、獰猛なハンターでもある。


一目散(イイズナ
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(2008年11月2日   千嶋 淳)


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